馬刺しを原因とする食中毒―福岡県
2011(平成23)年9月5日、生食用馬肉(馬刺し)を摂取したことによる食中毒事件が福岡県内で発生した。県保健福祉環境事務所の調査によると、9月5日19時頃に家族2名が自宅にて夕食(馬刺しを含む)を摂り、翌6日2~5時頃、2名とも下痢、腹痛等を発症、うち1名が医療機関で受診した後、県保健福祉環境事務所へ連絡した。また、別の家族5名も、同様に9月5日19時頃、自宅にて夕食(馬刺しを含む)を摂り、うち2名が9月5日22時~6日6時頃に下痢等を発症した。有症者4名の共通食は、9月5日に熊本県内の同一食肉販売店で購入した「馬刺し(冷蔵)」で、有症者を含む2家族7名全員が摂取していた。
販売された馬刺しは、熊本市内の食肉処理業者から当該食肉販売店が仕入れたカナダ産馬のウデ肉で、冷凍処理されておらず、食肉販売店でトリミング後、冷蔵保存され、販売されていた。また、2家族が購入したものは同一馬の同一部位から切り出されたものであった。潜伏時間は3~11時間で、主症状は下痢および腹痛で、有症者1名が医療機関にて抗菌薬等による治療を受けたが、入院には至らなかった。9月8日、県保健医療介護部保健衛生課より検査依頼を受け、9月9日、県保健福祉環境事務所より、有症者便4検体および馬刺し残品1検体が搬入された。
本事例では、平成23年8月23日、食安0823第1号、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知による、「Sarcocystis fayeri の検査法について(暫定版)」に従い、馬刺しの検査を行った。18S rRNA領域を標的としたコンベンショナルPCRを行い、馬刺し検体よりザルコシスティス属の約1,100bpのバンドを検出した(図)。陽性対照は、国立感染症研究所・八木田主任研究官より配布されたDNA鋳型を用いた。さらに、検鏡を行い、ザルコシストおよびブラディゾイトを確認した。並行して行った食中毒細菌検査では、1名の便からウェルシュ菌、1名の便から黄色ブドウ球菌が検出され、馬刺しからも黄色ブドウ球菌が検出されたが、黄色ブドウ球菌は7%NaCl加トリプトソーヤブイヨンによる前培養後に食塩卵寒天培地より分離したものであり、これらの食中毒細菌が今回の事例に有意に関連しているとは考えがたく、ザルコシスティス属による食中毒であることを強く示唆するものであった。この事例は、最終的に、馬刺しを原因とする食中毒として行政処分が行われた。
福岡県保健環境研究所保健科学部病理細菌課
竹中重幸 濱﨑光弘 江藤良樹 市原祥子 村上光一 堀川和美
宗像・遠賀保健福祉環境事務所
中岡秀仁 前田真奈美 重岡理恵 松尾樹治
南筑後保健福祉環境事務所
永島弘之 熊本サチ子
福岡県保健医療介護部保健衛生課
山﨑知絵 野中寿子