2011年6~11月に手足口病を複数回罹患した患者から検出されたウイルス―神戸市

(IASR Vol. 33 p. 59-60: 2012年3月号)
1.流行状況
2011年6月以降、神戸市の定点当たりの手足口病患者が急増し、感染症発生動向調査における報告数は第28週(7/11~7/17)にはピーク(28.3人)に達した。以降減少したものの、第32週(8/8 ~8/14)は3.0人と終息水準を超えていた。その後1.0人を下回ったのは第39週(9/26~10/2)以降であった()。2010年も、神戸市で第27週に定点当たり7.7人のピークを示し、全国的にもエンテロウイルス71型(EV71)が原因の手足口病が流行していたが、2011年はそれ以上の大流行となった。

手足口病患者およびヘルパンギーナの患者検体が搬入された2011年6~11月の当研究所での検出状況を報告するとともに、同シーズン中に複数回手足口病を発症した患者からのウイルス検出の報告を行う。

2.検出方法
ウイルス分離は4細胞(FL、HEp-2、VeroE6、RD-18S)を使用し、2~3代目まで継代を行った。同時に検体よりRNA を抽出し、Nix らの方法による1,2) エンテロウイルスのVP1領域を増幅するCODEHOP VP1 RT-seminested PCR法を行い、ダイレクトシークエンスによって約290塩基の配列を決定後、BLAST検索を実施し型別を行った。

3.検出状況
手足口病とヘルパンギーナ(発疹症含む)患者検体の搬入があった2011年6月2日(第22週)採取~11月21日(第47週)採取まで、53患者(手足口病47患者・ヘルパンギーナ5患者・発疹症1患者)59検体からウイルスを検出した。内訳は以下のとおりである。コクサッキーウイルスA6型(CA6)を31患者(手足口病29名、ヘルパンギーナ2名)の咽頭ぬぐい液23検体・便3検体・水疱液7検体・唾液1検体より検出した。コクサッキーウイルスA16 型(CA16)を13患者(手足口病13名)の咽頭ぬぐい液13検体・水疱液1検体より検出した。コクサッキーウイルスA10型(CA10)を6患者(手足口病2名、ヘルパンギーナ3名、発疹症1名)の咽頭ぬぐい液6検体・便1検体より検出した。コクサッキーウイルスB3型(CB3:第32週)、B4型(CB4:第28週)、ライノウイルス(第29週)を手足口病各1患者の咽頭ぬぐい液(CB3とCB4)と便(CB3とライノウイルス)より検出した()。

CA6は細胞によるウイルス分離が困難であったため、すべてCODEHOP法で検出した後シークエンスによる型別を行った。CA10は、2検体分離(RD-18S)できたが、他の5検体は分離できず、CODEHOP法で検出を行った。CA16は、10検体VeroE6、RD-18S、FLで分離できたが、咽頭ぬぐい液4検体はCODEHOP法で検出した。分離したウイルス株は国立感染症研究所より分与された中和抗血清で型別同定した。CB3とCB4はFL、HEp-2、VeroE6で分離でき、デンカ生研の中和抗血清で同定した。ライノウイルスはCODEHOP法で検出を行った。

CA6は第22~30週までの累積検出数の82%を占めたが、第31週以降は検出されていない。CA16は流行初期の第22週から少数ながらも検出され、第22~30週までの検出数の13%を占めた。その後第47週(11月21日採取)まで散発的に検出され続けた。またCA10は第33週(8月19日採取)以降みられ、第33~47週までの検出数はCA10が6例、CA16が7例で、CA10とCA16の感染が同時に拡がっていたものと考えられる。

CA6、CA16、CA10の患者年齢の中央値はそれぞれ1.8、2.3、3.5歳であった。CA6は30歳以上の患者も2名含まれており、成人にも感染が広がっていたことが推測できた。またCA6、CA16、CA10の有熱患者の率は84%、46%、83%であった。いずれも無菌性髄膜炎を発症したものは無かった。

CA6による手足口病は皮膚症状が特徴的で、大きい水疱を呈し、数週間たって爪がはがれるなどのケースもあるが、CA16の皮膚症状は従来の手足口病の発疹であった。CA10が検出されたケースはヘルパンギーナが半数を占めた。

4.複数回手足口病に罹患したケース
2011年6~11月の間に複数回手足口病に罹患した患者が7名存在した()。1回目の発症はいずれも第23~28週であった。1回目の発症時にウイルスの検出を実施した患者(ケース6)は1名でCA6であった。ケース2は1回目の発症時にウイルス検出を行っていないが、同時期に発症した弟よりCA6を検出している。ケース1、3、4、7の1回目の検出は未実施であるが、水疱が直径1cm以上で手の皮が剥けたり、1カ月後に爪の脱落があるなど、特徴的な皮膚症状を呈しており、CA6の感染が強く疑われた。

2回目の罹患は6患者がCA16で、1患者がCA10であった。3回罹患した患者(ケース1)は1例(3回目はCA10)存在し、同シーズンに3種類の手足口病ウイルスに続けて感染したと考えられる。

 参考文献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2)西村順裕,他,IASR 30: 12-13, 2009

神戸市環境保健研究所微生物部 秋吉京子 須賀知子
神戸市環境保健研究所企画情報部 森  愛
神戸市保健所予防衛生課 黒川 学

 

2011年に流行した手足口病およびヘルパンギーナからのウイルス検出―島根県

(IASR Vol. 33 p. 58-59: 2012年3月号)
1.患者発生状況と検出ウイルス
2011年、島根県では第26週と第36週をピークとする手足口病の大きな流行があった。年間の報告患者数は3,700人余りと、過去10年間で最も大きな流行であった2003年の報告患者数の2倍以上となった。原因ウイルスとして流行の前半はコクサッキーウイルスA6型(CVA6)、後半はコクサッキーウイルスA16 型(CVA16)が主に検出された()。

一方、ヘルパンギーナの流行規模は小さく、患者数の推移は手足口病とほぼ同様で、第27週と第36週をピークとする二峰性の流行となった。原因ウイルスとして前半はCVA6、後半はコクサッキーウイルスA10型(CVA10)が検出された()。

2.ウイルス検出法の比較
従来、当所では手足口病とヘルパンギーナのウイルス検索は哺乳マウスおよびVero、RD-18S、FL等の培養細胞を用いた分離を行ってきた。しかし、今回の大規模なCVA6の流行で、多数の患者検体が搬入されたため、哺乳マウスでは対応しきれず、エンテロウイルスのVP1 領域を増幅するCODEHOP VP1 RT-seminested PCR1)(CODEHOP PCR)による検体からの遺伝子検出とRD-A細胞2)(国立感染症研究所から分与)による分離を試みた。

1) 材料と方法
5月以降、手足口病と診断された患者の検体136検体(咽頭ぬぐい液123検体、ふん便12検体、髄液1検体)、ヘルパンギーナと診断された患者の検体26検体(咽頭ぬぐい液25検体、ふん便1検体)を用いた。検体量が少なかったり、哺乳マウスの数が限られているため、すべての検出法を試みていない検体もある。

CODEHOP PCRは電気泳動で増幅産物を確認後、ダイレクトシークエンスで約300bpの塩基配列を決定し、BLAST検索等で型別同定を行った。

培養細胞によるウイルス分離は2代まで継代し、CPEが認められない場合、分離陰性とした。分離ウイルスは哺乳マウス由来の株も含め、主に自家製単味抗血清および単味抗マウス腹水で中和後、RD-A細胞上でのプラック減少法で同定を行った。

2)結果
に示すように、CVA6はいずれかの検出法で計79検体から検出されており、このうち、哺乳マウスは34検体を検査したうちの33検体が陽性となった。CODEHOPは塩基配列を決定してCVA6と同定したもの46検体、泳動のバンドが薄かったり、他の検出法で同定済みでシークエンスをしていないもの15検体であった。また、RD-A細胞では36検体からCVA6が分離された。CVA10はRD-A細胞が最も高い検出率であった。CVA16の検出はRD-A細胞がVero細胞より若干高い検出率であった。RD-18S細胞はRD-A細胞でCVA6が分離された20検体について分離を試みたが、すべて分離陰性であったため、以後の検査には使用していない。

主にヘルパンギーナの原因ウイルスであるCVA群のlow numberのウイルスは培養細胞で分離しにくく、哺乳マウスによる分離が最もよいとされている。しかし、計画的に多数の哺乳マウスの入手が難しいこと、同定までの手技が煩雑であることから、今回のような大流行の際には使用しづらい。一方、遺伝子検査は比較的短時間で結果が出せ、感度も良いことから、近年、多用されているが、ウイルスの抗原性などの解析が行えない。今回使用したRD-A細胞はウイルスの種類によって検出率に差異があるものの、昨年流行したCVA6、10、16に関しては分離法として有用と考えられた。今後は他の血清型についての検討が必要である。

 参考文献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2) World Health Organization, Polio laboratory manual, 4th ed. WHO/IVB/04.10, World Health Organization, Geneva, Switzerland, 2004

島根県保健環境科学研究所ウイルスグループ
飯塚節子 木内郁代 日野英輝

 

2010~2011年の手足口病流行の疫学的・ウイルス学的解析―大阪府

(IASR Vol. 33 p. 57-58: 2012年3月号)
2010年および2011年シーズンはそれぞれ手足口病の流行の規模が大きく、特徴的な流行パターンを示した。

そこで、大阪府において2010年および2011年シーズンに採取された手足口病疑い患者検体からのウイルス検出状況および疫学情報の集約、また、分離したウイルスの分子疫学的解析を実施したので報告する。

2010年1月~2011年12月の期間に、大阪府立公衆衛生研究所に搬入された手足口病疑い患者のウイルス検出状況および患者性別および年齢情報を表1に示す。2010年では主原因ウイルスがエンテロウイルス71型(EV71)であり、2011年ではコクサッキーウイルスA6型(CA6)であることがわかる。

次に、この2シーズンに多く検出されたEV71、CA6、コクサッキーウイルスA16型(CA16)の月別検出数を図1に示す。検出法はVP4-2領域のseminested RT-PCR(石古ら, 臨床とウイルス)、細胞培養(Vero細胞、RD-18S細胞)または哺乳マウス接種を実施し、いずれかの方法で陽性となった数を計上している。EV71は2010年7月に検出数がピークとなり、2010年12月以降、検出されなくなった。一方、CA6は2011年7月にピークとなり、2011年9月以降は検出されていない。また、CA6の検出数が減少し始めた2011年8月以降、入れ替わるようにCA16が検出され始め、2011年12月まで検出数が増加した。EV71、CA6の検出状況は全国とほぼ同様の傾向であったが、全国的には2011年8月にピークがあったCA16では異なる傾向を示した。

さらに、ウイルス分離ができたEV71; 10株、CA6; 13株、CA16; 7株についてRT-PCRでVP1領域を増幅し(Oberste MS et al ., J Virol)、ダイレクトシークエンス法で決定した塩基配列について系統樹解析(EV71;615bp、CA6、CA16;356bp)を実施した(図2図3)。

2010年に検出されたEV71は、同年に検出されている大阪市、広島県の株と同じクラスターで、すべてサブジェノグループC2に分類された。また、CA6はこの期間に検出されたすべての株が同じクラスターに分類された。

2010年1月~2011年12月、大阪府では手足口病疑い患者から検出された主なウイルスはダイナミックに入れ替わり、2011年夏期では、通常手足口病の主原因とはなりにくいCA6による大きな流行となった。このように、これまで手足口病の主原因と考えられてきたEV71やCA16と異なったエンテロウイルスが流行に関与した場合、患者数の増加や病態の変化がおこることが考えられるので、今後もウイルス型別を含めたサーベイランスが必要である。

大阪府立公衆衛生研究所
中田恵子 左近(田中)直美 山崎謙治 加瀬哲男

 

第11号ダイジェスト
2012年2月12日~2月18日

2012年11週(第11号)*2月報含む 

 * ダウンロード(48p/1.1MB)

(3月12日~3月18日)発生動向総覧病原体情報(麻しんウイルス)/海外感染症情報〔2012年3月30日発行〕

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IASR Vol. 33, No.3 (No. 385)  March 2012


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