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RSウイルス感染症 2014年1月~2018年9月

(IASR Vol. 39 p207-209: 2018年12月号)

RSウイルス(respiratory syncytial virus; RSV)は, ニューモウイルス科に分類されるRNAウイルスである(本号7ページ)。ニューモウイルス科には, ヒトメタニューモウイルス(本号11ページ)を含むメタニューモウイルス属とRSVを含むオルソニューモウイルス属がある。RSVは, G遺伝子の塩基配列を基盤とした分子系統解析により, RSV-AとRSV-Bの2つのサブグループに分類される(本号7&9ページ)。RSVは飛沫および接触感染により伝播する。生後1歳までに50%以上が, 2歳までにほぼ100%がRSVの初感染を受けるが, 終生免疫は獲得されない。乳幼児における肺炎の約50%, 細気管支炎の50~90%がRSV感染によるとされる。

新生児・乳幼児や免疫不全者では重症化しやすい。合併症として, 無呼吸, 急性脳症などがある。成人のRSV感染症では概ね感冒様症状を呈するが, 慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者で, 重症化が認められている。小児や成人の感染例から高齢者への感染を防ぐことも重要であ (本号6ページ)。血液疾患による免疫不全者等のハイリスク者のいる施設での施設内集団発生も報告されており, 院内感染対策が重要であると考えられる(本号5ページ)。

RSV感染症に対しては, 酸素投与, 輸液や呼吸管理などの対症療法が行われる。また, 早産児, 気管支肺異形成症や先天性心疾患等を持つハイリスク児を対象に, RSV感染による重症化予防のため, ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体であるパリビズマブの保険適用が認められている。パリビズマブの投与はRSV感染の重症化を予防する効果を示しているが, 流行時期や対象者を考慮した投与が必要であるため, 適切な投与計画の策定が重要である(本号13ページ)。また, RSVワクチンの開発が進んでおり, 近年, 世界保健機関においてもRSVワクチン開発・導入や世界規模のサーベイランスに関する議論が高まっている(本号14ページ)。

RSV感染症は, 感染症法改正(2003年11月5日施行)時に, 感染症発生動向調査の小児科定点把握5類感染症に追加され, 届出には検査診断を必須とする(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-15.html)。RSV抗原検査は, 2011年10月17日より, 入院中の患者以外に外来の「乳児」および「パリビズマブ製剤の適用となる患者」に保険適用が拡大された(2006年3月31日までは3歳未満入院患者にのみ適用, その後全年齢の入院患者に適用)。RSV感染症を報告する小児科定点医療機関数(特に, 一般診療所)は年々増加し(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/35/412/graph/f4121j.gif), 発生動向の解釈に関しては, 検査診断のための保険適用が拡大されてきたこと等も考慮する必要があると考えられる(本号4ページ)。近年は, 定点医療機関の約8割からRSV感染症が報告されるようになったため, 他の小児科定点対象疾患と同様に, RSV感染症も2018年第9週より, 定点当たり報告数が示されている。

RSV感染症患者発生状況:2017年のRSV感染症の報告数は, 季節性インフルエンザに先行して, 7月から継続して増加し9月にピークがみられた。2015年までは, 報告数が秋に増加し始め, 年末にピークがみられたが, 2016年以降, 報告数の増加が早まり秋にピークを迎えた(ピーク週は, 2016年は第40週, 2017年は第37週, 暫定であるが2018年は第37週)(図1)。また, 2017年と2018年は, 夏季の報告数がそれまでより増加した。RSV感染症は従来から地域において特徴的な季節性を認めており(IASR 35: 137-139, 2014), 2014年以降, 沖縄県では夏季にピークがみられ, 九州では2015年までは他地域よりもピークが早かった。一方, 2017年には, 関東と東北ではピークを記録した週が九州と同様に第35週に認められ, 北海道では顕著なピークがみられなかった(図2)。2017年に報告された患者の性別・年齢分布は, 前回特集時(IASR 35: 137-139, 2014)同様, 男性にやや多く〔男性74,555人(53%), 女性64,891人(47%)〕, 2歳以下が大半を占めた(88%)。一方, 従来は, 0歳, 1歳, 2歳の順に報告数が多かったが(IASR 35: 137-139, 2014), RSV感染症のサーベイランスが開始された2003年以降で報告数が最も多かった2017年では, 1歳, 0歳, 2歳の順に報告数が多かった (図3)。

2014年1月~2018年9月に5類全数把握感染症の急性脳炎として届出された患者2,951人のうち, 病原体としてRSVの記載があった患者は, 41人であった(いずれも暫定値:2018年10月31日現在)。男性21人, 女性20人で, 年齢中央値は1歳(範囲1~6歳)で, RSV感染症が重症化しやすい0~2歳が33人であった(表1)。

RSV等の呼吸器ウイルス検出状況:全国の地方衛生研究所(地衛研)は, 主に病原体定点(小児科定点を含む全国約5,000のインフルエンザ定点の約10%と全国約500の基幹定点医療機関)が採取した検体の病原体検査を行っている。2013/14シーズン(インフルエンザシーズンと同様各年9月~翌年8月)から2017/18シーズンまでに, 分離・検出された呼吸器系ウイルスは, インフルエンザウイルス, ライノウイルス, RSV, パラインフルエンザウイルス, ヒトメタニューモウイルス(本号11ページ)の順に多かった(表2)。分離・検出されたウイルスは, 検体が採取された時期によって異なり, また, 年によっても異なるものの, 患者発生状況と同様にRSVは9~12月にかけて, インフルエンザウイルスは12月~翌年3月を中心として報告されていた。ちなみに, ヒトメタニューモウイルスは2~5月を中心に報告されていた(図4)。

2013/14~2017/18シーズンにかけて, 全国の60地衛研が5,324例(人)からのRSV検出を報告した(2018年11月13日現在)。RSVが分離・検出された5,324例のうち, 最も多かった検査材料は咽頭ぬぐい液(5,258, 99%)であった。検出方法は遺伝子検出が5,177(97%)と最多で, 次いで培養細胞での分離が590(11%), 抗原検出が23(<1%)などであった(複数の方法による検出例を含む)。検体採取時点の診断名は, 気道感染に関連するRSV感染症2,392(45%), 下気道炎1,758(33%), 上気道炎460(9%)等で, 9割近くを占めた。

終わりに・今後の課題:近年, RSV感染症を報告する定点医療機関数が安定し, 2018年第9週から定点当たり報告数として情報が還元されるようになった。一方, RSV感染症においては, 症候群・症状を分母とするサーベイランスデータがわが国にないため, 発生動向の解釈に注意が必要である(本号4ページ)。また, 疾病負荷の算出が困難である(本号14ページ)。高齢者(本号6ページ)やハイリスク者におけるRSV感染症は重要であるが, 現状のサーベイランスでは小児科定点のみからの届出であるため, 小児以外のRSV感染症の疫学を把握することが困難である。今後, 全年齢における疾病負荷の把握と対策の必要性に関する検討が重要である。

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