注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
手足口病(hand, foot, and mouth disease:HFMD)は、手、足および口腔粘膜などに現れる水疱性の発疹を主症状とする急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に夏季に流行する。近年、わが国の手足口病の病原ウイルスはコクサッキーウイルスA16(CA16)、A6(CA6)、エンテロウイルス71(EV71)などであり、CA10、コクサッキーウイルスB(CB)やエコーウイルスなどによる患者もみられる。基本的には数日の内に治癒する予後良好の疾患であり、不顕性感染例も存在する。口腔内病変に対しては、刺激にならないよう柔らかめで薄味の食べ物を勧めるが、何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要である。経口補液などで水分を少量頻回に与えるよう努める。しかし、元気がない、頭痛、嘔吐、高熱などの場合に、ときに髄膜炎、稀ではあるが小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症への増悪を注意する。感染経路は主として接触感染と飛沫感染である。手足口病に対しては特異的な治療法はなく、対症療法が行われる。手足口病の予防策としては、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本である。水疱内容には感染性のあるウイルスが含まれているため、患者との濃厚な接触は避けるべきである。
手足口病は、感染症発生動向調査において全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位での届出を求められる5類感染症の一つである(手足口病の届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-20.html)。小児科定点からの報告に基づくため、成人における動向は不明である。近年、小児科定点における手足口病の報告数は、年によって大きく異なり、2011年、2013年、2015年、2017年には報告数が多かった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html)。2019年は、第19週以降第28週にかけて定点当たり報告数は継続して増加した(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1649-06hfmd.html)。第29週(2019年7月15〜21日)には定点当たり報告数は12.01(報告数38,035例:2019年7月24日現在)となり、第28週の定点当たり報告数12.64と比較し微減した。地域別では、第19〜24週までは、定点当たり報告数上位3位の都道府県は全て九州地方で、この期間の週毎の上位3位は、福岡県、佐賀県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県のいずれかであった。定点当たり報告数の上位1位の都道府県は第19週が宮崎県、第20〜23週まで鹿児島県で、第24週以降は佐賀県、福岡県、福井県、福井県、石川県、埼玉県であった。上位1位の都道府県は、時間経過とともに九州地方から北陸地方、関東地方に変化した。第27週の定点当たり報告数上位3位は、福井県、石川県、香川県、第28週の同上位3位は、石川県、福井県、福島県、第29週の同上位3位は、埼玉県(22.99)、福島県(21.06)、山形県(20.41)の順であった。年齢群別では、2019年第20〜29週(累積報告数182,851例)では、男女共に1歳(39.2%)、2歳(21.4%)が大半を占めたが、昨年同時期より1歳の割合が増加した。性別は男児が55%とやや多かった。
手足口病の患者から検出されたウイルスも年によって異なる。過去5年間に手足口病患者から分離・検出された各年の主なウイルスは、多い順から2015年はCA6およびCA16、2016年はCA6およびCA16、2017年はCA6およびEV71、2018年はEV71およびCA16であり、2019年は7月24日現在で全252件中、CA6が154件(61%)およびCA16が37件(15%)であった(手足口病由来ウイルス 年別2015〜2019年:https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html)。なお、CA6による手足口病では、発症後、数週間後に爪脱落が起こる症例(爪甲脱落症)がみられることがあると報告されている(https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2412-iasr/related-articles/related-articles-452/7605-452r05.html、https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-vol33/2107-surveillance/iasr/related-articles/related-articles-385/1762-dj3856.html)。また、CA6を起因病原体とする無菌性髄膜炎の報告がみられたことがあった(https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data16j.pdf)。
手足口病は、学校保健安全法において、「学校において予防すべき感染症」として個別に規定はされておらず、流行の阻止を目的とする登校(園)停止は有効性が低く、不顕性感染や症状がなくなってからのウイルス排出期間が長いことからも現実的ではないと考えられている(https://www.gakkohoken.jp/books/archives/211)。患児の状態が安定していれば、登校(園)は可能であるが、症状が消失した後も2〜4週間にわたり児の便からはウイルスが排泄される。流行期の保育園や幼稚園などの乳幼児施設においては、手洗いの励行と排泄物の適正な処理、またタオル、ハンカチや遊具(おもちゃ等)を共用しないなどが感染予防対策となる。
2019年第1〜29週の手足口病の報告数は過去5年間の同時期の平均を上回り、手足口病患者から分離・検出されたウイルスの半数以上がCA6である。発生動向に注視し、各関係機関において手洗いの励行などの感染予防対策を講じる必要がある。
手足口病の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●手足口病とは
国立感染症研究所 感染症疫学センター |