JN.1系統は、スパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統である。L455S変異は標的細胞のACE2受容体への結合能を低下させる一方で、中和抗体による免疫から逃避する可能性を高めることが示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。また、BA.2.86系統に感染したハムスターの血清を用いた実験において、JN.1系統の免疫を逃避する可能性はBA.2.86系統と同等であったと報告されている。XBB.1.5系統やEG.5系統に感染したヒトの血清では、BA.2.86系統及びHK.3系統(EG.5.1系統の亜系統)と比較してJN.1系統の免疫を逃避する可能性が高かったと報告されている(Kaku Y. et al., 2023、 Wang Q. et al., 2023、 Yang S. et al., 2023)。ただし、これらの知見については、査読を受ける前のプレプリント論文を含むことに注意が必要である。一方で、2023年9月に採取された、ワクチン接種歴のある成人の血清においては、BA.2.86系統、JN.1系統に対して免疫を逃避する可能性の上昇は見られなかったと報告されている(Jeworowski LM. et. al., 2024)。 SARS-CoV-2に対する細胞性免疫について、SARS-CoV-2特異的T細胞のBA.2.86系統に対する応答はCD4陽性T細胞で72%、CD8陽性T細胞で89%が保存されると予測されており、安定したT細胞応答が得られると可能性が報告されている(Sette A. et al., 2024)。
日本を含む複数の国で2023年9月以降に接種されているXBB.1.5系統対応1価ワクチンに関して、ワクチン接種者の血清とシュードウイルスを用いた実験ではBA.2.86系統と比較してJN.1系統の中和抗体価が低く、L455S変異がこれに影響している可能性が示唆されている(Kaku Y. et al., 2023)。
XBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種により、JN.1系統に対する中和抗体価の上昇が認められている (Wang Q. et al., 2023)ほか、検査や治療薬への影響について、BA.2.86系統と比較して検査精度、抗ウイルス薬の有効性が低下するという知見はない。 米国疾病管理予防センター(CDC)は上記の結果をもとに、免疫を逃避する可能性は指摘されているもののワクチンへの影響は限定的であるとして、現行のワクチン、検査、治療薬はいずれもJN.1系統に対して有効であるとしている(CDC, 2023)。また、WHOも2023年12月に実施されたTAG-CO-VACの会議を受けた声明の中で、前述の動物及びヒトの血清を用いた実験結果を引用し、知見は限定的であるものの、引き続きXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が推奨されるとしている(WHO, 2023) 。
また、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関して、2023年9月21日から2024年1月14日までに米国内の薬局で実施された無料のPCR検査、抗原検査の結果を解析した結果が報告されている。この中で、S遺伝子標的陰性(S gene target failure:SGTF)により調査当時に米国内で流行していたXBB系統とJN.1系統を区別し、感染予防に対するワクチン効果がSGTFの場合(JN.1系統を含む)49%(95%信頼区間:19-68%)、S遺伝子標的陽性(SGTP)の場合(XBB系統を含む)60%(95%信頼区間:35-75%)であったと報告されている(Link-Gelles R. et al., 2024)。 これらの結果から、XBB.1.5系統対応1価ワクチンはJN.1系統に対して、特に発症予防効果や重症化予防効果において、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できると考えられる 。
Jeworowski LM, Mühlemann B, Walper F, Schmidt ML, Jansen J, Krumbholz A, Simon-Lorière E, Jones TC, Corman VM, Drosten C. Humoral immune escape by current SARS-CoV-2 variants BA.2.86 and JN.1, December 2023. Euro Surveill. 2024 Jan;29(2):2300740. doi: 10.2807/1560-7917.ES.2024.29.2.2300740. PMID: 38214083; PMCID: PMC10785204.
Kaku Y, Okumura K, Padilla-Blanco M, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. Lancet Infect Dis. Published online January 3, 2024. doi:10.1016/S1473-3099(23)00813-7.
Link-Gelles R, Ciesla AA, Mak J, et al. Early Estimates of Updated 2023-2024 (Monovalent XBB.1.5) COVID-19 Vaccine Effectiveness Against Symptomatic SARS-CoV-2 Infection Attributable to Co-Circulating Omicron Variants Among Immunocompetent Adults - Increasing Community Access to Testing Program, United States, September 2023-January 2024. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2024;73(4):77-83. Published 2024 Feb 1. doi:10.15585/mmwr.mm7304a2.
Sette A, Sidney J, Grifoni A. Pre-existing SARS-2-specific T cells are predicted to cross-recognize BA.2.86. Cell Host Microbe. 2024 Jan 10;32(1):19-24.e2. doi: 10.1016/j.chom.2023.11.010. Epub 2023 Dec 8. PMID: 38070502; PMCID: PMC10843579.
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