国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆手足口病(2015年7月31日現在)

 

 手足口病(hand,foot,andmouthdisease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心として夏季に流行する。手足口病の病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であり、その他コクサッキーウイルスA6(CA6)やコクサッキーウイルスA10(CA10)などによっても引き起こされることがある。基本的には数日の内に治癒する予後良好の疾患であり、不顕性感染例も存在する。しかし稀ではあるが、髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。感染経路は飛沫感染、接触感染である。手足口病に対する有効な治療薬はなく、対症療法が行われる。予防策としては、有効なワクチンはなく、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本である。水疱内容には感染性のあるウイルスが含まれているので、患者との濃厚な接触は避けるべきである。

 手足口病は、感染症発生動向調査において全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届出を求められる5類感染症の一つである。小児科定点からの報告に基づくため、成人における動向は不明である。2014年第44週以降、過去5年間の平均と比較して多い状態が続いており、2015年は第23週頃から急増した(http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html)。第29週には定点当たり報告数10.16(報告数31,920)となり、過去10年間で最も報告数が多かった2011年第28週の定点当たり報告数11.0(報告数34,216)に次いで多い報告数となった。地域別では、第21週から第25週までは、定点当たり報告数上位10位の都道府県は全て西日本で、第25週上位3位は、徳島県、香川県、山口県であった。第26週より定点当たり報告数上位10位に入る東日本の都道県数が3県、第28週には4県、第29週には7都県と増加した。第29週上位3位は、福井県、埼玉県、栃木県であった。2015年第30週(2015年7月20~26日)の手足口病の定点当たり報告数は9.38で前週(10.16)よりやや減少した。第30週は、都道府県別では石川県(19.24)、埼玉県(18.16)、福島県(16.93)、栃木県(14.85)、福井県(14.68)の順であった。年齢群別では、2015年第1~30週では、2~3歳の37%が最も多く、次に0~1歳が35%で3歳以下が72%、5歳以下で全報告数の90%を占めた。性別は男児が55%とやや多かった。この年齢分布・性差は例年並みである。

 手足口病の患者から検出されたウイルスは年によって異なる。過去5年間で手足口病が大流行した2011年はCA6、2012年にはEV71およびCA16、2013年はCA6が多く検出され、2014年からは主にCA16が検出されるようになった。2015年に最も多く検出されているウイルスはCA16であり、ウイルス検出報告381件中、CA16が206件(54.1%)と半数以上を占めている(2015年7月31日現在、手足口病由来ウイルス、年別2011~2015年http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html)。髄膜炎および脳炎・脳症を起こす事が知られているEV71と比較して、今シーズン流行しているCA16による手足口病は、臨床的には重症化しにくいとされる。2歳以下の乳幼児においては、CA16の他、CA6も検出されている(http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/rapid/natsu/teashi/150710/tenenrei_150723.gif)。近年のCA6による手足口病では、従来の手足口病における臨床所見と比較して、これまでより水疱が大きいことや、手足口病発症後、数週間後に爪脱落が起こる症例(爪甲脱落症)が報告されてきた。

 手足口病は、我が国の学校保健安全法において、学校において予防すべき感染症として個別に規定はされていない(ただし、学校で通常見られないような重大な流行が起こった場合に、その感染拡大を防ぐために、必要があるときに限り、校長が学校医の意見を聞き、第三種の感染症の「その他の感染症」として緊急的に措置をとることができる)。患児の状態が安定していれば、登校(園)は可能であるが、症状が消失した後も2~4週間にわたり児の便などからウイルスが排泄される。回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではないため、流行期の保育園や幼稚園などの乳幼児施設においては、手洗いの励行と排泄物の適正な処理、またタオルを共用しないなどの感染予防対策が重要となる。

 2015年の手足口病の報告数はこれまでの同時期と比較して患者報告数の多い状態が続いており、現在ピークを迎える時期と予想されるため、その発生動向には引き続き注視し、各関係機関において感染予防対策を講じる必要がある。

 手足口病の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:

●手足口病とは
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ta/hfmd.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)過去10年間との比較グラフ 手足口病
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html
●IASR夏の疾患(ヘルパンギーナ/手足口病他)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/4892-iasrgnatus.html
●IASR病原微生物検出情報 エンテロウイルス
http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html
●Fujimoto T, Iizuka S, Enomoto M, Abe K, Yamashita K, Hanaoka N, et al. Hand, foot, and
mouth disease caused by coxsackievirus A6, Japan, 2011 [letter]. Emerg Infect Dis. 2012 Feb.
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/2/11-1147_article
●文部科学省「学校において予防すべき感染症の解説」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1334054.htm

 

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