国立感染症研究所

 

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岡山市における梅毒の発生状況(2010~2017年)および、医師への聞き取り調査で得られた梅毒患者の状況

(掲載日 2018/5/8) (IASR Vol. 39 p86-88: 2018年5月号)

はじめに

梅毒の届出数は近年大きく増加しており1)、岡山県の発生状況(人口100万人当たりの報告数)は2017年第3四半期において全国第2位となっており、岡山県内で増加が進んでいる2)

岡山市保健所では、以前から梅毒届出受理時には、感染症担当保健師が届出医師から電話による聞き取りによって疫学調査をしていた。さらに、2017年4月に調査票を作成し、届出票で得られる内容に加え、職業、感染経路、パートナーの有無などの疫学情報を集積してきている。

方 法

感染症発生動向調査システム(NESID)に登録された岡山市の症例のうち、2010~2017年のデータを分析した。また、岡山市保健所が届出医師等に聞き取りを行って得た疫学情報を分析した。

結 果

岡山市における梅毒届出数は、2010~2013年は年間報告数が男性2~4例、女性0~1例と少ない報告数が続いていた。しかし、2014年男性10例女性1例、2015年男性11例女性3例、2016年男性16例女性9例と、男性は2014年から、女性は2016年から届出数が増加し始めていた。四半期ごとにみると、2017年第2四半期以降、届出数が急増し、男性は第3四半期、女性は第4四半期の届出数が最も多かった。

2017年に岡山市に届出のあった梅毒の患者は108例(男性78例、女性30例)で、2016年と比較して男性は約4.9倍、女性も約3.3倍と大幅に増加していた。

届出患者の年齢は、男性はこれまで20~30代が5割程度を占めていたが、2017年第2四半期に40代が増加し、第4四半期に50代が増加した。2017年は20~40代で83.3%を占めていた。女性は2017年第2四半期の20代の増加が特に顕著であるが、第3四半期以降10代~40代と幅広い年代層の報告がある (図1A&B)。

診断時の病型は、男性は2017年上半期においてはII期が多かった(I期8例、II期13例、無症候1例)が、下半期はI期が増加した(I期39例、II期14例、無症候3例)。女性は2017年上半期はI期が多かった(I期6例、II期4例、無症候2例)が、下半期はII期が多くなっており(I期4例、II期11例、無症候3例)、男女で異なる傾向がみられた。

感染経路をみると、2015年以降、男性患者は異性間接触が同性間接触を上回っていた。2017年の男性患者の届出78例のうち59例(75.6%)が異性間接触によるものであった。女性患者の届出30例は、すべて異性間接触による感染であった。男性患者で異性間接触で感染したもののうち、過去数か月以内に風俗店の利用のあったものは、図2に示すように2016年以降は、届出数、割合ともに増加が続いており、2017年で71.2%(42例/59例)であった。2017年4月以降の医師等への聞き取り調査(男性71例、女性27例)では、風俗店を利用していた男性患者は岡山市内、岡山市以外の岡山県内、隣接県内、関東、国外での風俗店を利用していた、との回答を得られた。本人の職業については女性の25.9%がCSW(コマーシャルセックスワーカー)であった。また、特定のパートナーがいる割合は男性32.4%、女性63.0%であった。

考 察

梅毒の届出数は、大都市では2011年から大きく増加している3,4)が、岡山市ではそれより約3年遅れた時期から増加が始まっていた。

特に2017年から男性患者が急増していたが、男性患者の多くが直近に風俗店を利用しており、感染地域も岡山市内であったことから、今後も市内において感染者の増加が続くことが予想される。また、特定のパートナーから感染したと考えられる女性患者の届出も多く、梅毒患者のパートナー検査の勧奨を徹底していく必要がある。

女性は病期がII期以上の患者の割合が高かったが、早期には自覚症状がないことから受診が遅れた可能性がある。先天梅毒を未然に防ぐためにも早期からの治療や予防行動への啓発が必要であると考えられた。

現在の取り組み

岡山市内での梅毒患者の急増を受け、2017年7月から岡山市保健所のHIVおよび性感染症検査の際に、岡山市でも増加していることや、症状や感染経路などの注意点を示したリーフレットを用いて注意喚起を行った。

また、20代の女性患者が増加していることを受け、女性向けにデザインした「性感染症検査・相談普及啓発カード」(名刺大・2つ折り)を作成した。カードには、岡山でも梅毒が急増し、梅毒が経口のみでも感染し得ること、梅毒検査が保健所でHIV検査と同時に無料で受けられることなどを記載した。

このカードは、2017年10月に岡山市内の産婦人科、泌尿器科、皮膚科、内科を標榜する計470の医療機関に約8,500枚送付した。梅毒患者を診断した際に、感染の可能性のあるパートナーの受診勧奨や、感染リスクのある女性患者受診時の梅毒の啓発や検査勧奨等に使用してもらうよう依頼するとともに、梅毒患者の増加や症状の経過等を情報提供した。

梅毒届出時の医師への聞き取り調査については、岡山市で使用していた聞き取り調査票に改訂を加え、2018年1月から岡山県下で統一した調査に取り組み始めている。

 

参考文献
  1. IDWR 18(48): 8-9, 2016
  2. 爲房園実ら, 第24回 岡山県保健福祉学会抄録集: 29-32, 2018
  3. 細井舞子ら, IASR 37: 144-145, 2016
  4. 村上邦仁子ら, IASR 38: 62-64, 2017

 

岡山市保健所 
 兒玉とも江 池田公味子 頭山知加 山本静子 松岡宏明

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