国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.35 No.12(No.418)

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症

(IASR Vol. 35 p. 281- 282: 2014年12月号)

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗菌薬であるメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科細菌による感染症の総称である。CREは主に感染防御機能の低下した患者や外科手術後の患者、抗菌薬を長期にわたって使用している患者などに感染症を起こす。健常者に感染症を起こすこともある。いずれも肺炎などの呼吸器感染症、尿路感染症、手術部位や軟部組織の感染症、医療器具関連血流感染症、敗血症、髄膜炎、その他多様な感染症を起こし、しばしば、院内感染の原因となる。


日本では、腸内細菌科細菌の主要な菌種におけるメロペネム耐性はいずれも1%未満である(表1)。しかし、海外の多くの国では腸内細菌科細菌のカルバペネム耐性の割合が増加しており、米国ではKlebsiella 属菌に限るとカルバペネム耐性の割合は10.4%と報告されている(Jacob JT, et al., MMWR 62(9): 165-170, 2013)。WHOは、今後各国が取り組むべき重要課題の一つとして、耐性菌サーベイランスの強化をあげている(WHO, Antimicrobial resistance: global report on surveillance 2014, http://www.who.int/drugresistance/documents/surveillancereport/en/)。一方、わが国では、2014(平成26)年9月19日にCRE感染症が感染症法に基づく感染症発生動向調査の5類全数把握疾患に追加された。

カルバペネム耐性機構
カルバペネム耐性は、カルバペネム系抗菌薬分解酵素である各種カルバペネマーゼの産生、あるいはクラスCや基質拡張型のβ-ラクタマーゼの産生と細胞膜透過性低下変異の組み合わせにより獲得される(本号3ページ)。カルバペネマーゼ産生菌は広域β-ラクタム剤に汎耐性を示し、また同時に他の複数の系統の薬剤にも耐性のことが多いため、臨床的に問題である(本号4ページ)。

国内分離株では、カルバペネマーゼ遺伝子はIMP型が多く、国内の医療機関に比較的普及しているメルカプト酢酸ナトリムを用いたディスク法で検出できることが多い。一方、海外分離株ではNDM型、KPC型、OXA-48型が多く、通常、これらを検出するには別の検査を実施する必要がある(本号5ページ)。海外には、CREによる院内感染の報告が日本よりも多い国もあることから、特に海外での医療機関受診歴のある患者については、適切な検査を行い、輸入例からの拡散を防ぐ必要がある(本号7ページ、IASR 35: 200-201, 201434: 237-238, 2013および34: 238-239, 2013) 。

感染症発生動向調査における届出基準と届出状況
CRE感染症が5類全数把握対象疾患となった。感染症法に基づく届出の対象となるのは、分離された菌が感染症の起因菌と判定された場合である(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-1.html参照)。感染症を発症していない保菌者については届出の対象ではない。カルバペネム耐性の判定に必要な薬剤は、メロペネム、またはイミペネムとセフメタゾールである(表2)。カルバペネマーゼ産生菌の検出には、メロペネムが感度、特異度ともに最も優れている(IASR 35: 156-157, 2014)。しかし臨床現場では最初に市販されたカルバペネム系抗菌薬であるイミペネムの薬剤感受性のほうがメロペネムよりも広く測定されているため、イミペネム耐性も届出基準に加えられた。ただし、Proteus属菌などでよく分離される、イミペネムのみに耐性を示し、他のセフェム系には感性となるカルバペネマーゼ非産生菌を除外するため、イミぺネムとセフメタゾールの2剤に耐性を示すものを届出対象にしている。

全数報告となった第38週(2014年9月19日~)~第44週までに(2014年11月5日現在報告数)、29都道府県より113例の届出があった(本号8ページ)。性別は男性66例、女性47例と男性が多かった。診断時年齢は0歳~97歳までと幅広かったが、65歳以上の高齢者が88例と、全体の78%を占めた()。血液検体、腹水、髄液等、通常無菌的とされる検体からCREが分離された症例が47例あり(約42%)、血液検体の27例が最も多かった。感染地域として、113例のうち109例は国内での感染と報告されていたが、国外での感染と推定された症例が1例あった。感染経路については、医療器具関連や手術部位など、医療関連が推定される症例が23例あった。カルバペネム耐性の確認は、113例中31例がメロペネム耐性、41例がイミペネムとセフメタゾールの2剤耐性、39例がメロペネム耐性およびイミペネムとセフメタゾール2剤耐性の両方で実施されていた。2例についての確認方法は不明だった。

届出のうち約半数はEnterobacter 属菌による感染症である(表3)。Enterobacter 属菌のカルバペネム耐性は、カルバペネマーゼ産生ではなく、染色体性のクラスC型β-ラクタマーゼの産生と膜の透過性低下によることが多い。このような広域β-ラクタム剤に汎耐性を示すカルバペネマーゼ非産生菌を届出対象に含めるべきかどうかについては、公衆衛生上、感染対策上の重要性を考慮しつつ検討が続けられている。

届出基準の詳細とQ&Aは国立感染症研究所のホームページで公開されている(http://www.niid.go.jp/niid/ja/id/495-source/drug-resistance/5011-carbapenem-qa2.html)。

遺伝子水平伝達と院内感染
カルバペネマーゼ遺伝子は、プラスミド上に存在することが多く、接合等により腸内細菌科の他菌種にまで水平伝達され、カルバペネム感性の菌がこれにより耐性化することがある。また、腸内細菌科細菌ではカルバペネマーゼ遺伝子を持っていてもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示さない場合があるが、このような菌株でも耐性遺伝子の発現量変化、細菌外膜の変化で耐性化することがある。耐性を示さないためにカルバペネマーゼ遺伝子の存在が認識されないまま、耐性遺伝子が複数菌種に伝播し拡散することがあるため、サーベイランス上注意する必要がある。実際、医療現場においてカルバペネム耐性遺伝子がプラスミドの伝達により複数の菌種に拡散した事例が報告されている(本号910ページ)。

CREは、無症状で腸管等に保菌されることも多い。感染症を起こしていない患者については届出の対象ではないが、入院患者の場合は院内感染対策上の注意が必要で、院内でアウトブレイクが疑われる場合は、感染症発生動向調査とは別に厚生労働省医政局指導課長通知(平成23年6月17日:医政指発0617第1号)に基づき、保健所に報告するとともに、必要に応じて地域の医療機関のネットワークの支援を得るなどして速やかに適切な対策を行うことが必要である(本通知は近日中に改定される予定だが、新通知においても同様の報告が求められる)。感染対策上の観点から、耐性遺伝子や型別等の解析が必要な場合には、国立感染症研究所等の検査可能な機関に相談されたい。

 

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