国立感染症研究所

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都内で発生したノロウイルスGII.P12-GII.4 Sydney_2012による食中毒事例について

(IASR Vol. 39 p146-147: 2018年8月号)

東京都内の大学の学生食堂において食中毒事例が発生し, これまでに集団食中毒事例としては報告例のないノロウイルス(NoV)GII.P12-GII.4 Sydney_2012が検出されたので, その概要を報告する。

2017年12月23日, 都内の医療機関から 「大学内の研修施設に12月20~22日に宿泊した高校生6名が, 22日夕方から食中毒様症状を呈し, 当院を受診している」 との連絡が世田谷保健所にあった。保健所が調査を行ったところ, 同じ研修施設で合宿をしていた2グループのほか, 大学の2つの学生寮の寮生が, 大学の学生食堂を給食として利用していることが判明した。12月21日に学生食堂で夕食を喫食した4グループ217名のうち47名(グループ①9名, ②11名, ③12名, ④15名)が, 12月22日午後3時~12月25日午前9時にかけて吐き気, 嘔吐, 腹痛, 発熱, 下痢を呈していた。

グループ①はA県内の高等学校の生徒および教員であり, 12月20~22日まで当該研修施設を28名で利用し, うち27名が滞在期間中に学生食堂で食事の提供を受けていた。また, グループ②はB県内の高等学校の生徒であり, グループ①と同様に12月20~22日まで当該研修施設を25名で利用し, 学生食堂で食事の提供を受けていた。グループ③およびグループ④は大学の2つの寮の寮生であり, 合わせて165名が12月21日夕食を学生食堂で喫食していた。患者は, 12月23日午前6時~午後0時をピークとして発生しており, 単一曝露であったことが示唆された。学生食堂等において, 嘔吐など感染症を疑う情報や, 全グループの患者に共通する行動はなく, 患者全員に共通する食事は学生食堂で提供された食事のみであった。

NoV検査は, 患者37名(グループ①9名, ②11名, ③9名, ④8名)と当該施設の従事者16名の糞便検体, 検食12検体および拭き取り9検体について実施した。その結果, 患者29名(グループ①9名, ②7名, ③8名, ④5名)と調理従事者1名の糞便検体および拭き取り1検体(従事者用トイレ)からNoV GIIが検出された。

NoV GIIが検出された調理従事者は, 12月20日夜に軟便を呈したが, 体調不良であるという自覚がなかったため, 12月20日(夕食), 21日(昼食, 夕食), 22日(昼食)の調理に通常通り従事していた。疫学的見地から12月21日の夕食, 特にオレンジゼリーとの関連が認められ, 一方で前述の調理従事者はオレンジゼリーの調理作業に携わっていた。

本事例の患者から検出したNoVについて, ポリメラーゼ領域およびカプシド領域の遺伝子型別を実施した。ポリメラーゼ領域の増幅用プライマーには, 1st PCRではMR3およびCOG2R, 2nd PCRではLV82およびNV81を使用し, カプシド領域の増幅用プライマーには, 1st PCRではCOG2FおよびG2SKR, 2nd PCRではG2SKFおよびG2SKRを使用した。標的とする増幅産物はBigDye terminator法により反応後, ABI3500 Genetic Analyzerにて解析し, NoVのシークエンス配列を得た。さらに, Norovirus Typing Tool Version 2.0(https://www.rivm.nl/mpf/typingtool/norovirus/)にて配列を解析した結果, 遺伝子型はGII.P12-GII.4 Sydney_2012に分類された。以上の調査結果より, 本事例は12月21日の夜に学生食堂において提供された食事を原因とするGII.P12-GII.4 Sydney_2012を起因とする食中毒であると断定された。

なお, 本事例で検出された患者10検体(LC389067), 調理従事者1検体および拭き取り1検体のNoVカプシドN/S領域のシークエンス配列(282塩基)を比較したところ, 12検体とも100%一致した。また, 塩基配列データベースを検索したところ, 大阪でも塩基配列がほぼ同一のNoV GII.P12-GII.4 Sydney_2012株(LC375954-LC375957)が検出・登録されており, 系統樹解析において本事例株と同一クラスタに含まれた ()。

 

世田谷区世田谷保健所生活保健課
富山市保健所 元井 勇
富山県衛生研究所 ウイルス部  稲崎倫子 小渕正次
東京都健康安全研究センター微生物部  永野美由紀 宗村佳子 浅倉弘幸  小田真悠子 新開敬行 貞升健志

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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