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抗HIV薬治療下のHIV潜伏感染症:非致死的病態について―HIVと心疾患

(IASR Vol. 38 p.184-186: 2017年9月号)

はじめに

2017年現在の日本におけるHIV感染者に対する治療の状況は, 診断が確定して薬剤投与が開始となれば, ほぼ100%近くウイルスを測定感度以下に抑制することができ, 発症前であればAIDSまで進むことはほぼないと言っても過言ではない。そのぐらい現在の治療薬は強力で耐性ウイルスが出にくく, かつ副作用も以前と比べると問題にならないくらい少なくなっている。ただし, このシリーズで毎回述べているが, いまだにいったん開始した治療は中断することができないことに変わりはない。つまり, 最新の強力な抗HIV薬をもってしてもウイルスを体内から駆逐することはできないのである。また, 長期間HIV感染が継続するということは慢性炎症状態が持続することを意味しており, 心血管系疾患発症のリスク因子となり得るし, 骨代謝異常, 高血圧, 脂質異常, 癌の発生リスクの上昇, そして, HAND(HIV-associated neurocognitive dysfunction)と呼ばれる認知機能低下も, 脳内での残存ウイルスによる慢性持続感染に起因するものと考えられている。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan