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腸管アデノウイルス(アデノウイルス41型)による集団胃腸炎事例, 2022年5月―大阪市

(IASR Vol. 43 p216-218: 2022年9月号)

 

 アデノウイルスは主要な胃腸炎ウイルスの1つである。アデノウイルスF種に分類される40型と41型(HAdV-40/41)は主に小児の胃腸炎に関連しており, 「腸管アデノウイルス」とも呼ばれ, 潜伏期間は3~10日とされている1)。アデノウイルス胃腸炎は散発例が多い一方で, 施設等における集団事例は札幌市, 東京都, 広島市など数例の報告に限られる2-4)。2022年5月, 大阪市でHAdV-41胃腸炎の集団事例が初めて探知されたため報告する。

 2022年5月中旬~6月中旬にかけて, 大阪市の1保育施設(総園児数96名, 職員30名)でヒト-ヒト感染が疑われる感染性胃腸炎の集団事例が発生し, 29名(23%)が発症した。各年齢別クラスにおける発症者の割合は, 0歳児100% (3/3), 1歳児39% (7/18), 2歳児33% (6/18), 3歳児37% (7/19), 4歳児18% (4/22), 5歳児13% (2/16)であり, 職員の発症はなかった。胃腸炎を発症した園児29名の主な症状は下痢(79%, 23/29)と嘔吐(48%, 14/29)であり, 2名(7%)に発熱が認められた。

 5月に発症した園児6名から糞便検体を採取して胃腸炎ウイルス検査を実施した結果, 4名(1歳2名, 0歳と5歳各1名)よりreal-time PCR法5)にてアデノウイルスが検出された。ノロウイルス(GI, GII), ロタウイルス(A, C), サポウイルス, ヒトアストロウイルス, ヒトパレコウイルスは陰性であった。検出されたアデノウイルスは, 『咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査, 診断マニュアル(第3版)』6)記載の方法に準じたPCRならびにダイレクトシーケンス解析により決定したpenton base (解読塩基数403bp), hexon loop 1(解読塩基数811-870bp), fiber (解読塩基数513-543bp)の3領域それぞれの塩基配列に基づき遺伝子型別された。その結果, 検出されたアデノウイルスの遺伝子型はすべてHAdV-41[P41H41F41]であり, 3領域の塩基配列はすべての株間で100%一致した。解読した塩基配列が最長の株を本事例の代表株()としてBLAST解析に用いた結果, 3領域で塩基配列が100%一致した株は, 2011~2022年のドイツ由来16株(株名:“Hannover_”で始まる2011_1, 2012_1, 2012_2, 2012_3, 2012_4, 2012_5, 2012_6, 2013_1, 2013_2, 2013_3, 2013_4, 2013_5, 2015_1, 2016_1, 2022_3, 2022_7), 2010~2016年の中国由来6株(株名:Q69/Beijing/11/2010, F128/Beijing/06/2014, SH/2015/D187, SH/2015/D381, F846/Beijing/09/2015, Adenzj-7)および検出年不明の南アフリカ由来3株(株名:SA13020, SA7335, SA12680)であった。また, 解析に用いたhexon loop 1あるいはfiber領域に1塩基のみ差異のある株がスウェーデン(2000年)やフランス(2018年)などから5株登録されていた(株名:GyK253, MU22/patient A, SaP3-3F, HAdV-41_RVAB, Human/China/Shanghai/FX1-152772/2015/41)。これらの結果から, 本事例より検出されたHAdV-41株は, 長期にわたって世界的に流行している株と近縁であるといえる。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前の3年間(2017~2019年), わが国の病原体サーベイランスでは年間150例以上のHAdV-40/41検出が報告されていたが, 2020年および2021年はそれぞれ20例前後まで報告数が激減した7)。2022年の大阪市では, 感染症発生動向調査事業協力医療機関より提供された胃腸炎の散発例6症例からもHAdV-41が検出されており, 集団事例と合わせると5月末時点で検出数は既に10例に達している。散発例から検出された6株間の塩基配列は3領域すべてで100%一致したものの, 本事例の代表株とはhexon loop 1, fiber領域がそれぞれ95%, 98%程度の一致率であった。このことは, 複数のHAdV-41株が大阪市で同時期に流行していたことを示唆している。なお, 散発例のHAdV-41株は, 2012~2016年に中国で検出された8株と3領域で塩基配列が100%一致した(株名:Q880/Beijing/06/2012, Q925/Beijing/07/2012, Q935/Beijing/07/2012, CR8911/Beijing/06/2013, CR9717/Beijing/06/2014, SH/2015/D16, SH/2015/D240, F1216/Beijing/06/2016)。

 現在, 世界的に発生している小児の急性重症肝炎の原因としてHAdV-41の関与が疑われてはいるものの, 複合的な要因や感染症以外の原因も含めて引き続き調査が進められている8)。HAdV-41の地域的な流行がみられる大阪市において, 2022年5月時点では小児肝炎とHAdV-41を関連させる症例は報告されていない。大阪市に限らず, わが国で検出されるHAdV-41株が, 現在世界各地で検出されているHAdV-41株と同一か否か, 引き続き各国からのHAdV-41検出に関する報告が待たれる。

 本稿の大阪市集団胃腸炎事例および感染症発生動向調査事業において検出されたウイルスの性状解析を含む分子疫学的研究は, ともに大阪健康安全基盤研究所の倫理審査委員会にて承認されている(1709-09-4, 1709-08-4)。最後に, 感染性胃腸炎の臨床検体確保等にご協力いただいた医療機関の先生方ならびに関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 藤本嗣人ら, IASR 42: 75-76, 2021
  2. Chiba S, et al., LANCET: 954-955, 1983
  3. 森 功次ら, 感染症学雑誌 第77巻: 1067-1073, 2003
  4. 野田 衛ら, IASR 16: 126-127, 1995
  5. Wong S, et al., J Med Virol 80: 856-865, 2008
  6. 国立感染症研究所, 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎 検査, 診断マニュアル(第3版), 平成29(2017)年3月
  7. 国立感染症研究所, IASRグラフ ウイルス 2021
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/10877-iasrgv2021.html
  8. 国立感染症研究所, 複数国で報告されている小児の急性肝炎について(第4報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/2521-cepr/11262-hepatitis-children-0704.html

大阪健康安全基盤研究所微生物課
 山元誠司 平井有紀 馬場 孝 岡田和真 牛飼裕美
 改田 厚 阿部仁一郎         
大阪市保健所         
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