2022年1月26日9:00時点

国立感染症研究所

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概要

 WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

米国のCDC

スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

(2022年1月20日時点)

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

(BA.2はVUIに指定された)

VOC

BA.1/BA.2共で主流:G142D, G339D, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K

BA.1で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G496S, T547K, N856K, L981F

BA.2で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S, K417N, N440K

171か国

 

オミクロン株について

  •      オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠失と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief (2 Dec 2021))。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。
  •      下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。国内での検出もほとんどがBA.1系統であるが、検疫ではインド、フィリピン等に渡航歴がある者からBA.2系統が検出されている。国外では、デンマーク、インド等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統とBA.1系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2もB.1.1.529, BA.1と同様にL452R陰性となる。一方で、スパイクタンパク質の一部が欠失している(Δ69-70)ためにS遺伝子のPCRのみ陰性となる(S gene target failure(SGTF)と呼ばれる)ことを用いて、デルタ株とオミクロン株を区別する一部の国で用いられている方法があるが、BA.2系統ではΔ69-70がないため、デルタ株との区別に用いることはできない。英国においては、2022年1月1日までに非SGTF例の5%がBA.2系統となっており、この割合が増加している(UKHSA. Technical Briefing 34)。 BA.2の割合がBA.1の割合を上回ったデンマークの国立血清研究所(SSI)は、入院の状況に違いは見られないとしている(SSI. Now, an Omicron variant, BA.2, accounts for almost half of all Danish Omicron-cases )。現状では、BA.2の感染者に関する疫学的情報は限定的であり、今後の感染者や重症者の発生動向には注視が必要である。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加し、デルタ株からオミクロン株への世界的な置き換わりの進行を認めている。一方で、2021年末頃にオミクロン株感染者が急激に増加した国々の一部では、新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1、BA.2ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統が圧倒的多数を占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。

  •  2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染者が報告されて以降、2022年1月20日までに日本を含め全世界171か国から感染者が報告された(WHO. Enhancing response to Omicron SARS-CoV-2 variant. 21 January 2022)。直近30日間にGISAIDに登録された検体の解析では、オミクロン株の占める割合は58.5%(208,870/357,206:検体採取日が2021年12月12日~2022年1月10日の検体)、71.9%(291,600/405,739:検体採取日が2021年12月16日~2022年1月14日の検体)、89.1%(332,155/372,680:検体採取日が2021年12月25日~2022年1月23日の検体)と経時的に増加した(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 11 January 2022, Weekly epidemiological update on COVID-19 - 18 January 2022, WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 25 January 2022)。オミクロン株感染者の報告数は世界的に増加しているが、2021年11月から12月にかけてオミクロン株感染者が急激に増加した国々では、新規感染者数が減少し始めた国がある。
  •  オミクロン株の下位系統別の世界的な動向として、2022年1月25日時点でGISAIDに登録された検体のうち99%をBA.1系統が占め、残りがBA.2ないしBA.3系統であった(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 25 January 2022)。2021年11月17日以降、世界40か国から8,040検体のBA.2系統株のゲノム情報がGISAIDに登録され、そのうちデンマークが80%(6,411/8,040)を占めた(UKHSA. COVID-19 variants identified in the UK. Last updated 21 January 2022)。デンマークでは、新規感染者数が増加している状況下で、ゲノム解析結果の得られた検体のうちBA.2系統の占める割合が2% (167/7,618、2021年50週)、20% (2,166/10,904、2021年52週)、50% (3,603/7,229、2022年2週)と経時的に増加を認めた(Statens Serum Insittut. Genomic overview of SARS-CoV-2 in Denmark. Accessed 25 January 2022.)。英国では、2021年12月6日以降、ゲノム解析によりBA.2系統426例が確認され(UKHSA. COVID-19 variants identified in the UK. Last updated 21 January 2022)、検出数は少数ではあるが、BA.2系統の増加に伴うと考えられるPCR検査でS遺伝子が検出される検体の割合が増加している(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 34. 14 January 2022)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、2021年12月はBA.1系統が94%(1,759/1,864)、BA.2系統が3%(61/1,864)であり、2022年1月はBA.1系統が78%(141/181)、BA.2系統が19%(35/181)であった(NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 21 JAN 2022)。

 

日本での発生状況

国内では全ての都道府県からオミクロン株感染者が報告され、特に関東、関西、中国地方と九州の一部の地域で、市中感染の拡大による感染者数の更なる増加を認めている。多くの地域でオミクロン株への急速な置き換わりが進んでいるが、引き続き、デルタ株も検出されている。比較的感染者数が少ない地域でも流行地域からの感染の波及によるさらなる感染拡大が懸念される。

  •    全国の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数(報告日別)は、1月13-19日の週と前週の値の比は3.6と急速な増加が続き、10万人あたり約147人となっており、新規感染者は20代を中心に増加している。また、全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴って療養者数が急増し、重症者数も増加傾向にある。
  •    国立感染症研究所の分析では、2022年1月17日までにHER-SYSにL452R検出結果が入力されていた届出患者データを用いて、すべてのSARS-CoV-2がデルタ株からL452R陰性株に置き換わる過程にあるという仮定の下、L452R陰性株の検出率を推定したところ、関東地域(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)、関西地域(京都府・大阪府・兵庫県)では届出患者の95%以上がL452R陰性株に置き換わっていると推定された(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)。
  •         HER-SYSにおける国内の18歳以下の年代における感染者数は、流行状況が比較的落ち着いていた2021年後半にかけて11歳以下の占める割合が相対的に高かったが、オミクロン株が増加してきたと考えられる2022年第1〜2週にかけて12〜18歳の占める割合が大きく増加した。
  •         2022年1月24日までに検疫によって探知されたオミクロン株事例が2,159例と報告された。入国前14日以内に滞在した国の数は計91か国・地域であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

  •         沖縄県では2021年12月17日、キャンプ・ハンセン基地従業員でオミクロン株感染者が初めて確認された。2021年12月1日~2022年1月1日の県内のCOVID-19症例は400例、オミクロン株疑い例(L452R変異陰性)は159例、オミクロン株確定例(ウイルスゲノム解析により確定)は64例であった。オミクロン株確定例のうち詳細な疫学情報が得られた50例の基本属性は、男性24例(48%)、女性26例(52%)、年齢中央値は44歳(四分位範囲27-53歳、範囲6-89歳)であった。新型コロナワクチン接種歴は、2回接種完了者(2回接種後2週間以上経過した者)33例(66%)、部分接種者(1回接種者および 2回接種後2週間を経過していない者)3例(6%)、未接種者14例(28%)であった。発生届出時点での確定例有症状者は、48例(96%)であった。症状の内訳は、37.5℃以上の発熱75%、咳60%、全身倦怠感52%、咽頭痛46%、鼻水・鼻閉38%、頭痛33%、関節痛25%、呼吸困難8%、嗅覚・味覚障害2%であった(重複あり)。当該50例について、その後重症例や死亡例は、1月10日時点では確認されなかった。確定例の推定感染源は、職場内14例(28%)、家族内13例(26%)、家族や親戚、友人等との集まり(会食や法事)9例(18%)、不明・調査中14例(28%)であった(IASR. 沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告)。
  •         国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10754-2021-41-10-11-10-17-10-19.ht)を参照されたい

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •        感染・伝播性

海外からオミクロン株流行時には、これまでの流行株と比べてより高い実効再生産数、感染者数の増加率(Growth rate)、倍加時間(Doubling time)の短縮が報告されてきたが、新たに英国からデルタ株と比較して短い発症間隔(Serial interval)や世代時間(Generation time)が報告された。

国内においては、3都県で直近2週間と1週間の倍加時間が2日前後であり、短縮した世代時間を考慮してもデルタ株よりも首都圏および関西圏で高い実効再生産数を示していることからもオミクロン株による流行拡大が続いていると考えられる。国内の積極的疫学調査によれば、ワクチン接種者と非接種者ではウイルス排泄期間に大きな差がないこと、ワクチン接種者では発症ないし診断から10日以降のウイルス排泄の可能性が低いこと、無症候病原体保有者では診断から8日以降のウイルス排泄の可能性が低いことが明らかとなった。

国内の流行初期の多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていると考えられた。ただし、市中で感染拡大している地域においては、感染の場が児童施設、学校、医療・福祉施設等に広がっている。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)

  •       国立感染症研究所の分析では、1月3日時点での首都圏のオミクロン株の世代時間(平均2.1日)を用いたRt(実行再生産数)は1.41(95% CI 1.39-1.43)と推定され、デルタ株のRt 1.33(95%CI 1.28-1.33)より大きかった。関西圏でも1.41(95% CI 1.38-1.43)とデルタ株のRt 1.17(95%CI 1.10-1.26)より大きかった。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日
  •       国内で1月19日時点のHER-SYSに登録された情報に基づくと、診断日別の累積症例数の直近2週間と1週間の倍加時間は、東京都でそれぞれ2.5日、2.3日、大阪府で1.9日、1.7日、沖縄県で2.5日、2.3日であり、流行拡大が継続している。
  •    HSAが接触者調査のデータを用いて潜伏期間が2日未満のものを除外し、遺伝子検査でオミクロン株と確定したものの感染者ペアから発症間隔(Serial interval)を算出したところ、平均3.64日(95%CI 3.60-3.68)であり、デルタ株では3.87日(95%CI 3.84-3.90)であった。一方でオミクロン株では、データのばらつきが大きいために95%パーセンタイルが8.3-8.6日とデルタ株の7.9-8.1日より延長した(UKHSA Omicron and Delta serial interval distributions from UK contact tracing data)。
    •       英国においてSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスにおいて2021年11月23日から1ヶ月のデータを利用して、世代時間(Generation time)は平均1.5-3.2日(標準偏差1.3-4.6日)と算出された(Abbott et al.)。
    •       英国でのREACT-1研究において、1月5日から20日までに検体採取されてオミクロン株と確定された例では有症状例に対して採取1ヶ月前から無症状であった症例よりも有意に検体採取時のCq値が低いと報告された(Imperial College London . REACT round 17)。
    •       米国バスケットボール協会の定期スクリーニング検査データ(n=10,324)によれば、オミクロン株陽性例の方がデルタ株陽性例よりもウイルスRNAのピーク値(オミクロン株:Cq値23.3、95%CI 22.4-24.3、デルタ株:Cq値20.5、95%CI 19.2-21.8)が低く、クリアランス期間(オミクロン株:5.35日、95%CI 4.78-6.00、デルタ株:6.23日、95%CI 5.43-7.17)が短いと推定されたが、クリアランス率は同程度であった。
    •        厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を実施している。本調査の一環として、オミクロン株感染者の感染性ウイルス排出期間を検討しており、これまでに3つの報告を行った。第1報では2回のワクチン接種から14日以上経過しているオミクロン株感染者(無症状者および軽症者)では、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことを報告した。第2報では、ワクチン接種者とワクチン未接種者においてオミクロン株感染後の上気道検体中のウイルスRNA量を経時的に比較検討し、ワクチン未接種者とワクチン接種者ではウイルス排出期間に大きな差がない可能性が高いことを報告した。第3報では、オミクロン株に感染した無症状病原体保有者における感染性ウイルス排出期間を検討し、無症状病原体保有者では診断6日目以降に感染性ウイルスの排出が減少していき、診断8日目以降には感染性ウイルスを排出している可能性が低いことを報告した。(SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1-3報)

  •        ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者のオミクロン株による再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

  •        第6報までの報告に加えて、以下の通り、新たに米国から報告および英国からの報告のアップデートがなされているが、傾向としては既報と同様である。
  •        米国のCDCは症例対照研究(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン3回(ブースター)接種の、未接種および2回接種と比較した有効性の評価を行った(Accorsi et al.)。2021年12月10日から2022年1月1日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染者10,293例、オミクロン株感染者13,098例に分類し、検査陰性者46,764例と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。mRNAワクチン(ファイザー社製およびモデルナ社製)3回接種と未接種の比較では、有効率はデルタ株で93.5%(95%信頼区間(95%CI)92.9-94.1%)、オミクロン株で67.3%(95%CI 65.0-69.4%)であった。mRNAワクチン3回接種と2回接種の比較では、有効率はデルタ株で84.5%(95%信頼区間(95%CI)83.1-85.7%)、オミクロン株で66.3%(95%CI 64.3-68.1%)であった。
  •        英国健康安全保障庁(UKHSA)からの、オミクロン株感染による入院に対する、新型コロナワクチン3回(ブースター)接種と未接種を比較した有効性の暫定的な報告がアップデートされている(UKHSA. Technical Briefing 34)。3回目(ブースター)接種2-4週後では有効率が92%(95%CI 89-94%)、5-9週後では88%(95%CI 84-91%)、10週後以降では83%(95%CI 78-87%)であった。なお、本解析はワクチンの種類ごとには行われていない。
  •        新型コロナワクチン接種後や感染回復者のオミクロン株に対する中和能および細胞性免疫の検討、抗体医薬品の効果への影響、再感染リスクについて第6報までの報告に加えて、新規の報告やプレプリントから査読済みとなった報告が複数ある項目もあるが、傾向としては今までの報告と同様である。詳細については第6報までを参照されたい。

 

  •    重症度

米国および南アフリカからデルタ株陽性例に比べて入院や重症化リスクの低下が示唆されるデータが追加された。国内における流行早期の入院例における低い酸素需要、HER-SYSにおいてオミクロン株陽性例は届け出時点でほとんどが軽症であることや肺炎割合の低下が明らかとなった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。一方で呼吸不全のある症例の73%が70歳以上に集積していること、感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性には注意する必要がある。流行が急拡大し、知見が限定的な現段階において、国内でのオミクロン株の重症度や重症化リスク因子について定量的に評価することは難しく、また、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。

  •       国立感染症研究所と国立国際医療研究センターは、国内の積極的疫学調査により、検疫及び国内で初期に探知されたオミクロン株症例について、協力医療機関(15病院)に入院し診療を行った122症例の疫学的・臨床的特徴を検討した。検疫法による入院が78例(63.9%)、感染症法による入院が44例(36.1%)であった。男性79例(64.8%)、年齢中央値33歳で、60歳以上は10例(8.2%)であった。80例(65.6%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(92例[75.4%])であった。入院時の画像検査で肺炎像を認めた症例は少なく、入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。25例(20.5%)が退院まで無症状で経過した。入院期間中に酸素需要を認めた症例はなく、COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。重症例は認めず、死亡例も認めなかったが、本調査では、重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者が少なく、重症化リスクを評価することは困難であった。(国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第4報): 疫学的・臨床的特徴
  •       国立感染症研究所の分析では、2022年1月19日までに関東地方の1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)からHER-SYSに報告された症例の届け出時点での肺炎割合を従来株と比較したところ、デルタ株では0.73倍(95%CI 0.7-0.77)であったが、オミクロン株では0.12倍(95%CI 0.11-0.14)とさらに低下していた(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)。
  •       2022年1月23日までにHER-SYSに登録されたオミクロン株感染者の中で、届け出時点で重症度が登録された2245例のうち98.2%は軽症であり、中等症IIないし重症は11例であった。20歳以下には登録されておらず、30歳代、40歳代、60歳代に各1名、70歳以上に8名であった。70歳以上は報告された症例の5.3%が中等症II以上であった。
  •       米国南カリフォルニアにおける2021年11月から2022年1月にかけて民間医療保険ネットワークに登録されたオミクロン株はデルタ株と比較して入院ハザード(調整済み)0.48(0.36-0.64)、ICU入室(未調整)0.26(0.100.73)と報告された。またパラメトリック生存モデルを用いてオミクロン株の入院期間の中央値は1.5日(95%CI 1.3-1.6)と推定され、90%の患者が3.1日以内(95%CI 2.7-3.6)に入院を完了すると推定された(Lewnard et al)。
  •       南アフリカではSGTF例は非SGTF例に比べて入院のオッズが有意に低かった(調整オッズ比0.2、95%CI 0.1-0.3)。重症度に関しては、SGTF例を非SGTF例と比べた調整オッズ比は0.7であったが95%CIが 0.3-1.4で少ない観察数であったことを著者たちは記載している。しかしオミクロン流行以前のデルタ株入院例を含めて比較するとSGTF例の重症化のオッズは有意に低かった(OR 0.3、95%CI 0.2-0.5)(Wolter et al
  •       米国の医療施設データベースを用いて入院患者全体に占めるCOVID-19患者の割合、入院したCOVID-19患者のうちのICU入室、侵襲的人工呼吸器管理、入院中の死亡の割合、入院期間の平均値と中央値について年齢層別に、オミクロン株流行期、2020-21年冬期およびデルタ株流行期で年齢層別(0–17、18–50、>50)に算出した検討では、2020-21年冬期、デルタ株流行期、オミクロン株流行期の全入院患者のうち、COVID-19入院患者の占める割合はそれぞれ12.0%、9.4%、12.9%であった。オミクロン株流行期のICUに入院したCOVID-19患者の割合(13.0%)は、全体で2020-21年冬期の割合(18.2%)より28.8%低く、デルタ株流行期の割合(17.5%)よりも25.9%低かった。また、全ての年齢層でその割合が低かった(p<0.05)。オミクロン株流行期に侵襲人工呼吸器管理を受けたCOVID-19入院患者の割合(3.5%)及び入院中に死亡した患者の割合(7.1%)は、2020-21年冬期(侵襲性人工呼吸器管理=7.5%; 死亡=12.9%)とデルタ株流行期(侵襲性人工呼吸器管理=6.6%; 死亡=12.3% )に比べ、全体として低く、また両成人年齢層でも低かった(p<0.001)。オミクロン株流行期の平均入院日数(5.5日)は、全体で2020-21年冬期(8.0日)よりも31.0%短く、デルタ株流行期(7.6日)よりも26.8%短く、また、両成人年齢層でも短かった(p<0.001)(CDC. MMWR: Utilization During the Early Omicron Variant Period Compared with Previous SARS-CoV-2 High Transmission Periods — United States, December 2020–January 2022.)。

オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、論文報告あるいはプレプリントの更新があった。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も更新された。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。

 

(動物モデルでの評価) 

  •        上気道と下気道におけるウイルス増殖について評価したところ、ヒト鼻腔上皮の3次元培養法では、オミクロン株とデルタ株の両者で複製は類似したが、下気道オルガノイド、Calu-3肺細胞と腸管上皮癌細胞株ではオミクロン株で有意に低い増殖性を示した。また、シュードウイルスを用いた侵入アッセイではTMPRSS2(SARS-CoV-2の細胞侵入に関与するとされる酵素)を欠損した細胞ではオミクロン株型と比較してデルタ株型の侵入効率が大きく影響された。また、細胞侵入経路を標的とした薬物阻害実験により、オミクロン型のスパイクタンパク質はエンドサイトーシス経路を介した細胞侵入に依存しスパイクを切断するためにはカテプシン活性が必要であることが示された。これらのことはオミクロン株の細胞指向性に変化をもたらし、結果として病原性の変化をもたらすと考えられた (Meng et al.)。
  •   ヒトの気管支と肺のex vivo培養系を用いて、従来株、D614G、アルファ、ベータ、デルタとオミクロン株の複製能力と細胞向性について比較解析したところ、従来株や他の変異株と比べてオミクロン株は気管支組織での複製が早く、肺実質組織では複製効率が悪いことがわかった。これらの結果から、オミクロンはこれまでの変異株よりも上気道における早い複製能力を有し、このことが高い伝播力に寄与していると考えられた(Chan et al)。
  •          オミクロン株は従来株や他の変異株と比較して、ヒト気道上皮由来Calu3細胞やヒト結腸由来細胞Caco2細胞での複製効率が低いことが示された。また,TMPRSS2の過剰発現や、TMPRSS2阻害薬を用いた解析ではオミクロン株のスパイクはTMPRSS2の利用効率が低く、そのためTMPRSS2を発現しているCalu3やCaco2細胞での複製効率が低下していると考えられた。また、K18-hACE2トランスジェニックマウスを用いたオミクロン株の病原性解析では、上気道および下気道においてオミクロン株の複製効率は低く、肺病理も軽症化した。よってマウスモデルにおいて、従来株、アルファ株、ベータ株、デルタ株と比較してオミクロン株の病原性は低下していると考えられた(Shuai et al.)。
  •          ゴールデンハムスターを用いたオミクロン株とデルタ株の比較解析では、体重減少、症状 (活気の無さや頻呼吸など)、鼻腔・気管・肺のウイルス量、サイトカイン・ケモカイン発現量、組織標本により評価した組織傷害など指標は、いずれもオミクロン株の方がデルタ株よりも低い病原性を示すことが示唆された。また、直接接触の伴わない伝播感染実験において、デルタ株よりもオミクロン株が10-20%ほど高い伝播性を示した。さらに、mRNAワクチン接種による免疫選択圧の存在下では、デルタ株に比べてオミクロン株の感染が優位となった。これらの結果より、オミクロン株はデルタ株より病原性が低い一方で、感染伝播性は高く、特にワクチンによる免疫が存在する状況ではオミクロン株はデルタ株よりも優位であると考えられた(Yuan et al.)。
  •       ヒト初代培養鼻腔上皮細胞を用いた解析では、オミクロン株の複製効率はデルタ株を上回った。また、スパイクタンパク質のACE2に対する結合能は、従来株やアルファ株、デルタ株と比較してオミクロン株で上昇しており,さらに、家禽類、キクガシラコウモリ、マウスなどのACE2を発現する細胞への侵入効率も上昇しており、宿主域の拡大が示唆された。更に,オミクロン株ではスパイク開裂しやすい変異があるにもかかわらず、これまでの変異株のスパイクよりも合胞体形成能が低い。一方、ヒト初代培養鼻腔上皮細胞を用いた解析により、オミクロン株ではエンドソームを介してTMPRSS2非依存的に細胞内へ侵入することが示された。これらの結果より、オミクロン株は従来株や他の変異株と比較して、より多くの上気道上皮に感染し、低い曝露量でも感染が成立するため、結果的に伝播性が高まると考えられた (Peacock et al.)。
  •       従来株の既感染がオミクロン株感染を防御するかハムスターモデルで検討した。従来株の初感染から50日後に同じ用量のオミクロン株を接種したところ、オミクロンを再感染させたシリアンハムスターの咽頭拭い液におけるウイルスRNAの排泄は有意に低く、比較的早期に排除された。よって、ハムスターモデルにおいて、従来株感染によって得られた免疫がオミクロン株に対して防御的に作用することが示された(Ryan et al.)。

 

  •   検査診断
    •       国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •       オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •       WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •        国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •        WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
    •         2021年12月1日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は962検体あり、L452R陽性282検体は全てデルタ株、L452R陰性検体680検体のうち679検体はオミクロン株、1検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策

  •        ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、地域の状況に応じて早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
  •        カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染者であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •    潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、感染のサイクル(世代時間)が早まっている可能性があり、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに特に軽症の感染者への対応と医療提供体制等について地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の急激な伸びの抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
    •        オミクロン株へ置き換わった状況では、変異株の発生動向の監視を目的とした対応が望ましい。ゲノム解析や変異株PCR検査については全数実施するのではなく、偏りのないサンプリングによる一定の検体に対する実施や、重症例や潜在的なインパクトが高い事例の基点となるような感染者に対して優先的に行うことを考慮する。
    •        疫学調査については、潜伏期間が短縮していることも考慮し、地域の状況に応じて、感染拡大や重症化リスクの高いクラスター等への重点化を検討する。
    •        自宅療養の感染者に対してはオンライン診療や往診等を活用し地域の実情に合わせた 医療提供体制の構築が望まれる。
  •        医療・福祉・公衆衛生のほか、各種社会的基盤となる事業において、感染拡大に伴う欠勤者の増加も見込んだ事業継続体制を準備する。
  •        ワクチン接種歴のない者や基礎疾患のある者における評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していくことが重要である。

 

基本的な感染対策の推奨

  •        個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •       迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第7報 2022/1/26 9:00時点

第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)

第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

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第3報 2021/12/8

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第1報 2021/11/26

 

 

 

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