病原体

 HBVDNA型の肝炎ウイルスで、ヘパドナウイルス科に分類される。直径約42nmの球状ウイルスで、外被(エンベロープ)とコアの二重構造を有している。表面を被うエンベロープ蛋白がHBs抗原、その内側のコア蛋白がHBc抗原と呼ばれる。コアの中には、不完全二本鎖のHBV DNAHBV関連DNAポリメラーゼが存在している。HBV DNAは約3,200塩基からなり、HBs抗原、HBc抗原、X蛋白質、DNAポリメラーゼをコードしている。HBVは遺伝子レベルでの分類が行われ、これまでにA型からJ型まで9種類の遺伝子型(ゲノタイプ)が同定され、この遺伝子型には地域特異性があること、慢性化率など臨床経過に違いがあることが知られている。さらに、遺伝子型Aは欧米型(Ae)、アジア・アフリカ型(Aa)に、遺伝子型Bはアジア型(Ba)、日本型(Bj)の亜系に分類されている。遺伝子型Cはアジア、遺伝子型Dは南ヨーロッパ、エジプト、インド、遺伝子型FHは中南米に分布している。日本では遺伝子型Cが多く、次に遺伝子型Bが続き、遺伝子型Cは遺伝子型Bに比べて予後が悪いと考えられている。最近、急性肝炎では海外から持ち込まれたと考えられる遺伝子型Aが急増しており、遺伝子型BおよびCと比べて慢性化しやすい。治療では、遺伝子型ABCDに比べてIFNが効果的である。

疫 学

 2002年の世界保健機関(WHO)の推計では、HBV感染者は世界中で20億人、HBV持続感染者は3.5億人、年間50-70万人の人々がHBV関連疾患で死亡していると報告している。HBVキャリアが人口の8%以上のいわゆる高頻度国は、アジアとアフリカに集中している。これに対し、日本、ヨーロッパ、北米などは感染頻度2%以下の低頻度国である。40歳以下は20012006年の日赤血液センターでの初回献血者集団においてHBs抗原陽性率を求めた結果から、40歳以上は節目検診受診者集団から得た値を用いて算出し、日本におけるHBVキャリア数を推測したところ、90万人であった。これは初回献血者集団および肝炎ウイルス検診受診者集団をもとにした値ということから、「自身の感染を知らないキャリア」と考えられる。HBVの持続感染は出生時または乳幼児期の感染によって成立し、 成人期初感染では、消耗性疾患・末期癌などの免疫不全状態を除けば、持続感染化することはまれである。持続感染が成立した場合、大部分は肝機能正常なキャリアとして経過し、その後免疫能が発達するに従い、顕性または不顕性の肝炎を発症する。そのうち8590% seroconversionを起こし、最終的に肝機能正常の無症候性キャリアへ移行する。残り1015%が慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌)へ移行し、肝機能異常を持続する。一過性感染の場合、7080%は不顕性感染で終わるものの、残りの2030%のケースでは急性肝炎を発症する。このうち約2%が劇症肝炎を発症し、この場合の致死率は約70%とされている。

国の肝炎対策

  日本では、1972年から輸血・血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始された。1986年から母子感染防止事業が実施され、垂直感染によるHBV無症候性キャリアの発生は減少した。しかし、対象児童の10%で予防処置の脱落または胎内感染によると見られる無症候性キャリア化が報告されている。また、現在の日本のB型急性肝炎患者の年齢を見ると14歳以下の小児、又は70歳以上の高年齢層の報告数が少ない。以上から、B型肝炎対策は母子感染予防処置の徹底と水平感染、特に性感染対策の強化が肝要であると思われる。

 社会的に大きな問題となっていたB型肝炎訴訟が、2011年、当時の管首相が国の責任を認めて、裁判に訴えている人たちに謝罪し、解決に向けて動きだした。このB型肝炎訴訟は、幼少期に受けた集団予防接種等の際に、注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに持続感染したとされる方々が、国に対して損害賠償を求めていた集団訴訟である。この訴訟については、裁判所の仲介の下で和解協議を進めた結果、20116月に、国と原告との間で「基本合意書」を締結し、基本的な合意がなされた。今後提訴をされる方々への対応も含めた全体の解決を図るため、「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」が2012113日から施行され、裁判上の和解等が成立した方に対し、法に基づく給付金等が支給されることになった。対象者は、7歳になるまでの間における集団予防接種等(1948年から1988年までの間に限る)の際の注射器の連続使用により、B型肝炎ウイルスに感染した方及びその方から母子感染した方(相続人)になる。給付金はその病態により異なるが、一人当たり最大3600万円になり、国は約43万人に支払う見込みとし、その費用は今後30年間で最大3.2兆円も必要になると説明している。

はじめに

 B型肝炎の原因ウイルスであるB型肝炎ウイルス(HBV)は、1964Blumbergらによるオーストラリア抗原として発見された。発見当初は免疫血清学的手法を用いて研究されてきたが、1970年にHBVの本態であるDane粒子が同定され、さらに1979年ウイルス粒子から、そこに含まれるウイルスゲノムがクローニングされ、HBVおよびB型肝炎に関する知見は飛躍的に進展した。B型肝炎に対しては1985年に母子感染予防対策が確立し、2000年には核酸アナログ製剤が治療法として導入され、現在ではインターフェロン(IFN)製剤と核酸アナログ製剤を用いることで、B型肝炎はウイルス増殖を抑え、肝疾患の進展を防ぐことが可能になってきている。しかし、我が国でも欧米に多い遺伝子型Ae株の症例が増加しており、免疫・化学療法によってB型肝炎が再活性化する問題も明らかになっている。

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