注目すべき感染症 ◆ 先天性風疹症候群-2012年~2014年第12週現在-
(注)以下、本稿においては、感染症法に基づく感染症発生動向調査から得られた情報を基にまとめている。今後、状況の進展に伴い修正されることもありえるので注意されたい。
先天性風疹症候群(CRS:congenital rubella syndrome)とは、風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染し、出生児に白内障、先天性心疾患、難聴等の症状が見られたものである。
2005~2011年まで、CRSの報告は年0~2例で推移していた。2012年には4例、2013年には32例、2014年第12週(2014年3月26日現在)までには8例の計44例が報告されている〔国立感染症研究所.先天性風しん症候群(CRS)の報告(2014年3月26日現在)http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/2014-01-12-07-59-09/700-idsc/4505-rubella-crs-20140326.html〕。ここでは2012年以降の44例について述べる。報告都道府県としては、東京都16例、大阪府6例、埼玉県4例、神奈川県、兵庫県各3例、愛知県、三重県、和歌山県各2例などが報告されている。性別は男性24例、女性20例で、母親の風疹ワクチン接種歴は、なし15例、不明20例、1回接種あり9例であった。母親の妊娠中の風疹発症は、あり30例、不明10例、なし4例であった。発症を認めた30例のうちの15例において発症時の妊娠週数の記載があり、その中央値は9週(3~18週)であった。
CRSの検査室診断は、PCR法のみによるものが7例、血清IgM抗体のみによるものが25例、PCR法と血清IgM抗体によるものが12例であった。3徴として知られる白内障、先天性心疾患、難聴の主な症状については、先天性心疾患のみ(20例)、難聴のみ(12例)、白内障のみ(3例)、先天性心疾患・難聴の2徴合併(3例)、白内障・先天性心疾患・難聴の3徴合併(1例)となっていた。他の症状としては、紫斑(19例)、生後24時間以内に出現した黄疸(10例)、脾腫(9例)、小頭症(4例)、色素性網膜症(3例)、X線透過性の骨病変(3例)、精神発達遅滞(1例)が認められた例があった(重複含む)。先天性心疾患24例中、動脈管開存症は18例と最も多かった。
過去の報告からも、風疹の流行があるとCRS発生が増加することが知られている(先天性風疹症候群とは:http://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/429-crs-intro.html)。2011年から始まった風疹の流行は2013年第19~22週にピークを迎えた(図)。妊婦が風疹に罹患してからCRS児が出生するには、20~30週程度の時間差が生じることが知られており、実際2013年第43週~2014年第2週にCRSの報告が増加した。
なお、風疹では不顕性感染が15~30%程度あることから、妊婦が風疹ウイルス感染に気付かずに経過している場合がある。また、CRSにおいて最も多い難聴などの症状は出生直後には把握されにくいことにより、乳児期のしばらくの期間、CRSの症状把握が積極的に行われなければ診断が遅れ、患児に対する適切な療育支援の開始が遅れる可能性がある。さらに、CRSにおいては、鼻咽頭、尿から、数カ月にわたって風疹ウイルスが検出されることもあるので、周りにいる感受性者への対応についても考慮する必要がある。
具体的に、CRSを確実に診断するためには、妊娠初期に風疹ウイルスに感染した母より出生した新生児や新生児聴覚検査等でCRSが疑われる新生児を対象とした確認が挙げられる。また、乳児健診~1歳半健診時など母子保健事業を活用して児の症状を丁寧に確認することで早期診断に繋げることが出来ると考えられ(例:墨田区保健所によるポピュレーションアプローチ)、患児の成長発達にも良い効果が得られるのではないかと期待される。今後は、患児に対する医療・公衆衛生両面の望ましい療育支援のあり方について議論を深め実施していくことが重要である。また、予防として、妊娠を希望する女性への予防接種と、そのパートナーとなる男性への情報提供と風疹の予防啓発が必要である一方、2020年を目標とした風疹ウイルスそのものの国内からの排除達成に向けた取り組みが重要である。
国立感染症研究所感染症疫学センター 伊東宏明 中島一敏 山岸拓也 八幡裕一郎 松井珠乃 佐藤 弘 新井 智 奥野英雄 多屋馨子 加納和彦 木下一美 齊藤剛仁 高橋琢理 有馬雄三 砂川富正 大石和徳
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