IASR-logo

大阪府における梅毒の発生動向と対策

(IASR Vol. 44 p203-204: 2023年12月号)(2024年1月4日黄色部分改訂)
 
はじめに

梅毒の届出数は2021年以降全国的に増加しており, 大阪府は東京都に次いでその届出数が多く, 妊娠症例数は, 2019~2021年において都道府県別上位3位以内となっている1,2)。本稿では大阪府内における梅毒の発生動向および大阪府, 大阪市(以下, 府市)で実施している対策の内容を紹介する。

大阪府内の梅毒発生動向(2023年第1~39週)

2023年10月16日現在, 第39週までに梅毒と診断された症例は1,551例となり3), 前年同時期(1,295例)より増加している。性別年齢別では, 男性で最も多く届出されているのは25~29歳, 次いで20~24歳で, 20~40代が男性全体の72%を占めている。一方, 女性では, 20~24歳が最も多く, 次いで25~29歳であり, 20代が女性全体の66%を占めている。15~19歳の届出は男性13例(男性の2%), 女性69例(女性の9%)であった。2019年以降, 症例の年齢分布に大きな変化はない。妊娠症例の届出は48例で, 増加傾向にある4))。このうち15~19歳の届出は8例(17%)あり, 2019年以降増減を繰り返している(2019年6例, 2020年8例, 2021年6例, 2022年5例)。先天梅毒の届出は3例あり, 2019年以降同水準で推移している。女性で性風俗産業従事歴があった届出は422例(女性の56%)であった。このうち15~19歳の届出が28例(女性の3.7%), 20~24歳が191例(女性の25.4%)あり, 2019年以降, この年齢群での届出割合が増加傾向にある。男性間性的接触があった届出割合は, 2019~2022年まで20%前後(17-24%)であったが, 2023年現在は14%となっている。

大阪府内における梅毒対策

現在, 梅毒の検査はHIVとあわせて, 大阪府と府内の政令市・中核市を含め29カ所の保健所・保健センターでは指定日に, 府市が委託する特設検査場では, 毎週平日2日の夜間および土曜日, 日曜日に無料・匿名で実施している5,6)。また, 大阪市ではゲイタウンに設置されたコミュニティセンターにおいて隔月に1日, 大阪府ではクリニックを窓口として夏と冬にそれぞれ1カ月半程度の期間, ゲイ・バイセクシャル男性に無料・匿名検査を提供している。2023年度には, 府市の事業で日本語が話せない人のために通訳付きの無料・匿名検査を月1回実施している。大阪府事業では, 女性のために女性スタッフによる夜間検査(レディースデー)を月1回実施している。

大阪府および大阪府内保健所設置市は, 啓発動画を作成し, 公式サイトやSNSに掲載するなど, webを利用した広域的な啓発も行っている。府市はそれぞれ啓発資材を作成し, 大阪府内教育関係機関, 医師会, 医療機関にも配布している。また, 性風俗産業従事者やゲイ男性の関連団体と協同し, 検査事業の広報等の啓発活動を実施している。大阪市では学生, 教職員向けに性感染症に関する健康教育を行い, 母子健康手帳発行時に梅毒等の性感染症について掲載した冊子を配布している。

現在の検査提供状況を引き続き維持していくとともに, 20代の届出が多く, 10代や妊娠症例の届出数が増加していることから, 若年層ならびに妊娠可能年齢の女性とそのパートナーに対し, 疑わしい症状発症時やパートナーの感染発覚時等の受検を含めた梅毒予防の啓発が重要である。

謝辞: 感染症発生動向調査にご協力いただいている関係機関, 梅毒対策について情報提供いただいた大阪府, 大阪市のご担当者様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 日本の梅毒症例の動向について(2023年10月4日現在)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1626-disease-based/ha/syphilis/idsc/idwr-sokuhou/7816-syphilis-data.html
  2. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査に基づく梅毒の届出における妊娠症例と女性性風俗産業従事者の症例, 2019-2021年
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m-3/syphilis-idwrs/11654-syphilis-20221130.html
  3. 大阪府感染症情報センター, 梅毒
    https://www.iph.pref.osaka.jp/zensu/20210128104826.html
  4. 大阪府感染症情報センター, 梅毒(妊娠例と先天梅毒の報告状況)
    https://www.iph.pref.osaka.jp/zensu/20220623152435.html
  5. 大阪府, 梅毒について
    https://www.pref.osaka.lg.jp/chikikansen/aids/baidoku.html
  6. 大阪市, HIV/エイズ・性感染症ガイド
    https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000549405.html
国立感染症研究所
 実地疫学研究センター
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
大阪健康安全基盤研究所
 公衆衛生部健康危機管理課    
  皐月由香           
 微生物部ウイルス課(生物部ウイルス課を微生物部ウイルス課へ改訂)        
  川畑拓也 阪野文哉 浜 みなみ
 公衆衛生部健康危機管理課    
  柿本健作 入谷展弘
 公衆衛生部
  本村和嗣

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan