国立感染症研究所

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<速報>大学病院での麻疹院内感染事例

(掲載日 2014/3/28)

 

緒 言
2013年末よりフィリピンからの入国者による麻疹の発生事例がいくつかの地域から報告されている。反復する発熱のために、自己炎症性疾患を疑われ、当院に紹介されてきた幼児が麻疹であったことから、同室者をはじめとする7名が麻疹に罹患した。この事例およびその対応について報告する。

事 例
発端者は反復する発熱および5カ月前からの腹痛と血便のために副腎皮質ステロイドを服用中の幼児で、麻疹の流行があるとされる地域の病院から紹介され、小児病棟の4人床に入院した。麻疹がその地域で流行していることを医療者側は気がついていなかった。入院時の主訴は4日前からの発熱、咳嗽で、診察時に咽頭部から頬粘膜にかけて疼痛を伴う口内炎が多数あるとのことであった。発端者の2歳年下の妹も微熱が有り、以前より発熱の反復があるとのことで、兄と同じ自己炎症性疾患も疑われ、一緒に精査をする目的で、同じ病室に同日入院となった。二人とも麻疹ワクチンは未接種であった。受け持ち医は卒後16年目の助教、6年目の助教、4年目の専修医であった。年長の主治医以外は麻疹患者の診察をしたことはなかった。

入院時に咳嗽があり、今回の発熱の原因を、受け持ち医はウイルス感染症を疑ったが、麻疹によくみられるカタル症状とは異なること、口内炎は咽頭部のものは自壊しているような状態であり、コプリック斑だということは、入院3日目までは気がつかなかったとのことである。入院3日目になり、年長の主治医が結膜の充血や、コプリック斑にも様々な様子を呈することがあることを考え、念のため麻疹のIgM抗体を提出していた。4日目に発疹が出現し、強く麻疹を疑うようになったため、検査センターに至急結果を返却してもらうことを頼み、患児は感染を専門とする病棟の陰圧室へ移動させた。5日目に麻疹IgM抗体が陽性であることが判明したため、同室者、および発端者の担当医が受け持っている悪性腫瘍患者および膠原病でステロイド大量投与治療を受けている患者、および同室者3名の中で麻疹ワクチン未接種の1歳児にγグロブリン投与を行った。

同室に入院していた妹は退院していただき、紹介元の病院でγグロブリン投与を行った。しかし、同室のγグロブリン投与者および発端者の妹は、発端者の入院後10日前後で発熱、その後発疹が出現し、麻疹と診断された。麻疹ワクチン接種済み(接種から約4年)であったもう1名の同室の幼児は、入院の原因となった疾病が改善してきていたのでγグロブリンの投与は行わず退院とした。しかし、発端者の入院後13日目から発熱を認め、その後発疹が出現し麻疹と診断された。さらに、発端者と同室の患者の付き添いをしていた母親も同時期に麻疹と診断された。

また、発端者の入院後14日目に、同室者を受け持っていた研修医が発熱をし、麻疹と診断された。研修医は、入職時に抗体検査をしていたが、EIA法による麻疹IgG抗体価は4.3であった。麻疹抗体価は通常の検査では、2.0未満は陰性、2.0以上4.0未満は判定保留、4.0以上は陽性とされているが、日本環境感染学会の「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(第1版)」では、自分の値がワクチン接種の対象となっていることを知らず、抗体陽性であるのでワクチン接種は必要ないだろうと自己判断をしていたとのことであった。研修医が発熱した2日後に、発端者が入院していた病室以外にいた患者が発熱をしたとの連絡が入り、すでに退院していたが、来院していただき、診察、血液検査をしたところ麻疹であることが判明した。さらに、発端者の入院後16日目に、小児病棟に隣接する成人病棟に入院していた患者で、一度退院していた人に発熱、下痢がみられ、腎疾患もある患者であったため、別の病棟に入院をした。入院翌日に発疹が出現し、血液検査を実施の上、皮膚科に診察を依頼したところ、麻疹を疑われたため、すぐに感染症を扱う病棟の陰圧室に転室させた。その後麻疹IgM抗体の陽性が判明した。

結局、今回の麻疹の院内感染では、発端者およびその妹を含め7名が麻疹に罹患したことになる。γグロブリンの投与を受けた2名、ワクチン接種を受けていた幼児、研修医の症状は比較的軽症であった。残りの3名も重症化はしなかった。

現在発端者の入院より40日になる。最後の患者が発症したと考えられてから、23日間発症者はいない。

なお、保健所に届け出をした際に7名全員に遺伝子型を検査していただき、全員フィリピンで流行しているB3型であることが判明した。

感染管理対応
麻疹の潜伏期、通常は10~14日、免疫不全患者は3週間、γグロブリン投与者は4週間とされているため、長期にわたり発症の有無について注視していかなくてはならない。

発端者の麻疹診断後、感染のハイリスク患児へγグロブリン投与を行い、ただちに小児病棟の新規入院を制限した。制限期間は発症者の感染期間(発疹出現の5日前)内での最終接触日より14日とし、γグロブリン投与者が入院中の場合には4週間と判断した。

また、当該病棟入院中の患児のワクチンの接種歴の確認と、病棟業務に従事するすべての職種の麻疹抗体価を確認し、職員に関しては日本環境感染学会の「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(第1版)」に準拠し判断した。麻疹の抗体価がEIA法(IgG)で 16以上、または中和法で8倍以上が確認されていない職員に対し、発端者および発症職員との接触の有無や発端者の病室への出入り状況、発症者との初回接触からの時間経過等疫学的視点から調査を行い、γグロブリン投与、就業制限のいずれかを行った。

さらには発端者と発症職員の感染期間に入院していた患児に対して、既に退院されている患児保護者に連絡を行い、本事象の状況説明と今後注意するべき症状、医療機関受診時の事前連絡の方法等を説明した。また、これら患児の潜伏期に係る当院受診時の対応方法と担当者、診察場所についての情報共有、入院に必要な陰圧個室の確保を行った。

院内感染防止の視点から、職員の抗体価確認とワクチン接種は、事象後管理部門で全職員の麻疹抗体価の再確認を行い、各職員が自身の抗体価の把握ができるよう対応した。また、ワクチンガイドラインの基準に準拠のうえ、ワクチン接種が推奨される職員へ麻疹・風疹混合ワクチン接種を行っている。

現在の麻疹流行状況より麻疹の持込みの可能性があることから、発熱・皮疹を認める場合、麻疹疑いを早期に確認するための観察ポイントや情報収集の視点、修飾麻疹の説明や特徴的な皮膚・粘膜症状についての情報共有を行っている。

 

日本医科大学付属病院感染制御部   前田美穂 藤田昌久 中川仁美

最終更新日 2014年4月23日(水曜)18:19

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