国立感染症研究所

IASR-logo

国内における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)L452R変異株置き換わりに関する分析

(IASR Vol. 42 p265-267: 2021年11月号)

 
背 景

 L452R変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(以下, L452R変異株)は感染性・伝播性の増加や宿主の中和活性の減少に影響を与える可能性があるとされている1-3)。B.1.617.2系統(デルタ株) はスパイクタンパク上にL452R変異を有しており, 世界保健機関や国内では懸念される変異株(variants of concern:VOC)に位置付けられている。デルタ株はインドでは2021年3月以降に急速な拡大を認め, 国内では2021年4月に国内の患者から, 国内例として初めて検出された4)。国内では一部の国から委託された民間検査会社で, 5月下旬からL452R変異株スクリーニング検査を先行的に開始し, その後, 自治体に対してはこれまで実施していたN501Y変異株から変わり, L452R変異株スクリーニング検査の検査数の報告が求められるようになった5)。以前に報告を行ったN501Y変異株の置き換わりに関する分析やその後の解析では, 5月中旬時点において, 国内の大多数の都道府県でN501Y変異株への90%以上の置き換わりがみられた6)。今回は以前の報告と同様の手法を用いて, 国内におけるL452R変異株への置き換わりについての検討を行った。

方 法

 民間検査会社7社から毎週共有されるL452R変異検出数, L452R変異非検出数, 検体提出日, 検査依頼機関の所在都道府県データを用いた。最終的にすべてのウイルスがL452R変異を有するウイルスに置き換わることを前提に, 各都道府県単位の変異株スクリーニング検査によりL452R変異の有無が判明した数(解析不能分を除くL452R変異検出数と非検出数を合計した件数。以下, 変異株スクリーニング検査数とする)に占めるL452R変異数の割合についてロジスティック成長モデルにフィットさせ, 推定を行った。また, ロジスティック成長モデルでの推定割合を基に, 観察期間以前に流行していたN501Y変異を有する変異株(アルファ株)の実行再生産数が1と仮定した場合のL452R変異株の感染・伝播性の増加率を推定した7)。本報告における解析データは2021年9月20日時点のものを用いた。なお, 今回用いたL452R変異株のデータでは, 6月7日以降に従来のN501Y変異株からL452R変異株の報告に変更となっており, 一部の検査会社ではそれ以前にN501Y変異が陰性であった検体についてL452R変異株検査が実施され, L452R変異株の検出が報告されていたため, 参考情報として「L452R変異検出数/N501Y変異株PCR検査数」を6月6日以前の割合のデータとして用いた。

結 果

 民間検査会社7社により, 2021年5月15日~9月20日までの間に, 47都道府県で251,783件のSARS-CoV-2検体のL452R変異の有無が判明した。関東地域(東京都, 埼玉県, 千葉県, 神奈川県)では5月中旬からL452R変異が検出され始め, 8月5日時点でL452R変異検出割合が90%以上に達した〔5月(0.5%: 11/2,388), 6月(11.1%:907/8,149), 7月(67.1%:26,794/39,947), 8月(95.4%:103,919/108,949), 9月(~20日まで) (98.9%:16,504/16,686)〕。関西地域(大阪府, 京都府, 兵庫県)では6月上旬からL452R変異が検出され始め, 8月16日時点でL452R変異検出割合が90%に達した〔5月(0%:0/230), 6月(3.1%:26/850), 7月(37.8%:1,233/3,265), 8月 (90.0%:15,192/16,881), 9月(~20日まで) (98.6%:4,553/4,619)〕()。全国的にみると, 9月20日時点で50件以上の変異株スクリーニング検査がされていた39都道府県のうち, すべての都道府県でL452R変異検出割合の推定値が90%以上に達していた。また, 従来流行していたN501Y変異株と比較し, L452R変異株の感染・伝播性の増加率は9月20日時点で, 関東地域で47.5%[95%信頼区間47.0-48.1%], 関西地域で54.1%[95%信頼区間52.3-55.7%]であった。

考 察

 前回のN501Y変異株置き換わりについての報告と同様, 民間検査会社の変異株スクリーニング検査データを用いて, N501Y変異株からL452R変異株への置き換わりの分析を行った。変異株スクリーニング検査の多くは, 民間検査会社以外に地方衛生研究所(地衛研)等でも実施されているが, 民間検査会社に検査を委託している自治体も多い。自治体間の差異はあるが, おおむね, 関東地域では8月上旬, 関西地域では8月中旬には90%以上がL452R変異株に置き換わっていたと考えられた。また, 民間検査会社により, 検体が提出される数に地域的に大きな偏りがあるため解釈に注意が必要ではあるが, 大多数の都道府県において, 9月20日時点には90%以上がL452R変異株に置き換わっていたと考えられた。変異株スクリーニング検査でL452R変異が検出された検体を中心に実施されたゲノム検査結果から, その多くはデルタ株であると考えられた。また, L452R変異株の感染・伝播性はN501Y変異株と比較して47-54%増加していたことが推測され, 従来流行していた株から, N501Y変異株へ置き換わった際の35-40%の増加と比較すると, より感染・伝播性が強くなっている可能性があった6)。なお, 本稿執筆時点の9月下旬において, 国内で流行している主要な株はデルタ株であり, 引き続きL452R変異株スクリーニング検査が実施されている。今後もL452R変異株の占有割合をモニタリングするなど, 新たな変異株への置き換わりへの変化に注目していくことが重要と考える。

 

参考文献
  1. ECDC, Threat assessment brief: emergence of SARS-CoV-2 B.1.617 variants in India and situation in the EU/EEA, 2021
  2. Yadav P, et al., Clinical Infectious Diseases, 2021
    https://doi.org/10.1093/cid/ciab411
  3. 国立感染症研究所, 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について(第13報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10623-covid19-57.html
  4. 国立感染症研究所, SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統の検出について, 2021年4月26日
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-lab-2/10326-covid19-43.html
  5. 厚生労働省健康局結核感染症課長, 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査における検体提出等について(要請), 令和3年6月4日一部改正
    https://www.mhlw.go.jp/content/000788648.pdf
  6. 小林祐介ら, IASR 42: 174-175, 2021
  7. EpiPose - Epidemic intelligence to minimize 2019-nCoV’s public health, economic and social impact in Europe, Transmission of SARS-CoV-2 variants in Switzerland
    https://ispmbern.github.io/covid-19/variants/

国立感染症研究所         
感染症疫学センター       
 小林祐介 新城雄士 大塚美耶子 土橋酉紀 高橋琢理
 有馬雄三 山内祐人 高 勇羅 大谷可菜子 鈴木 基
研究企画調整センター      
 島谷倫次 石原朋子 高橋宏瑞 竹下 望 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version