国立感染症研究所

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新型コロナウイルス感染症の変異株別, 濃厚接触者基本属性別, 接触場所別二次感染率

(IASR Vol. 43 p42-43: 2022年2月号)

 
はじめに

 本解析の目的は, これまで収集された積極的疫学調査情報を集約し, 濃厚接触者の基本情報と接触場所から変異株の感染性や感染者の特徴を明らかにすることである。これまでに積極的疫学調査情報を基にした二次感染率を報告1, 2)してきたが, 今回は, 特に感染伝播性が高いL452R変異を有するデルタ株と呼ばれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(L452R変異株)の二次感染率を従来株やN501Y変異株と比較検討した。

方 法

 2020年7月1日~10月31日(コホート1)と2021年4月1日~4月30日(コホート2), 2021年7月3日~8月15日(コホート3)までの3期間に富山県A市で実施された積極的疫学調査のデータを集約し, 分析を行った。当該期間中に国立感染症研究所が公開している「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」の定義に基づき3), 感染可能期間とされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の発症2日前から隔離開始までに接触したと判断された濃厚接触者に対してSARS-CoV-2のPCR検査を実施した。また, 衛生研究所はこれまで流行株に応じて変異株のスクリーニング検査を実施してきた。本解析では, コホート1の感染者またはコホート2でN501Y変異株スクリーニング陰性の場合を「従来株」, コホート2でN501Y変異株陽性の場合を「N501Y変異株」と定義した1, 2)。また, コホート3はアルファ株からデルタ株へと流行株が置き換わっていた時期で, L452R変異株スクリーニング検査が実施されていたことから, L452R変異株検査陽性を「L452R変異株」, 検査陰性を「N501Y変異株」とした。また, 変異株のスクリーニング検査未実施の場合でも, 変異株陽性者と接触し感染していた場合は, 同一の変異株感染とみなした。これらの定義を基に濃厚接触者を接触株ごとに分類し, 濃厚接触者の基本属性別, 接触場所別二次感染率(PCR検査陽性率)を算出した。また, ポアソン回帰分析で従来株やN501Y変異株の二次感染率と比較したL452R変異株の相対リスクを求めた。ただし, 濃厚接触者のうち, PCR検査結果不明症例, ワクチン被接種者は解析から除外した。

結 果

 コホート1から3までの濃厚接触者のうち, 従来株感染者に接触した濃厚接触者は585名, N501Y変異株濃厚接触者は840名, L452R変異株濃厚接触者は752名であり, それぞれの二次感染率は12.0〔95%信頼区間(95%CI):9.4-14.9〕%, 12.3(95%CI:10.1-14.7)%, 20.1(95%CI:17.3-23.1)%であった。L452R変異株濃厚接触者の基本属性別二次感染率を従来株やN501Y変異株と比較すると, 0-39歳の若年層で特に二次感染率が上昇していた(表1)。感染者の年齢, 性別, 症状の有無, 濃厚接触者の年齢, 性別で補正した後のL452R変異株の二次感染相対リスクは, 従来株と比べて1.89倍(95%CI:1.45-2.46), N501Y変異株と比べて1.28倍(95%CI:1.00-1.63)であった(表2)。

 接触場所ごとの二次感染率は, L452R変異株感染者の同居家族内(家族以外の同居人を含む)が29.2%と最も高く, 従来株と比較して2.40倍(95%CI:1.62-3.56), N501Y変異株と比べて1.55倍(95%CI:1.07-2.26)リスクが上昇した。同居以外の接触場所でもL452R変異株の濃厚接触者は感染リスクがN501Y変異株や従来株よりも高くなる傾向がみられた(表2)。

考 察

 本調査では, L452R変異株感染者からの感染リスクは従来株と比較し1.89倍, N501Y変異株と比較し1.28倍上昇していた。コホートの時期によって検査対象者が変化した可能性が考えられるが, 濃厚接触者の定義がより一定な同居家族に注目した場合でも, N501Y変異株と比較したL452R変異株の感染リスクは1.55倍上昇していた。この結果は, 同居家族内のデルタ株の感染性がアルファ株と比較し1.70倍上昇していたと報告された英国の研究と同様の結果であった4)。また本調査では, 0-39歳の若年層の二次感染率がデルタ株で高い傾向にあったが, 60歳以上ではN501Y変異株と比べてL452R変異株の二次感染率は減少していた。この理由として, 7月2日時点で60歳以上の27.2%が2回ワクチン接種を完了していたことを考慮すると, ワクチン接種者を完全に解析から除外できておらず, ワクチン効果が結果に影響を及ぼした可能性が考えられる。

 

参考文献
  1. 田村恒介ら, IASR 42: 104-106, 2021
  2. 田村恒介ら, IASR 42: 236-237, 2021
  3. 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2020年5月29日暫定版, 2021年1月8日暫定版)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/10800-covid19-02.html(Accessed January 16, 2022)
  4. Allen H, et al., The Lancet Regional Health Europe, doi:2021
    https://doi.org/10.1016/j.lanepe.2021.100252

富山県衛生研究所         
 田村恒介 加藤智子 谷 英樹 大石和徳            
国立感染症研究所感染症疫学センター
 宮原麗子 大谷可菜子 髙 勇羅 鈴木 基

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