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SFTS以外の新規ダニ媒介性ウイルス感染症について

(IASR Vol. 37 p. 53-54: 2016年3月号)

ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類され、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)に近縁なハートランドウイルスは、マダニによって媒介され、ヒトに対してSFTS同様重篤な疾患を引き起こす。最近、新種のウイルス(バーボンウイルス)が米国でダニ刺咬歴のある患者から分離された。SFTSと同様、これらの新規のダニ媒介性ウイルス疾患への関心が高まっている。以下に文献的知見をまとめた。

1.ハートランドウイルス(続報)
2009年ミズーリ州北西部の別々の農場で働く2人の男性が発熱、倦怠感、下痢症状を呈し、検査所見で血小板減少、白血球減少がみられた。記憶障害、食欲衰退がしばらく続いたが、その後ゆっくり回復した。急性期患者血液からSFTSVに近縁なウイルス(ハートランドウイルス)が分離された1)。その後の調査で、ミズーリ州で生息するマダニAmblyomma americanum (L.)(ローンスターダニ)がこのウイルスを媒介することが明らかにされた2)。また、患者が発生した地域周辺に生息する動物における血清学的調査で、アライグマ(42.6%)、シカ(14.3%)、ウマ(17.4%)、イヌ(7.7%)、オポッサム(3.8%)からハートランドウイルスに対する抗体が検出された。マダニとこれらの家畜や野生動物間でハートランドウイルスの自然生活環が形成され、維持されていると考えられる3)。ハートランドウイルスは分子系統上、フレボウイルス属のなかでもSFTSVと同じグループに属し血清学的にも交叉する4)

また、1970年代以降、インド、アフリカ、ヨ-ロッパに生息するマダニから分離されているBhanjaグループ(Bhanjaウイルス、Palmaウイルス、Forecariahウイルスなど)、スカンジナビア、ヨーロッパ中西部、中央アジアで分離されているウークニエミウイルスは、SFTSVと同様フレボウイルス属に分類されるダニ媒介性ウイルスである。これらは、ヒトに感染すると軽症の発熱性疾患を引き起こし、症状は発熱、頭痛などである5)。SFTSVに近縁なダニ媒介性フレボウイルスが世界中に分布することから、これらの感染リスクや病原性などの詳細な研究が必要である。

2.バーボンウイルス
2014年、米国カンザス州で50代の男性が発熱、嘔吐、倦怠感、下痢症状を呈し、血液検査で白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇等を示し、発症11日後に死亡した。発症数日前この患者の肩にダニが付着していた。上述のローンスターダニはカンザス州にも多く棲息するため、ハートランドウイルス感染症が疑われた。患者血清とハートランドウイルスを混ぜ、細胞に接種する中和試験が行われたが、結果は陰性であり、ハートランドウイルスに対する中和抗体は誘導されていなかった。しかし、接種した細胞からハートランドウイルスとは異なるウイルスが分離され、次世代シークエンスにより、このウイルスはオルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に分類されるウイルス(バーボンウイルス)であることが明らかにされた6)。2015年5月には米国で2例目のバーボンウイルス感染患者が報告された7)。バーボンウイルスは他のトゴトウイルス属とは分子系統上、独立しており、血清学的にも交叉しない8)。現在のところ、保有するダニ、野生動物等はあきらかになっていない。


参考文献
  1. 森川 茂, IASR 34: 41, 2013
  2. Savage H, et al., Am J Trop Med Hyg 89: 445-452, 2013
  3. Bosco-Lauth A, et al., Am J Trop Med Hyg 92: 1163-1167, 2015
  4. Matsuno K, et al., J Virol 87: 3719-3728, 2013
  5. Matsuno K, et al., J Virol 89: 594-604, 2015
  6. Kosoy O, et al., Emerg Infect Dis 21: 760-764, 2015
  7. ProMed (http://www.promedmail.org Archive Number: 20150528.3390595)
  8. Lambert A et al., J Clin Virol 73: 127-132, 2015

国立感染症研究所ウイルス第一部 福士秀悦

 

 

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