国立感染症研究所

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札幌市における2020年4月以降の新型コロナウイルス感染症再流行の特徴

(IASR Vol. 41 p127-129: 2020年7月号)

2020年2月14日に札幌市で初めて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例が確認されて以降1), 市内では散発的に症例が発生し, 2月28日に北海道で緊急事態宣言が出された。症例発生はその後小康状態となったが, 4月以降再び増加してきた。その原因や背景を探るため, 3月以前と4月以降に発症した症例に関し, 孤発症例と2例以上の症例集積を認めた症例の特徴を比較した。

2020年2月14日~5月17日までにRT-PCRでSARS-CoV-2感染が確認されたCOVID-19症例のうち, 5月17日時点の疫学的リンクが確認されなかった症例に関し, 患者調査票から基本情報(性別・年齢・居住地・職業)および行動歴を2020年1月31日~3月31日に発症した症例(第1波)と, 4月1日~5月17日に発症した症例(第2波)とで比較した。疫学リンク不明例は孤発例や集積症例の初発例, および1週間以上調査しての感染源不明症例とした。職業・行動歴は, 会社関係者・接客業, 医療・福祉サービスの提供・受給, 無職, その他, に分類した。両群の比較はFisher正確検定, 有意水準は0.05未満とし, 多重比較はBonferroni補正を行った。

第1波では報告された100症例中30例(30%), 第2波では報告された464症例中116例(25%)が疫学リンク不明例であった()。性別では男性が, 第1波は21例(70%), 第2波は74例(64%)で両者に違いを認めなかった(p=0.67, )。年齢の中央値は, 第1波は54歳(範囲24-82), 第2波は56歳(同1-94)で, 両者に違いを認めなかったが(p=0.62), 第2波では60歳以上の高齢者が目立った。第2波でリンク有の390症例のうち212例(54%)が医療機関・施設関連の症例であった。職業・行動歴は, 第1波に比べ第2波では, 「医療・福祉サービスの提供・受給」が増加(30%→57%, p=0.005)していた。なお, 「無職」では8割以上が60代以上の人々であった。第2波の前半(4月1日~4月26日)に発症した85症例の行動歴では夜の街の店舗利用が22例あり, うち17例が会社関係者・接客業者であった。また, 第1波では確認されていなかった昼間に飲食店等でカラオケをしていたことが原因と考えられた症例が4例あり, いずれも高齢者(年齢中央値70.5[範囲69-75])であった。一方, 第2波の後半(4月27日以降)に発症した31症例では, 20例が無職で, その大半(18例)が通院を要する何らかの既往歴があり, また介護サービス利用者が6例, 医療従事者(医師・看護師)の感染者も3例みられた。カラオケ利用者は1例であった。発症から調査開始までの所要日数(中央値)は第1波では9日(範囲6-17), 第2波では8日(範囲2-12)であり, 第2波で短くなっていた(p<0.01)。

第2波の前半では, 主に会社関係者・接客業者の夜の街の店舗利用を通じた感染や, 高齢者の昼カラオケの利用が患者発生に寄与していた。第2波の後半では, 主に医療機関または介護サービス利用等を通じて, 感染が拡がった可能性が考えられた。この中には, 医療・福祉サービスを提供する側, 受給する側の感染例のどちらも含まれていた。第2波では, 60歳以上の無職の症例が散見されており, 医療や福祉サービス受給者の症例の多さとも合致していた。また, 札幌市保健所では4月下旬に対策本部が立ち上がり, 第2波では発症から調査開始までの時間が改善しており, 調査と対応の効果と効率が改善していた。本解析の制約として, 臨時職員による聞き取りにばらつきがあり, 4月以降の方がより詳細な疫学リンクの確認ができているという情報バイアス, 4月以降市内検査可能検体数が増加し, より検査が受けやすい状況になってきたという検出バイアスがあり得ると考えられた。

国内では緊急事態宣言が解除された後, 各地で散発例が確認されており, 次の流行がいつ始まってもおかしくない状況である。札幌市でのCOVID-19アウトブレイク第2波の特徴から, 次の流行への備えの手掛かりが得られると考えられた。特に, 医療・介護施設における流行の備えをすることが喫緊の課題であり, 各地で準備を進める必要がある。

 

参考文献
  1. 厚生労働省 新型コロナウイルスに関連した患者の発生について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09539.html
 
 
札幌市新型コロナウイルス感染症対策室  
 山口 亮 東小太郎 小野嵩史 川西稔展 千葉紘子
 寺田健作 中西香織 藤川知子 三觜 雄 矢野公一          
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)    
 門倉圭佑 黒澤克樹 鵜飼友彦     
同薬剤耐性研究センター         
 黒須一見 山岸拓也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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