Kudoa hexapunctataが原因と疑われる有症事例の発生―新潟県
(IASR Vol. 37 p.238: 2016年11月号)
Kudoa hexapunctataはクロマグロ(特に若魚のメジマグロ)に寄生する粘液胞子虫で,2014年に横山ら1)が,キハダマグロなどに寄生するK. neothunniとは異なることを明らかにし,新種として提唱されたものである。
鈴木ら2)は,マグロの喫食による下痢発症の70%以上が6月~9月に発生しており,残品のマグロから高率にK. hexapunctataを検出し,また,K. hexapunctataのCaco-2細胞に対する毒性も確認したと報告している。
2016年に新潟県でK. hexapunctataが原因と疑われる有症事例が2件発生したので,その概要を報告する。2事例(A,B事例)は6月下旬と7月上旬に発生した。発症者はA事例で2グループ13名中8名,B事例は1グループ4名中3名で,いずれも下痢と嘔吐を主徴としていた。発症までの平均潜伏時間はA事例で11.2時間,B事例で8.7時間と近似していた。2事例の患者と調理従事者の検便で,既知の食中毒起因細菌およびウイルスは検出されなかった。この他に2事例に共通するものとして,冷凍されていないメジマグロが刺身や寿司として喫食されていた。提供されたメジマグロの残品はなかったため,患者便についてK. hexapunctata特異的リアルタイムPCR1)により検査を実施したところ,A事例では6検体中4検体,B事例では検査した3検体すべてが陽性となり,喫食されたメジマグロにK. hexapunctataの寄生があったと推定された。また,B事例では調理従事者3名が,残ったメジマグロを賄い食として喫食しており,このうち2名の便でも陽性を確認したが,同様の症状はなかった。
2事例は,マグロ関連下痢症の頻発時期に発生し,発症状況などからもK. hexapunctataが原因である可能性はあったが,K. hexapunctataは食中毒の病因物質に指定されておらず,喫食されたメジマグロのK. hexapunctata胞子数や喫食量も不明であったため,原因不明有症事例としての判断に至った。また,ヒラメへのK. septempunctataの寄生率(算出値で0.06%)3)に比較して,メジマグロのK. hexapunctataの寄生率は64%2)と高率であることも,食中毒の原因として判断が難しい点である。今後もメジマグロが関連する下痢症については注視し,事例や情報を集積していく必要があると考える。
参考文献
- Yokoyama H,et al.,Parasitol Int 63: 571-579,2014
- Suzuki J,et al.,Int J Food Microbiol 194: 1-6,2015
- 寄生虫評価書 ヒラメのKudoa septempunctata,食品安全委員会,2015