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感染性胃腸炎患者糞便検体を対象としたサポウイルスgenogrouping PCR法の適用

(IASR Vol. 43 p189-191: 2022年8月号)

 

 サポウイルスは, ノロウイルスとともに感染性胃腸炎の原因となる代表的なウイルスである。感染患者や流入下水等の環境水からほぼ通年検出されている。ヒトから検出されたサポウイルスは, 構造タンパク質(VP1)領域の配列により, GⅠ, GⅡ, GⅣおよびGⅤの4種類のgenogroupに分けられる。さらに, 複数のgenotypeに分類可能で, 現時点ではGⅠ.1~7, GⅡ.1~8, GⅡ.NA1, GⅣ.1, GⅤ.1~2の計19種類の遺伝子型が確認されている1-3)。2018~2019年に岩手県内で発生した3事例のサポウイルス集団感染事例において, 病原体検出マニュアル サポウイルス(第1版)に記載の検出系に変更することにより検出率が向上し, さらに同一の事例から複数の遺伝子型のサポウイルス検出, また同一検体から複数の遺伝子型のサポウイルス検出に繋がったので報告する。

 事例1および2は, 2018年の同時期に, 岩手県内の同一地域の小学校と保育園(各1施設)で発生した腹痛, 嘔吐, 下痢を主訴とする胃腸炎の集団感染事例であった。事例3は, 前述の同一保育園で, 2019年に発生した嘔吐, 下痢を主訴とした胃腸炎の集団感染事例であった。

 有症者の糞便について, PBS(−)で10%の便乳剤を調製しRNA抽出後, 逆転写反応を経て, conventional PCR法4,5)で実施した。変更後は, 病原体検出マニュアル6)の記載条件で遺伝子群別multiplex RT-PCRおよびRT-qPCRも実施し, RT-PCR増副産物のダイレクトシーケンスによりウイルス遺伝子配列を決定した。

 表1に変更の前後のconventional PCRで用いたプライマー配列を, 表2に工程ごとに使用した試薬を示した。表3に検出されたサポウイルスの遺伝子型と便1g中のコピー数を示した。

 事例1では, 34人の有症者のうち16名から採取された検体を検査し, 検査法変更後の結果は6検体から3種類〔GⅤ.1(4検体), GⅡ.3(2検体), GⅠ.2(1検体)〕の遺伝子型のサポウイルスが検出された。うち1検体からGⅤ.1とGⅡ.3が検出された。事例2では, 22人の有症者のうち12名から採取された検体を検査し, 8検体から4種類〔GⅤ.1(6検体), GⅠ.2(2検体), GⅡ.3(1検体), GⅣ.1(2検体)〕の遺伝子型のサポウイルスが検出された。うち1検体からはGⅤ.1とGⅠ.2の2種類が, 他の1検体からは, GⅤ.1とGⅠ.2とGⅣ.1の3種類が検出された。事例3では, 7人の有症者のうち5名から採取された検体を検査し, すべての検体からサポウイルスが検出されたが, 2種類〔GⅡ.3(4検体), GⅡ.1(1検体)〕の遺伝子型であった。検査法による各事例の陽性者の割合は, 事例1および2は, 当初はいずれも25%であったが, 変更後は, 37.5%, 66.7%となった。事例3では, 当初40%であったが, 変更後は100%となった。また, 事例3では変更前後の検出系で同一検体から異なる遺伝子型配列(GⅡ.1とGⅡ.3)が検出された。変更前に使用していた4つのprimerセットのうち, シーケンス解析が可能な増幅産物が得られる3つ(①③④)では共通してR13, R14が含まれる。R13, R14が含まれる検出系ではGⅡ.3よりGⅡ.1の方が増幅されやすいことが示されているため1), 変更前後で異なる遺伝子型配列が検出された事例3のNo.4の検体には複数のGⅡ株が混在し, その一方が優位に増幅された可能性がある。

 さまざまなプライマーを組み合わせて実施した変更前のプロトコールでは, いずれの事例においても検出率が低く, シーケンス解析では細かくタイピングができない検体もあった。病原体検出マニュアルに記載の方法は, 抽出および逆転写に使用した試薬, プライマー, PCR酵素等が異なっているが, 3事例のいずれも検出率が向上した。また, いずれの事例からも複数の遺伝子型のサポウイルスが検出され, 患者の一部では, 1人から複数の遺伝子型のサポウイルスが検出された。3事例はいずれも感染源が特定されず, 複数の遺伝子型が混在した原因は不明である。

 今回の3事例では, サポウイルスの遺伝子群別multiplexによるRT-PCRの実施で検出率が向上し, とくにサポウイルスGⅡ.3とGⅤ.1の捕捉率が向上した。

 

参考文献
  1. Oka T, et al., Clin Microbiol Rev 28: 32-53, 2015
  2. Diez-Valcarce M, et al., J Clin Virol 104: 65-72, 2018
  3. Diez-Valcarce M, et al., Microbiol Resour Announc 8: e01602-18, 2019
  4. Oka T, et al., Arch Virol 165: 2335-2340, 2020
  5. Kitajima M, et al., Appl Environ Microbiol 76: 2461-2467, 2010
  6. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル サポウイルス(第1版), 2021年7月

岩手県環境保健研究センター   
 高橋知子 藤森亜紀子 梶田弘子
岩手県食肉衛生検査所      
 高橋雅輝           
国立感染症研究所        
 髙木弘隆 岡 智一郎

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