国立感染症研究所

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成田空港検疫所で対応した動物咬傷に関わる相談に関する検討 2013年

(IASR Vol. 36 p. 31-32: 2015年2月号、 更新日 2015/7/24)

発症するとほとんどが死亡する狂犬病については、動物咬傷後にワクチンを接種する予防策(rabies postexposure prophylaxis: RPEP)が有効であり、検疫所は国外で動物咬傷を受けた渡航者に対し、必要に応じてRPEPを勧奨している。今回、2013年に成田空港検疫所で対応した国外での動物咬傷に関わる健康相談について検討したので報告する。

対象および方法
2013年に成田空港検疫所健康相談室で帰国時に健康相談を行った有症者(n=5,254)の中で、動物咬傷に関して対応した日本国籍者(健康相談群:n=192, 全相談件数の3.65%)、同一期間に対応した電話相談(n=1,523)の中で動物咬傷に関する相談を受けた例(電話相談群:n=50, 全相談件数の3.28%)を対象とした。健康相談群については、年齢、国外滞在期間、帰国月について、帰国日本国籍者の政府統計1)と比較し、単位帰国者数当たりの動物咬傷数を算出し、特徴を把握した。また、動物咬傷を受けた国、RPEPの状況について検討した。電話相談群については、加えて検疫所によるRPEP対応施設の紹介状況について検討した。

結 果 
健康相談群を年齢10歳ごとに分け、全国帰国者統計による各年齢層10万人当たりの動物咬傷数を算出すると、20代および30代の旅行者が他の年代に比して多かった(図1)。国外滞在期間をみた場合、5日以内の短期旅行者では動物咬傷数が少なく、滞在日数が10日を超える旅行者で多い傾向がみられた(図2)。月別に成田空港帰国者10万人当たりの動物咬傷数を算出すると、8月、9月、12月、1月で多い傾向がみられた(図3)。動物咬傷の頻度の高い国は上位から、タイ、フィリピン、インド、インドネシアの順で、この4カ国で全体の43%を占めた。RPEPが必須と考えられる、WHOによる狂犬病罹患リスク2) が中等度、高度の国で動物咬傷を受けた者は、全体の81%を占めた。その中で渡航中にRPEPを受けていなかった旅行者は56%に上り、RPEPを受けた者の中でも、接種回数の不足が27%にみられた。また、咬傷後1日以上経過してから接種を受けた者が36%みられた。

電話相談群において、動物咬傷が生じた月、国は健康相談群と同じ傾向を示した。狂犬病罹患リスクが中等度、高度の国でRPEPを要する咬傷を受けた40例中、電話相談時にRPEPを受けていなかった例が14例(35%)みられた。この中の4例は相談時に受傷から5日以上が経過していた。これらRPEPを受けていなかった14例全例に、検疫所は速やかなRPEPを勧めるか、帰国が迫っていた者には帰国日にRPEPが可能な施設を紹介していた。

考 察
狂犬病リスクにつながる国外での動物咬傷は、成田空港検疫所が関わった相談だけでも3日当たり2件で、実数はさらに多いと考えられる。相談に至った例においても渡航先でRPEPが必要であったがRPEPを受けなかった例は多く、また、RPEPを受けたが接種までの日数がかかったり、接種回数が不足したりする例がみられたことは、一般に狂犬病のリスクが過小評価されていることを示唆している。

20~30代の青年層で動物咬傷が多かったことは、この年代が動物とより接触しやすい旅行形態を取っている可能性を示唆している。滞在期間が10日を超える旅行者で動物咬傷は多く、滞在期間に比例した増加に加え、長期旅行に特徴的な旅行形態に動物との接触機会を増やす要因がある可能性がある。8月、9月、12月、1月で動物咬傷が多いことは、年末年始や夏季休暇といった観光シーズンの国外旅行者に動物咬傷の頻度が高いことを示唆している。

検疫所は、狂犬病への罹患リスクを伴う動物咬傷の重大性を強調するとともに、動物咬傷の起きやすい条件について国外旅行者に積極的に広報し、動物咬傷を受けた旅行者がRPEPを受けやすいように各国の医療情報について積極的に情報提供しなければならないと考えられた。


参考文献
  1. 法務省 出入国管理統計統計表
    http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_nyukan.html
  2. WHO Global distribution risk humans contracting rabies 2011
    http://www.who.int/rabies/Global_distribution_risk_humans_contracting_rabies_2011.png


成田空港検疫所
    検疫課 磯田貴義 足立玄洋 廣島満子 御手洗 葵 牧江俊雄 古市美絵子
    所 長  原 德壽
名古屋検疫所中部空港検疫所支所
    支所長 本馬恭子

 

 

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