国立感染症研究所

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<速報>フィリピン渡航者からのB3型麻疹ウイルスによる集合住宅内での集団発生事例―名古屋市

(掲載日 2014/6/26)  (IASR Vol. 35 p. 178-179: 2014年7月号)

名古屋市において、フィリピン渡航者3名を発端とするB3型麻疹ウイルスによる集合住宅内での集団発生事例が確認されたので報告する。家族および患者番号は発生届受理順に付番した。

概要:患者は全員同じ集合住宅に住む4家族25名中11名であった。年齢は0歳9か月~15歳で、麻疹含有ワクチン(MCV)未接種者が10名、2回接種者が1名であった。2014年3月中旬にフィリピンから帰国した3名が発症した後、複数の棟にわたって患者が発生し、同年4月下旬に発症した患者を最後に感染は終息した。

経時的発生状況:家族A~Dにおける麻疹発生状況および推定された感染源を図1に示し、発症日別流行曲線を図2に示した。最初に発症した3名は、2014年2月18日~3月14日にかけてフィリピンに渡航していた家族Aであった。0歳9か月男児(患者1)と4歳男児(患者2)が3月28日に発熱、その後、咳、鼻水、結膜充血、発疹が出現し、3月29日 に 臨床診断により麻疹と診断され、31日に発生届が提出された。31日夕方、3月20日より同様の症状が認められた5歳女児(患者3)も麻疹と診断を受けた。家族AのMCV未接種者2名に対し早急にγ-グロブリン製剤を投与したが、13歳女児(患者4)、15歳女児(患者5)ともに4月1日に発症した。

その後、家族Bにおいて9歳女児(患者6)が4月9日に、6歳男児(患者7)が4月14日に発症した。また、家族Cにおいて8歳女児(患者8)が4月16日に、家族Bと同じ棟に住む家族Dにおいて11歳女児(患者9)が4月25日に発症した。聴き取り調査により患者8は患者6との接触が疑われ、患者9にはMCV接種2回の記録が確認された。家族Cにおいては3歳女児(患者10)と14歳女児(患者11)に4月21日にγ-グロブリン製剤を投与したが、それぞれ4月27日と28日に発症した。患者9は発熱およびカタル症状が認められず、患者10および11はカタル症状が認められなかったため、修飾麻疹と診断された。

ウイルス遺伝子検査:ウイルス遺伝子検査は、国立感染症研究所の麻疹検査マニュアル(第2版)に従って実施した。11名の患者から採取した血液、咽頭ぬぐい液、尿を用いて、RT-PCR法による麻疹ウイルスN遺伝子およびH遺伝子の検出を行った。その結果、患者全員において1検体以上からN遺伝子およびH遺伝子の増幅が確認された。N遺伝子の増幅産物を用いて、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定したところ、患者全員から得られた塩基配列(493bp)はすべて同一であり、系統樹解析を行った結果、B3型麻疹ウイルスに分類された。

関係機関の対応:患者3は発熱前日に保育園に登園していたため、保健所は4月1日に保育園を通じて園児の接触状況および予防接種歴を確認した。その後、保育園は保護者への麻疹発生の情報提供を行い、MCV未接種者への勧奨チラシを配布した。

家族Aは集合住宅に住んでおり、住宅内での感染拡大が懸念された。保健所は流行状況およびMCV接種勧奨のチラシを4月16日に集合住宅掲示板に掲示し、回覧版で各家庭への回覧を依頼した。また、区内の保健・医療・教育機関および関係者にも情報提供を行った。名古屋市健康福祉局保健医療課では、4月16日に名古屋市ホームページに注意喚起とMCV接種勧奨を掲載した。

患者6~9が通う小学校では学校行事を延期した。また、担任や学区担当保健師の家庭訪問などによる接種勧奨実施の結果、MCV未接種者5名が全員接種するに至った。

考察:今回の事例は、集合住宅内のMCV未接種児を中心として麻疹感受性者が蓄積されていたことが、主に家族内および集合住宅内での感染拡大につながったと考えられた。

患者3名は発熱やカタル症状を欠いた修飾麻疹であった。2名(患者10、11)は発症する6~7日前にγ-グロブリン製剤の投与を受けていたため非典型的な経過をとったと考えられた。また、1名(患者9)は2回のMCV接種歴があったことから、接種後に麻疹ウイルスに曝露されないことでブースター効果が得られず、感染防御に十分な抗体価が維持できなかったsecondary vaccine failureが考えられた。

昨年末から、フィリピンからのB3型を中心として、全国的に麻疹ウイルス輸入症例が増加している1)。名古屋市においても2013年12月にオーストラリアからB3型1例、2014年に入ってから6月10日現在までに、今回の事例を除いてフィリピンからB3型2例、インドネシアからD9型1例の輸入麻疹症例が確認された。

今回の事例では、麻疹の輸入症例が感受性者のいる集団でいったん発生した際の伝播力の強さを改めて感じさせられた。麻疹の感染拡大を防ぐためには、地域全体の予防接種率を高め、麻疹感受性者を減少させることと、患者発生を探知した際の地域住民や関係機関と連携した迅速な対応が重要であると実感した事例であった。

 
参考文献

名古屋市衛生研究所  小平彩里 横嶋玲奈 柴田伸一郎 平田宏之
名古屋市緑保健所  鈴木範子 中川正子 徳田陽子 川田剛之 西浦茂美 田中裕三 稲葉静代
名古屋市健康福祉局保健医療課  丸山佳紀 林 昌徳

 

最終更新日 2016年7月01日(金曜)15:28

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