注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
新型コロナウイルス感染症は、2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認された。世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日、新型コロナウイルス感染症について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。その後、世界的な感染拡大の状況、重症度等から3月11日新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明した。
2020年6月10日12時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で7,318,329例(415,097例)、205カ国・地域に広がった。感染者数が5万例を超えたとして報告のあった国は23カ国あり、米国1,999,552例(112,895例)、ブラジル772,416例(39,680例)、ロシア493,023例(6,350例)、英国290,143例(41,128例)、インド276,583例(7,745例)、スペイン242,280例(27,136例)、イタリア235,763例(34,114例)、ペルー207,794例(5,862例)、ドイツ186,522例(8,752例)、イラン177,938例(8,506例)、トルコ173,036例(4,746例)、フランス155,136例(29,319例)、チリ148,456例(2,475例)、メキシコ129,184例(15,357例)、パキスタン113,702例(2,255例)、サウジアラビア112,288例(819例)、カナダ97,125例(7,960例)、中国83,057例(4,634例)、バングラデシュ74,865例(1,012例)、カタール73,595例(66例)、ベルギー59,569例(9,629例)、南アフリカ55,421例(1,162例)、ベラルーシ51,066例(282例)であった。
国内では、厚生労働省からの報道発表によると、2020年6月10日24時現在、新型コロナウイルス感染症のPCR検査陽性者17,292例、うち死亡者920例と報告されている。PCR検査実施人数は328,730例であった。また、2月3日に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」については、6月10日24時現在、PCR検査陽性者712例、うち無症状病原体保有者331例、死亡者13例であった。なお、国内外の患者数等に関する情報は刻々と変わっていることに注意されたい。
本稿では、2020年2月1日に新型コロナウイルス感染症が指定感染症となった以降、第23週(2020年6月10日)までに感染症発生動向調査(NESID)へ届け出られた17,264例(患者15,286例、無症状病原体保有者1,947例、感染症死亡者の死体31例)(以下、症例という)に関する記述疫学を行う。なお、本症については、サーベイランスシステムが届出に対応可能となった以降に届け出られた情報のみ反映されていることから、国や自治体の報道発表情報と必ずしも一致しておらず、注意が必要である。すなわち、以後の情報はNESIDに届け出られた症例全体の内訳であり、また、自治体による確認が行われていない報告は含められていない。 |
また、令和2年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、6月10日現在、移行可能な自治体から順次、移行がおこなわれているところである。厚生労働省においては、今後の統計情報の集計等については、HER-SYSに入力された情報に基づいて行うことを基本とするとしている。本稿では、NESIDに対する届出情報のみが対象であり、HER-SYSへの届出情報は含まれていない点で注意が必要である。
症例の性別は、男性9,466例、女性7,798例(男女比1.2:1)であり、男性に多かった。
年齢の中央値は49歳(範囲0〜104)であった。年代別分布は10歳未満287例(1.7%)、10代413例(2.4%)、20代2,823例(16.4%)、30代2,602例(15.1%)、40代2,655例(15.4%)、50代2,799例(16.2%)、60代2,032例(11.8%)、70代1,862例(10.8%)、80代1,258例(7.3%)、90代以上533例(3.1%)であった。
主な症状(重複あり)は、届出時点で発熱12,847例(74.4%)、咳7,352例(42.6%)、咳以外の急性呼吸器症状1,521例(8.8%)、重篤な肺炎1,177例(6.8%)であった。
届出都道府県は、東京都5,517例、神奈川県1,879例、大阪府1,804例、千葉県1,009例、埼玉県1,004例、北海道947例、福岡県758例、兵庫県703例、愛知県516例、京都府358例、石川県296例、富山県226例、茨城県169例、広島県153例、岐阜県152例、群馬県149例、沖縄県142例、福井県98例、滋賀県98例、奈良県89例、宮城県88例、新潟県83例、愛媛県82例、福島県81例、長野県76例、静岡県75例、高知県74例、山形県67例、栃木県66例、和歌山県65例、大分県56例、山梨県45例、三重県45例、熊本県45例、佐賀県42例、山口県37例、青森県27例、岡山県25例、島根県24例、香川県22例、長崎県21例、宮崎県17例、秋田県16例、鹿児島県10例、徳島県5例、鳥取県3例であった。
国内では、3月上旬から海外との関連が疑われる事例が増加してきた。また、感染源不明の症例が散発的に発生し、3月中旬には感染源不明の症例の数およびその占める割合が継続的に増加してきた。3月下旬には、都市部を中心にクラスター(患者間の関連が認められた集団)感染が次々と報告され、感染者数が急増した。6月10日現在、NESID上、報告の最も多かった日は4月9日(655例)、発症の最も多かった日は、4月1日(432例:発症日の判明している症例のみ)であった。今回の流行は、3月中旬から急増し、4月初旬をピークとして、その後減少に転じ、5月中旬に落ち着いたと考えられる(図1、図2)。なお、図1及び図2については、今後の報告により直近の症例が追加されていくため、解釈には注意が必要である。
国内での行政対応については、3月10日、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正が閣議決定され、新型コロナウイルス感染症が新型インフルエンザ等対策特別措置法に規定する新型インフルエンザ等とみなされることになった。3月28日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が発表され、この中では、国民の生命を守るためには、感染者数を抑えること及び医療提供体制や社会機能を維持することが重要であり、「三つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、積極的疫学調査等によるクラスターの発生の封じ込めが推進されている。その後、肺炎等の重篤な症例の発症頻度が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり、かつ感染経路が特定できない症例が多数に上っていること、かつ急速な増加が確認されており、医療提供体制もひっ迫してきていることとして、4月7日には7都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に対して、4月16日には全都道府県を対象に、緊急事態宣言が発出された。各自治体では、国の取り組みに並行して、流行状況に合わせた様々な取り組みが行われた。5月14日、感染の状況、医療提供体制、検査体制の構築などの点が総合的に判断され、北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県の8都道府県を除く、39県において緊急事態宣言の解除が行われた。その後、同様に、分析・評価が行われ5月21日に京都府、大阪府、兵庫県において、5月25日には、すべての都道府県で緊急事態宣言の解除が行われた。5月27日現在、各自治体は、発生状況を監視のもと、一定の移行期間を設け、外出の自粛や施設の使用制限の要請等を緩和しつつ、段階的に社会経済の活動レベルを引き上げているところである。
新型コロナウイルス感染症については、病原体や疾患に関する知見が徐々に蓄積されつつある。飛沫感染・接触感染を主とする感染経路であり、一部の感染者及び感染者の行動や、環境要因によっては強い感染伝播が発生する場合があると考えられている。臨床的な特徴としては、1〜14日(5日間が最も多い)の潜伏期間(2月23日付WHO)を経て、発熱や呼吸器症状、全身倦怠感等で発症する。感冒様症状が1週間前後持続することが多く、この頃より胸部X線写真、胸部CTなどで肺炎像が明らかになることがある。一部のものは、呼吸困難等の症状を呈し、重症化する。また、発症者の多くが軽症であると考えられているが、特に高齢者や基礎疾患等を有する者においては重篤になる可能性があるため厳重な注意が必要である。
●新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年6月11日版)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |