
茨城県における新型コロナウイルス感染症流行第1波の記述疫学
(IASR Vol. 41 p149-151: 2020年8月号)
茨城県では2020年3月17日に初めて本疾患患者が確認され, 5月4日までに168例の報告があった。それ以降, 患者報告がない状態が6月18日まで続いている。
今回, 感染症発生届および保健所が実施した感染症発生動向調査で収集された情報をもとに, 3月17日~5月4日に報告があった168例を第1波と定義し, この間の本県の記述疫学を以下報告する。
患者情報
3月17日~5月4日に本疾患の感染が確定された168例を対象とした。対象は, すべて常法(国立感染症研究所法)による定量リアルタイムRT-PCR検査(以下PCR検査)により確定した。
まず, 患者性別は, 男性82例(48.8%), 女性86例(51.2%)で, 男女差は認められなかった。
患者年齢中央値は48.0歳(範囲0-98歳)であった。年代別分布は10歳未満2例(1.2%), 10代5例(3.0%), 20代33例(19.6%), 30代26例(15.5%), 40代26例(15.5%), 50代21例(12.5%), 60代16例(9.5%), 70代15例(8.9%), 80代15例(8.9%), 90歳以上9例(5.4%)であった。なお, 65歳以上の高齢者は50例(29.8%)であった。
推定感染経路
患者との接触歴が明らかな者は119例(70.8%), 接触歴が不明な者は49例(29.2%)であった。
接触歴が明らかな者119例の内訳は, 県内発生のクラスター関連78例(65.5%), 家族23例(19.3%), 職場同僚6例(5.0%), その他12例(10.1%)であった。
また, 接触歴が不明な者49例の内訳は, 首都圏への移動歴あり(通勤等)21例(42.9%), 渡航歴あり3例(6.1%)(ヨーロッパ渡航2例ならびにアジア渡航1例), 県外の移動歴なし25例(51.0%)であった。
臨床症状
感染症発生届に症状の記載があった者(以下, 有症者)は142例, 無症状病原体保有者(以下, 無症状者)は26例であった。無症状者はすべて接触者調査によりPCR検査を実施し確定した症例であった。
有症者142例は, 3月5日~5月2日に発症しており, 発症者数のピークは4月1日(14例)であった(図1)。発症から診断(陽性確定)までにかかった日数の平均は5.5±4.0日(平均±1SD)であった。症状(重複あり)は, 発熱が最も多く124例(87.3%), 次いで咳嗽81例(57.0%), 上気道症状(咽頭痛や鼻汁等)41例(28.9%), 頭痛30例(21.1%), 肺炎18例(12.7%)ならびに味覚・嗅覚症状18例(12.7%)であった。
人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を使用した重症例は8例(4.8%, 8/168)で, 糖尿病, 高血圧あるいは腎疾患等の基礎疾患を有していた。7例が軽快し, 1例が死亡した。死亡した1例は, 基礎疾患治療のため免疫抑制剤を使用していた症例であった。
死亡者数は10例(6.0%, 10/168)で, 全員に糖尿病, 高血圧あるいは腎疾患等の基礎疾患があった。
次に, PCR検査により陰性化を確認した例は104例で, 発症から陰性化するまでの日数は, 20日以内22例, 21~30日37例, 31~40日29例, 41~50日13例ならびに51日以上3例であり, 29.3±10.7日(平均±1SD)であった。
小規模集団発生事例
疫学的関連が明らかな小規模集団発生(クラスター)は, 5事例あった。クラスターの内訳は, 医療機関2事例, 高齢者施設1事例, 障害者施設1事例ならびに職場同僚・家族・友人に感染が広がったものが1事例であった。
クラスター関連患者総数は, 82例(初発患者含む)であり, 無症状者の割合は, 24.4%であった(図2)。年齢中央値は, 有症者48.5歳(範囲19-91歳), 無症状者65.5歳(範囲0-98歳)であった。
まとめ
茨城県の第1波における発症者数のピークは4月1日と推定され, これはほぼ全国と同様であった(図1)。また, 患者の年齢分布は20代が最も多く, 全国と同様の傾向を示していた1)。
重症例や死亡例の多くは基礎疾患を有しており, 基礎疾患を有する者は重症化するリスクが高い可能性が再確認された。
また, PCR検査において, 発症から陰性化が確認されるまで, 平均1カ月程度要しており, 療養あるいは行動制限が長期にわたっていたことも推定された。このことが, 本県の本疾患流行第1波において, 入院病床確保に困難をきたしていた1つの要因であったと考えられた。
さらに, 感染経路については, 接触歴が不明な患者のうち首都圏移動者が半数を占めており, 本県の第1波流行は, 首都圏からの感染流入が主たる原因である可能性が示唆された。よって, 今後も県内と併せて首都圏の発生動向を注視していく必要があると思われる。
加えて, クラスター関連の接触者調査におけるPCR検査の結果, 無症状者が2割程度含まれていたことから, 症状がない場合でも日頃からマスクの着用や手洗いなどの予防対策が重要であると考えられる。今後, これらの解析データを利活用し, 本疾患の次なる流行に備えることが必要であろう。
謝辞:ご協力いただきました県各保健所および水戸市保健所の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 国立感染症研究所感染症疫学センター, IDWR, 2020年第23号, <注目すべき感染症> 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/9688-idwrc-2023.html