国立感染症研究所

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カンパチに寄生したKudoa属に近縁な粘液胞子虫 Unicapsula seriolaeの関与が疑われる集団有症事例―広島県

(IASR Vol. 39 p225-226: 2018年12月号)

2018年1月, 広島県内の宴会場を有する宿泊施設において, カンパチに寄生したKudoa属に近縁な粘液胞子虫Unicapsula seriolae(以下U. seriolae)の関与が疑われる集団有症事例が発生したので, その概要を報告する。

1.概 要

1月12日, 宿泊施設から管轄保健所に「当施設で開催された新年互礼会の参加者の中に下痢症状を呈する者が確認され, 食中毒の可能性がある。」旨の連絡が入った。調査の結果, 1月11日に開催された新年互礼会に1グループ54人が参加し, そのうち6人が下痢を呈していた。発症状況はクドアによる食中毒に類似していたが, 当日のメニューにヒラメはなく, 冷蔵流通のカンパチが刺身として提供されていたことからU. seriolaeの関与を疑い, 2015(平成27)年7月2日付け厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室事務連絡「食中毒調査に係る病因物質不明事例の情報提供について(協力依頼)」に基づき, 国立医薬品食品衛生研究所にカンパチ刺身残品と有症者便を提供した。検査の結果, カンパチ刺身残品からU. seriolaeが検出された。

2.発症状況

有症者6人の症状は下痢必発(水様便, 1回1人, 2~5回3人, 6回以上2人), 嘔気2人, 渋り腹2人で, 腹痛や嘔吐はなかった。潜伏時間中央値は5時間(範囲:4時間~6時間30分)で, 翌朝には全員回復している。有症者の共通曝露は当該会食に限られ, 流行曲線に一峰性がみられた。

発症率は11%で, 有症者は9テーブル(6人掛け)中3テーブルに偏っており, 3テーブルの発症率はそれぞれ17%, 33%, 50%であった。

3.検査結果

国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部第4室において, カンパチ刺身残品と有症者便の遺伝子検査(U. seriolae特異的定性PCR, 特異的定量RT-PCR)および顕微鏡検査(U. seriolae胞子数計数)が行われた1)

検査の結果, カンパチ刺身残品の5カ所から採取した検体はいずれもPCR陽性で, 定量的には1.8×105~4.6×108copy/gであった。また, 鏡検により5カ所中1カ所から2.4×106個/gの胞子が検出された。有症者便は定性PCR, 定量PCRともに陰性であった()。検出された胞子の写真をに示す。

当該会食で提供されたメニュー別に相対危険度を算出した結果, カンパチの刺身を含め有意差はなかった。

4.考 察

クドアによる食中毒に類似した有症事例で, カンパチ刺身残品からU. seriolaeが検出された。U. seriolaeの毒性はまだ証明されていないが, カンパチの生食に伴う有症苦情事例とU. seriolaeとの間に関連性が示唆されていることから2,3), 本事例はU. seriolaeが原因物質である可能性が考えられる。U. seriolaeの毒性解明が進むことが望まれる。

当該会食では, 3匹のカンパチを刺身に調理し, 20切程度(約200g)ずつ9つの大皿に盛り付け, 各テーブルに配置していた。有症者が9テーブル中3テーブルに偏っていたことから, 3匹のうちの1匹に寄生していたU. seriolaeが関与していたのではないかと考えられる。しかしながら, 有症者のカンパチ喫食量までは調査しておらず, 発症量は不明であった。

なお, カンパチの遡り調査の結果, 生産地は国内(養殖)で, 県内卸売市場および仕入先の販売店に, 関連する有症事例の情報は入っていなかった。

有症者便5検体は, 喫食後33~52時間の間に採取されていたが, いずれもU. seriolaeは検出されなかった。U. seriolaeなどの粘液胞子虫はヒトの腸管で定着や増殖はしないと考えられており4), 検便からの検出は検便採取のタイミングが難しいと思われる。

謝辞:本事例の調査にあたり, 快く検査を受けていただき, また, 御助言いただいた国立医薬品食品衛生研究所・大西貴弘先生に厚くお礼申し上げます。

 

参考文献
  1. 大西貴弘ら,食衛誌 59(1): 24-29, 2018
  2. 大西貴弘ら,日食微誌 33(3): 150-154, 2016
  3. 土橋萌美ら,食品衛生研究 68(7): 47-52, 2018
  4. 鈴木 淳,日食微誌 34(2): 84-88, 2017

 

広島県北部保健所
 丸山暁人 藤田愛里 池上絵理子 野島誠治 難波利元 田渕文子

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