国立感染症研究所

IASR-logo

デング熱の流行状況

(IASR Vol. 41 p93-94: 2020年6月号)

デング熱はアジア, アフリカ, 中南米, 地中海沿岸, 西大西洋地域の熱帯・亜熱帯地域129カ国で流行している1)。特に, 2019年の流行はこれまでにない大きな規模のものであった。本稿では, 2019年の各地域における流行状況を中心に概説する。

初めにアジア諸国における流行状況をまとめる2)。フィリピンでは, 2019年1月1日~11月30日までの累積報告数は414,532例(死亡1,546例)で, 前年の同時期の222,849例(死亡1,122例)から約2倍に増加した。2020年は感染者数が減少し, 1月1日~2月15日までの累積報告数が29,169例(死亡85例)で, 前年同時期(46,399例)と比較して37%少ない。ベトナムでは, 2019年第20週頃から感染者数が増加し, 第29~45週頃まではほぼ毎週8,000人を超える感染者が報告された。2020年は第7週の報告数が1,282例で, 前の週より24%, 前年の同期間より71%感染者数が減少した。ラオスにおいても2019年第20週頃から感染者数が急増し, ピーク時には1週間で約2,400例が報告された。2020年は第10週までの累積感染者数が516人で, 前年の同期間に報告された1,094人のおよそ半数に減少した。カンボジアでも2019年第20週頃より感染者数が増加し, ピーク時には1週間で5,000人を超す感染者が報告された。2020年は1週間ごとの感染者数は200人程度で, 第9週までの累積感染者数は1,439人である。シンガポールでは2019年第9週頃から感染者数が増加し, ピーク時には1週間で600例以上が報告された。2019年第28週以降は減少傾向にあるが, 2020年においても第1~9週の間は毎週300人以上の感染者が報告されている。マレーシアでは, 2019年1月1日~12月14日までの感染者数は124,777人で, 前年の同時期よりも49,165人増加した。特に, 第1~11週, 第25~35週の感染者数が多く, 1週間ごとの報告数は2,500例以上であった。2020年第1~10週の1週間ごとの感染者数も2,500人以上で, 2019年の同時期の感染者数推移と類似している。中国では, 2019年7~9月にかけて感染者数が急増し, ピーク時には1カ月で約8,000人の感染者が報告された。9月以降は減少傾向となり, 2020年1月の感染者数は268人であった。

アメリカ大陸においても2019年にデング熱の大規模流行が起きた3)。アメリカ大陸では2013, 2015, 2016年にも200-250万人規模の感染者数となる流行が起きたが, 2019年には第1~52週の感染者数は300万人を超え, 年間感染者数が1999年以降最も多かった。34の国と地域で前年よりも感染者数が増加し, ベリーズ, コスタリカ, エルサルバドル, メキシコ, ニカラグアでは前年の3-4倍, アンティグア・バーブーダ, ブラジル, ドミニカ共和国, グアドループ, グアテマラ, ホンジュラス, ジャマイカ, マルティニークでは前年の7倍以上の感染者数が報告された。2020年も流行は収まらず, Pan American Health Organizationによって公表されているアメリカ大陸の2020年の累積感染者数は1,169,152人で, 2020年4月現在ですでに2019年1年間の感染者数の約40%に達している。

デング熱の脅威は非流行地であったヨーロッパにも及んでいる。フランスとクロアチアは, もともと非流行地であるが, 初めて2010年にデング熱国内流行が確認された4,5)。2012年にはポルトガルのマデイラ島で流行し, 2,100人を超すデング熱患者が報告された6)。マデイラ島からの輸入症例はポルトガル本土の他, ヨーロッパの13カ国で確認された。その後は, 2013, 2014, 2015, 2018, 2019年にフランス, 2018, 2019年にスペインでもデング熱国内流行が報告された7)。2012年のマデイラ島を除き, いずれにおいても患者報告数は10人未満であるが, ほぼ毎年のように国内流行が確認されている。

日本やヨーロッパ等の温帯地域では, 秋に気温が下がることで媒介蚊の活動が低下することから, 熱帯・亜熱帯地域の流行地のように継続的に流行することはない。しかし, 流行地からの輸入症例を発端に春季から秋季にかけて国内流行が発生するリスクがある。したがって今後も世界的な流行状況を把握することが重要である。

 

参考文献
  1. Brady OJ, et al., PLoS Negl Trop Dis 6(8): e1760, 2012
  2. WHO, 2020, Dengue Situation Update 590, Update on the dengue situation in the Western Pacific Region, Northern Hemisphere
    https://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/Dengue-20200312.pdf
  3. Pan American Health Organization, 2020, Epidemiological Update Dengue
    https://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&view=download&category_slug=dengue-2217&alias=51690-7-february-2020-dengue-epidemiological-update-1&Itemid=270&lang=en
  4. Gjenero-Margan I, et al., Euro Surveill, Mar 3; 16(9): 19805, 2011
  5. La Ruche G et al., Euro Surveill, Sep 30; 15(39): 19676, 2010
  6. Wilder-Smith A, et al., Euro Surveill, Feb 27; 19(8): 20718, 2014
  7. European Centre for Disease Prevention and Control: Autochthonous transmission of dengue virus in EU/EEA, 2010-2019
    https://www.ecdc.europa.eu/en/all-topics-z/dengue/surveillance-and-disease-data/autochthonous-transmission-dengue-virus-eueea
 
 
国立感染症研究所ウイルス第一部 
 中山絵里 前木孝洋 谷口 怜 田島 茂 林 昌宏 西條政幸

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version