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積極的疫学調査の情報に基づく新型コロナウイルス感染症の2次感染時期の分布

(IASR Vol. 42 p129-130: 2021年6月号)

 
はじめに

 感染者(一次感染者)の発症日を起点として, 感染者が被感染者(二次感染者)と接触し感染させた時点までの日数の分布から, 感染性を有する期間を推定することができ, 濃厚接触者を定義するうえで有用な情報となる。本稿では, 感染者-被感染者のペアごとに算出した日数の分布を2次感染時期(infectiousness profile)と呼ぶこととする(図1)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の2次感染時期を数理モデルで推定した海外の報告では, 感染者の潜伏期間中(つまり発症日以前)に接触した場合でも感染しうるとされており, 発症2日前までの接触者を濃厚接触者とすることが多い。しかし, 国内外の実測データを用いた報告はほとんどない。そこで今回, 福岡市で実施された積極的疫学調査の情報を用いて2次感染時期を推定したので報告する。

方 法

 福岡市において2020年2月19日~11月15日までに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された3,192名に対して実施された積極的疫学調査の調査票(行動歴と接触者情報)を基に, 接触場所や接触日が明確な感染者-被感染者のペアを抽出した。家庭, 職場, 病院, 施設などで複数回接触した可能性がある症例や, 接触した日が記載されていない症例, 疫学調査票がない症例は, 感染日を明確に特定できなかったため本解析からは除外した。被感染者は, 濃厚接触者としてPCR検査が実施され, 検査陽性となった症例と定義した。また, 感染者は基本的にペアの中で最初に診断された症例と定義したが, 被感染者の方が先に感染していたが診断が遅れた可能性も考えられる。感染者が被感染者よりも先に感染していた症例を区別するため, 「感染者が被感染者と接触する前に別の感染者と接触していたか, あるいはクラスターと関連があった」場合(図2で図示)とを分けて解析した。この感染者と被感染者のデータを用いて, 感染者の発症日を起点とし, 感染者と被感染者が接触した日までの日数の分布を2次感染時期として算出した(図1)。

結 果

 調査対象期間中に福岡市で診断されたSARS-CoV-2感染者3,192名から, 調査票の記載に基づいて176の感染者-被感染者のペアを特定し, そのうち福岡市で診断された感染者125名を対象に本解析を行い, 2次感染時期の分布 (図2)を示した。

 感染者125名のうち3名は症状不明, もしくは発症日の記載がないため解析から除外した。図2に感染者の発症日から被感染者と接触した日までの日数(2次感染時期)の頻度分布を示した。感染者が発症する前に被感染者と接触した場合は, マイナスで示した。は感染者が被感染者と接触する前にすでに感染していた可能性が高い症例を示している。

 2次感染時期は, 全体では平均-1.10 (標準偏差2.05)日であり, 接触前にすでに感染していた可能性が高い症例に限定すると, 平均-0.85(標準偏差1.97)日であった。感染者全体の71%(87/122)は発症前日までに被感染者と接触しており, 発症前日に被感染者と接触した割合が33.6%で最も高かった。また, 感染者から被感染者への感染伝播経路が明確な事例に限定しても, 15%(6/39)の感染者が, 発症3~5日前の接触で被感染者に感染させていたことがわかった。しかし, それぞれの事例を詳細に検討すると, 感染者と被感染者が同時に感染した可能性や, 初発例が複数(co-primary case)ある可能性を完全に除外できない事例もあり, 2次感染時期の明確な特定には限界があった。

考 察

 本解析の結果から2次感染時期の分布をみると, 感染者が発症する前の接触によって二次感染した事例は多く, 発症前日の接触が最も感染リスクが高かった。He Xら1)が行った世代間隔と潜伏期間を使った統計学的な推定によると, すべての二次感染のうち, 発症する前の無症候期の感染者から二次感染した割合は44%(95%CI: 30-57%)を占めており, 本報告の結果はこれと矛盾しない。ただし, 本解析は感染対策が行われている環境下で実際の2次感染時期の分布を調べたものであることから, 結果の解釈には注意を要する。発症後に接触して感染させた割合は低かったが, これは発症後に感染性が低下したというよりは, 発症後の外出自粛や隔離によって接触機会自体が減った, あるいは社会的望ましさのバイアスから感染者が発症後の行動歴を正確に申告していなかった可能性があり, 感染リスクが過少評価されていることを考慮する必要がある。一方, 発症3~5日前の接触による二次感染の頻度は高くないものの観察されていることから, この期間に会食やドライブなどの感染リスクの高い行動があった場合には, 感染の可能性を考慮する必要がある。

 謝辞:本調査にご協力いただきました福岡市役所, 市内各区保健所, 福岡市保健環境研究所の皆様, 医療関係者の皆様に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. He X, et al., Nature Publishing Group 26(5): 672-675, 2020

福岡市保健福祉局新型コロナウイルス感染症対策担当 
国立感染症研究所感染症疫学センター 
国立感染症研究所実地疫学研究センター 

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