国立感染症研究所

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保育施設における腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例―長崎県

(IASR Vol. 38 p.99-100: 2017年5月号)

県南保健所の管轄地域は3市から構成される人口約14万人の半島地域で, 農業の総生産額は県全体の43.9%を占める農業畜産業が盛んな地域である1)。2016年8月, 県南保健所管内の保育施設において腸管出血性大腸菌O26 VT1陽性(以下EHEC O26)による集団感染事例(感染者12名)が発生したのでその対応について概要を報告する。

 事例の探知および経過

2016年8月16日, 小児科診療所Aから最寄りの保健所である当所へEHEC O26 VT1陽性の5歳の保育施設児1名の発生届があった(発症日8月6日, 初診日8月10日)。症状としては, 水様性下痢, 血便, 発熱を認めた。保健所はただちに積極的疫学調査として, 主治医調査, 患者・家族調査および当該保育施設の調査を実施した。家族等の濃厚接触者については, 同居家族3名および接触のあった親族3名の計6名を検便対象とした。園への初回調査では, 園児の健康状況, 欠席状況, 行事確認, 給食献立の確認を行い, 園内巡視により環境面の調査および消毒等の衛生指導を実施した。また, 感染拡大防止のため, 接触者調査の結果が判明するまでの休園を助言したところ, 保育施設は17日から2日間の休園を判断した。保育施設への聞き取り調査の結果, 直近の2週間は消化器症状の有症状者なしであること, 発症日に園内でプール利用があったこと等の患児の園活動の状況から, 健康調査と検便の対象を3歳児クラス以上の園児30名と職員12名とし, 同日検査を実施した。健康調査の結果, 実際は園児30名中11名が有症者であり, その中には検便対象となっていないクラスに妹弟がいる園児もいることが判明した。そのため感染拡大の可能性があると判断し, 検便対象範囲を全園児と職員に拡大し, 園児23名と職員10名に18日に検査を実施した。発症状況は発症日やクラス別の発生数はピークがなく(), 施設の衛生状況にも特に問題がないため, 食中毒ではなく感染症による感染拡大と推測された。明らかな感染源・感染経路については不明であった。

結 果

検便検査結果は, 対象となった園児57名, 職員22名, 家族等接触者6名のうち, 陽性者は園児12名で(二次感染者), そのうち有症者は10名であった。クラス別では1歳児クラス4名, 2歳児クラス1名, 3歳児クラス2名, 4歳児クラス5名であった。また, 陽性となった12名10家族の濃厚接触者として42名に健康調査・検便検査を実施した結果, 1名が陽性者であった(三次感染者)。陽性者全員医療機関を紹介受診した。また, 重症化した症例はなかった。9月12日, 最後の陽性者の陰性化を確認し事例は終息した。

考 察

全国のEHEC検出例の血清型別臨床症状はO26症例で血便症状は約2割であったとの報告(IASR 37: 87, 2016)があるが, 本事例では初発患者以外の10名の有症者に血便症状はなく, 症状が軽度であるため特定の感染症の発生拡大として認識されにくかったと推察される。また, 感染拡大はクラスを越えており, 他クラスの交流がある活動のひとつにプール活動があった。プールの管理状況としては園内ビニールプールの利用ではクラスごとの水の入れ替えは行われていたが, プールが感染拡大の場になりうることは認知していなかったことや, 患児が有症日にプールを利用していたということがあった。他の事例報告ではプール水が感染の原因と推定されたものもあり2), 日常の手洗いや消毒指導といった衛生指導に加え, 感染経路となるリスクが高い活動については強調した感染予防対策に関する啓発活動が必要である。当保健所管轄地域では, 例年EHECの発生があり, 2014年度には11件で県下発生の4割を占め, また, 発生に伴う検便検査は826件と増加した。そのため2015年度には, 乳幼児等の感染ハイリスク者が集団生活を行う施設の衛生管理の能力や, 発生時の対応能力を強化するため, 保育会連絡協議会や私立幼稚園協会と連携し, 研修会を開催した。また, 集団発生事例については協議会で事例報告を行い, 地域へ情報還元を図っている。今後も継続した効果的な取り組みが必要である。

今回の事例対応においては, 施設への聞き取り調査の情報を元に接触者調査の対象範囲を決定したが, 検便時の保護者への問診から有症者が多数いることが判明し, 調査対象を拡大した。発生時期がお盆直後であり, 施設側がお盆期間中の園児の体調を充分把握できていないことを保健所として予測できていなかったことが一要因と考える。今回は休園期間中に追加調査を実施できたため, 感染のさらなる拡大には至らなかったものの, 調査実施に伴う施設や保護者の負担を最小限にするために, 初回調査での聞き取り調査の内容の解釈は充分検討する必要があると考えられた。

 

参考文献
  1. 島原半島要覧 2016; 長崎県島原振興局
  2. 笠原ひとみら, IASR 34: 132-133, 2013

 

長崎県県南保健所
 市川ひとみ 森 美佳子 黒田美奈子 長野真由美 長山澄彦 篠原梨恵
 松林佑季 杉山園子 渡邊桃子 長谷川麻衣子
長崎県医療政策課 竹野大志

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