Corynebacterium ulcerans(コリネバクテリウム ウルセランス 以下 C. ulcerans)はジフテリア菌 (Corynebacterium diphtheriae) の近縁菌で、ジフテリア毒素をつくることがあります。ジフテリア毒素をつくるC. ulceransは、ジフテリア類似の症状を引き起こすことがあります。近年欧米諸国で注目され、日本においても問題となりつつあります。
C. ulcerans感染症は英国において最も症例が多く、1986年から2006年の間に、無症状保菌者を含む56例から毒素原性C. ulceransが分離されています。他の欧米諸国でも散発的に報告があります。また海外においてはウシ、イヌ、ネコ等の動物がヒトへの感染に関与することが疑われています。
C. ulcerans感染症は、英国などいくつかの国ではC. diphtheriaeによるジフテリアと同等の扱いとなっています。わが国の感染症法では、ヒトからヒトへの感染性と重篤性が確認されているC. diphtheriaeによるジフテリアだけが、2類感染症に定義されています。日本においてC. ulcerans感染症の適切な位置づけを確立していくためには、C.diphtheriaeとの病原性、感染性の違いを明確にすることが必須であります。そのために国内分布、菌の伝播性等の疫学調査や基礎研究が極めて重要と私たちは考えています。
国内では2001年から2010年までに8例が報告されています。最初の2例を受けて、2002年11月には厚生労働省結核感染症課長より地方自治体衛生部局、医療機関に対して 情報提供を求める通知が行なわれましたが、周知が徹底しているとは言い難く、以後の3例においても早期の情報疎通は困難でした。
2009年1月、野良ネコが感染源と疑われるヒトの感染例(国内6例目)があり、これを受けて厚生労働省結核感染症課では、情報提供を求めるとともに、この症例を紹介し、Q and A集を添えて再度の通知を行ないました。また、2011年1月に厚生労働省はジフテリアの届出基準に、「本感染症は、Corynebacterium diphtheriaeによるものであるが、Corynebacterium ulcerans及びCorynebacterium pseudotuberculosisにおいてもジフテリア毒素を産生する株が確認されているので、分離・同定による病原体の検出、病原体の毒素遺伝子の検出の際に留意が必要である。」との追記を行ないました。国立感染症研究所と衛生微生物協議会ジフテリア、百日咳、ボツリヌスリファレンスシステムセンターでは、情報の発信および収集のためにこのwebページが役立つことを願っています。C. ulcerans 感染症に関する情報がありましたら、下記窓口までお寄せ下さいますようお願い申し上げます。
衛生微生物技術協議会ジフテリア百日咳ボツリヌスレファレンスセンター窓口
国立感染症研究所 細菌第二部 第三室