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石垣島での鼠咬症症例について

(IASR Vol. 35 p. 246-247: 2014年10月号)

ネズミに噛まれた後に、発熱、皮疹、多発関節痛を認め、鼠咬症と診断した1例を経験したため報告する。

症 例
石垣島在住の63歳女性。2014年7月、自宅でネズミに右手第3指を噛まれた。5日後(第1病日)より発熱、全身倦怠感、嘔気、下痢が出現した。第4病日、四肢の疼痛が出現し、体動困難となったことから、前医に入院した。第5病日、上下肢に皮疹が出現し、その後拡大傾向にあった。第7病日、当院へ転院した際の身体所見では、四肢の末梢優位に点状の紫斑と、両側の手掌・足底に有痛性の膿疱を認めた(図12)。右手第3指に咬傷痕を認めたが、痂皮は認めなかった。全身の関節痛(両側の股関節・膝関節・足関節、左肘関節、左手関節)を認め、そのうち膝・足・手関節は熱感と腫脹を伴っていた。両側下腿に浮腫を認めた。眼球結膜の黄染や充血は認められなかった。

初診時の血液検査は、WBC 11,000 /μL(Neu:95%)、Hb 13.7g/dL、Plt 14.6万/μL、T-bil 1.8mg/dL、AST 59 IU/L、ALT 60 IU/L、ALP 669 IU/L、γGTP 217 IU/L、BUN 28mg/dL、Cre 2.49mg/dL、CRP 27.0mg/dLであった。電解質や凝固機能に異常は認められなかった。尿検査では、潜血1+、蛋白尿2+、白血球-、亜硝酸-であった。胸部単純X線検査、心電図検査で特記すべき異常所見は認めなかった。

臨床経過より鼠咬症を疑い、皮膚生検を3カ所(下肢の膿疱と健常皮膚、咬傷痕)で実施した。検体よりDNAを抽出し、Streptobacillus moniliformisの16S rRNA遺伝子特異的PCRを行ったところ、膿疱部位からS. moniliformis遺伝子が検出された。また、抗菌薬投与前の血液培養で菌の発育を認め、特異的PCRによりS. moniliformisと特定されたため、鼠咬症と確定診断した。アンピシリンに対する薬剤感受性は良好であった。

治療薬として、入院当日よりアンピシリンの点滴静注を開始し、計16日間投与した。股関節や膝関節痛のため、寝返りも困難な状態であったが、抗菌薬開始後は徐々に改善傾向を示した。抗菌薬開始4日目に採取した血液検体では、S. moniliformis遺伝子は検出されなかった。抗菌薬終了時には、紫斑は四肢末端に限局しており、関節炎の所見も改善傾向にあった。退院後の第36病日には、炎症反応、腎機能、肝胆道系酵素はいずれも基準値内となり、皮疹や関節炎の所見は消失した。

考 察
鼠咬症の原因菌として、S. moniliformisまたはSpirillum minusが知られているが、病原体の特徴と感染に伴う臨床所見が異なることから、別個の疾患として扱う必要がある1)。  

S. moniliformisは通性嫌気性のグラム陰性多形性桿菌で、保菌しているネズミによる咬傷、または、ネズミの排泄物や汚染された飲食物を介した経口感染により感染する2)。1915年にネズミ咬傷後の患者血液中にS. moniliformisが初めて証明され、それ以来各国で症例が報告されている2)。近年本邦でも、2007年に2例、2010年に1例など、ときおり患者が報告されている3)

鼠咬症の臨床所見としては、ネズミに咬まれた後、多くは7日以内に、悪寒を伴う発熱、多発関節痛(好発部位は膝・足関節)を呈する。初期症状として、これら以外に頭痛、嘔気、咽頭痛、倦怠感などの症状を伴うこともある。発熱が出現した2~4日後、四肢に多彩な皮疹が出現し(斑状丘疹状発疹、点状出血、紫斑)、手掌や足底には、有痛性膿疱を認める場合もある。関節痛は、長期間遷延する例や、発赤・腫脹などの関節炎の所見を伴う例もあり、これまで化膿性関節炎を合併した症例も報告されている4)

診断方法としては、血液培養からのS. moniliformisの分離・同定や、血清、咬傷部痂皮や皮疹から採取した皮膚検体からS. moniliformis遺伝子を検出することも有用である1,2)。本症例では、S. moniliformisの16S rRNA遺伝子配列を解析した結果、ドブネズミではなくクマネズミが保菌する株のシークエンスタイプを示し、これは2007年に発症した1例と一致していた。

治療としては、ペニシリン系薬剤が最も有効とされている。ペニシリンアレルギーがある場合は、セフェム系薬剤やテトラサイクリン系薬剤が用いられる1)

結 語
S. moniliformisによる鼠咬症の1例を経験した。ネズミの曝露歴に加え、四肢に膿疱を含む多彩な皮疹を認めた場合は、鼠咬症を疑うことが重要である。また、鼠咬症の診断には、抗菌薬投与の有無にかかわらず、皮膚検体の遺伝子検査を行うことが有用である。


参考文献
  1. Sean PE, Clin Microbiol Rev 20:13-22, 2007
  2. 今岡浩一、木村昌伸, 別冊 日本臨床新領域症候群シリーズ 24:181-185, 2013
  3. Daiki Nakagomi, et al., Journal of Dermatology 35:667-670, 2008
  4. Wang TKF, Wong SSY, BMC Infectious Diseases 7:56, 2007
 
がん・感染症センター都立駒込病院
  感染症科 福島一彰 柳澤如樹 古畑匡規 佐々木秀悟  菅沼明彦 今村顕史 
  同臨床検査科 関谷紀貴
石垣島徳洲会病院 岡本幸太
国立感染症研究所獣医科学部  木村昌伸 今岡浩一
 

 

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