CFEIR
実地疫学研究センター センター長ご挨拶
実地疫学研究センター
Center for Field Epidemic Intelligence,
Research and Professional Development (CFEIR)

センター長ご挨拶

 実地疫学研究センター
 センター長


 砂川 富正


実地疫学とは、懸念される公衆衛生上の問題に対処するために、迅速にどのような行動(対応)を行うことが必要かを明らかにすることを目標とする疫学、を指します。国立感染症研究所に2021年4月に設置された実地疫学研究センター(Center for Field Epidemic Intelligence, Research and Professional Development:略称CFEIRシーファイヤー)の歴史はまだ短いですが、実地疫学研究センターの中心をなす実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program:FETP)は、1999年4月「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」の施行後直ぐの1999年9月より国立感染症研究所にて開始され、既に四半世紀が経過した、実地疫学専門家(Field Epidemiologist)を育成する(現時点で)2年間の研修プログラムです。国立感染症研究所内では旧感染症情報センター(2013年度より感染症疫学センターと改称)がFETPを所掌してきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応強化の必要もあり、FETPを中心とするグループが2021年度からは新センターとして発展的に独立したものです。私は、FETP第1期の研修員として、当時5名の仲間と共にFETPの2年間の研修を終えました。私のように所属を持たずに飛び込んできた当時のFETPは給料の出所がなく、それなりに生活は苦しいものでしたが、当時、初めて出会った「疫学」を通して世の中を見ることの素晴らしさに私は大きな感銘を受けました。またField Epidemiologyは、応用疫学(Applied Epidemiology)の一つとして、実地疫学以外に、現場疫学、実践疫学、即応疫学のように様々な呼称で呼ばれることがありますが、いずれにしても前もっての仮説がなく、制約だらけの現場で発生する(時には発生が予期される)事象に対する必要な公衆衛生対策について見出し、それを実践していく学問です。現場の問題に対して、現場に近い嗅覚で、より丁寧な情報収集や分析を行っていくことが実地疫学の醍醐味であると思います。
現在、世界保健機関 (WHO)における国際保健規則(IHR)に基づく各国の公衆衛生コア・キャパシティ評価指標の一つとして人口20万人に1人の実地疫学専門家の配置が求められています(日本の人口では600名が必要)。日本のFETP修了者数は100名(2023年3月末)で、IHRの指標には及ばず、COVID-19パンデミック対応のリソースとしては、FETP修了者数の少なさは問題として認識されました。
2023年現在、90 を超える FETPのプログラムが世界中の200 以上の国・地域に展開しています。また、世界のFETPは国際的なネットワークを形成しており(Training Programs in Epidemiology and Public Health Intervention Network: TEPHINET)、COVID-19を経て、日本のFETPへはアジア太平洋地域の一員としての大きな期待が寄せられています。
実地疫学研究センター発足後の研修体制の工夫としては、自治体職員が研修を受けやすいように、研修1年目を国立感染症研究所で、2年目を派遣自治体で行う1+1研修を当初より導入しています。また、FETP研修を地方で展開する拠点として、衛生研究所を含む各自治体の全面的な協力を得て、沖縄県及び大阪府にそれぞれの地方拠点を令和5年度より正式に(パイロットとして沖縄県では令和4年度より)開始しています。これは、自治体にありながらFETPの研修をオンラインと指導者の派遣による対面で行い、特色のあるFETP研修活動を地域の協力を得て展開するというものです。自治体の協力とスタッフの献身により支えられていますが、徐々に軌道に乗りつつあるとの手応えを感じています。なお、FETP研修員の全体については、発足当初よりしばらくは、多くを医師が占めましたが、近年は自治体から派遣される者の職種として、検査技師、薬剤師、獣医師、保健師/看護師等が増えています。
実地疫学研究センターの基本はFETPの育成です。しかし、FETPのみならず、疫学者や病原体・感染症の研究者を含めた体制として、国内・また世界の公衆衛生の実地・実践や人材育成に資する存在でありたいと希求しています。具体的に、今後、実地疫学としての活躍の場をさらに求める一方で、ラボとの連携強化やワン・ヘルスなどへの取り組みも大きなチャレンジと考えています。FETPを中心とした国際的な活動強化も含めてより高みを目指していきます。

 

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