国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。
図1.週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数、2013年第18週~2013年第43週
図2.都道府県別インフルエンザウイルス分離・報告状況、2013年第36週~2013年第43週

 2013年第18週以降インフルエンザウイルス検出報告は少数となっていた。2013/14シーズン(2013年第36週/9月~2014年第35週/8月)に入って、AH1pdm09とAH3亜型の検出が、また第41週にはB型ビクトリア系統株の検出が報告されている。(図1)。

 2013年第36週~2013年第43週の累積では(図2)、AH1pdm09が5府県から14例(速報参照:島根県)、AH3亜型が4府県から23例、B型はビクトリア系統株が神奈川県から1例報告されている。このうち、輸入例からの分離・検出が9例〔AH1pdm09:5例(インドネシア2例、フィリピン1例、中国1例、タイ/ネパール1例)(速報参照:三重県)、AH3型:4例(フィリピン3例、タイ/カンボジア1例)〕報告されている。

<参考図> 週別インフルエンザ患者報告数とインフルエンザウイルス分離・検出報告数の推移、2008年第36週~2011年第41週
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2012年第36週(9/3-9)~2013年第20週(5/13-19)
(2013年5月16日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2011年第36週(9/5-11)~2012年第25週(6/18-24)
(2012年7月19日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2010年第36週(9/6-12)~2011年第19週(5/9-15)
(2011年9月6日現在報告数)
インフルエンザウイルス分離・検出状況 2009年第19週(5/4-10)~2010年第19週(5/10-16)
(2010年5月13日現在報告数)
国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局
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国内感染が確認された回帰熱の2例

(IASR Vol. 34 p. 305: 2013年10月号)

 

回帰熱はスピロヘータ科ボレリア属細菌感染による一病態であり、その病原体ボレリアはヒメダニやシラミによって媒介される。これに加えて、2011年、ロシアでマダニが媒介するBorrelia miyamotoiによる回帰熱が報告され1,2)、また2013年には米国の疫学調査により、ライム病流行地では本ボレリア感染による回帰熱症例が存在することが報告された3,4)

この回帰熱の病原体であるB. miyamotoiは、北海道で1995年に発見されたボレリアで、Ixodes属ダニによって伝播される5)。北海道やロシアではIxodes persulcatus(シュルツェマダニ)によって保菌されている。米国や欧州ではI. ricinusI. scapularisI. pacificusから本菌のDNAが検出されている。また、シュルツェマダニはライム病ボレリアも伝播することが知られている。

一方で本ボレリアは培養が困難なため、これまでに適切な実験室診断法が確立されていなかったこと、またB. miyamotoiを媒介するマダニはライム病ボレリアも保菌している場合もあり、このボレリアとの重複感染がしばしば起こるため、臨床診断が極めて難しいことから、その実態はほとんど把握されていなかった。

国立感染症研究所では、過去にライム病が疑われた患者血清約800検体を用いた後ろ向き疫学調査を実施し、このうち発症後の有熱期に採血された2検体からB. miyamotoi DNAを検出した。またこのうちの1検体ではB. miyamotoi HT31株由来の組換えGlpQ抗原を用いたB.miyamotoi特異的な抗体検査により、回復期ペア血清で抗体上昇が確認された。これら2検体は北海道在住の患者より採取されたものであり、いずれもライム病血清診断でも抗体陽性と判定されている。これら2症例は国内でのマダニ刺咬により感染したものと考えられている。いずれの症例もミノサイクリンもしくはセフトリアキソン投与により回復している。

シュルツェマダニの主な生息地域は北海道であり、その活動期は春~秋である。また本マダニは、長野県など本州中部の高山帯(標高約1,200m以上)等でも生息が確認されている。本マダニ刺咬後に起こる原因不明の発熱性疾患等を呈した患者では、ライム病に加えて本疾患を鑑別対象として加えることが必要1,3,6,7)である。

 

参考文献
1) Platonov AE, et al., Humans infected with relapsing fever spirochete Borrelia miyamotoi, Russia, Emerg Infect Dis. 2011.17(10):1816-1823.
2) IASR. 2011. 32(12): 370-371.
3) Krause PJ, et al., Human Borrelia miyamotoi infection in the United States. N Engl J Med. 2013. 368(3):291-293.
4)  IASR. 2013.34(3):70-71.
5) Fukunaga M, et al., Genetic and phenotypic analysis of Borrelia miyamotoi sp. nov., isolated from the ixodid tick Ixodes persulcatus, the vector for Lyme disease in Japan. Int J Syst Bacteriol. 1995. 45(4):804-810.
6) Gugliotta JL, et al., Meningoencephalitis from Borrelia miyamotoi in an immunocompromised patient. N Engl J Med. 2013. 368(3):240-245.
7) Chowdri HR, et al., Borrelia miyamotoi infection presenting as human granulocytic anaplasmosis: A case report. Ann Intern Med. 2013. 159(1):21-27.

<回帰熱の検査について>
回帰熱の検査は国立感染症研究所・細菌第一部で実施可能です。検査検体は、マダニ刺咬後に発熱、頭痛、倦怠感等を示した患者の、1)発熱期の全血もしくは血清、2)髄膜炎を呈した場合には髄液です。また抗体検査を依頼される場合には、回復期血清による確認が重要です。これら検査をご依頼される場合には、最寄りの保健所などへお問い合わせください。

<回帰熱に関する問合せ先>
国立感染症研究所・細菌第一部 川端寛樹
電話番号:03-5285-1111 内線2224
電子メール:kbata(アットマーク)niid.go.jp

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A型肝炎ウイルスによる家族内での集団感染事例―川崎市

(IASR Vol. 34 p. 311-312: 2013年10月号)

 

2013年3~7月までの長期間にわたり、川崎市内の一家族内においてA型肝炎ウイルス(HAV)による集団感染が認められたので報告する。

同居家族は夫(39歳)、妻(45歳)、長男(5歳)の3名で、3月中旬に夫が発熱、嘔吐、黄疸を呈し医療機関を受診した。その際、HAV特異的IgM抗体の上昇が認められ、HAV感染症と診断された。同一時期に職場ならびに近親者での発症はみられず、原因となった食品は不明であった。夫の発症から2カ月後に、妻が発熱を訴え医療機関を受診した。その後、嘔吐、黄疸が出現し、1週間経過後も症状が改善しないため入院するに至った。本研究所にてPCR検査を実施したところ、発症から12日目に採取した妻の血清からHAV遺伝子が検出され、VP1/2A領域(498bp)のDNAシークエンス解析の結果、1A-1のクラスターに属することが確認された(図1)。また、長男は母親の入院期間中は保育園を休園していたが、その間も発症することなく無症候であった。しかし、母親の発症から1ヵ月後に採取した長男の糞便からもPCR検査でHAV遺伝子が検出され、ウイルスの排泄状況の確認ならびに保育園での集団生活に際する周囲への蔓延防止の観点から継続的な検査を行う必要があると判断した。2週間毎の再検査を行ったところ、2度目の検査でもHAVが検出され、継続してウイルスが排泄されていることが確認されたが、3度目の検査ではHAV陰性となり、本児が感染源となるリスクは回避された(図2)。

興味深いことに、男児から検出されたVP1/2A領域の遺伝子配列を解析したところ、初回の検査では母親から検出された遺伝子と100%一致していたものの、2度目の検査では、2A領域に6塩基の欠損が生じていた(図3)。

HAVは潜伏期間が長く、ウイルスの糞便への排泄期間も発症の前後2~3週間と長いため、家族など接触が密である集団内では発症リスクが高い傾向がある。また一般的に、成人では肝機能障害の症状が強く、劇症化することもあるが、小児では不顕性感染や軽症例であることが多いとされている。本事例でも男児の糞便検体から長期間のウイルス排泄が確認されたにもかかわらず、急性肝炎特有の症状は認められなかった。小児におけるHAV感染の報告は少なく、年齢による症状の重症化など、病態は依然として不明な点が多い。今回男児から検出された6塩基欠損の遺伝子についてその役割は不明であるが、少ない小児の貴重な感染事例として、より詳細な解析を行っていきたい。

 

参考文献
1) IASR, https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/368/inx368-j.html

 

川崎市健康安全研究所
     中島閲子 石川真理子 松島勇紀 駒根綾子 清水英明 三崎貴子 岩瀬耕一 岡部信彦

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無菌性髄膜炎患者からのエコーウイルス30型の検出状況(2013年)―滋賀県

(IASR Vol. 34 p. 309-310: 2013年10月号)

 

2013年5~6月に無菌性髄膜炎患者(疑い含む)16名の検査をしたところ、12名からエコーウイルス30型(以下E30)が検出された。その12名由来の検体は、2カ所の病原体定点医療機関で採取されたものであった。E30が検出された患者の性別は男性6名、女性4名で、2名は不明であった。年齢分布は4歳が4名と最も多く、次いで5歳と6歳が各2名、8歳が1名であったが、残り3名は不明であった。記載のあった11名の主な症状は、発熱(11名)、頭痛(4名)、嘔吐(3名)および上気道炎(3名)であった。発熱は37.4℃~39.4℃で、平均は38.7℃であった。

エンテロウイルスの検査は、PCR法による遺伝子検出と培養細胞によるウイルス分離/同定を実施した。遺伝子検査には、EVP2/OL-68-1およびEVP4/OL-68-1のプライマーを用いてRT-semi nested PCR後、バンドが得られたものについてダイレクトシークエンスを行いGenBank中の登録株と系統解析を行った。クラスターを形成した株のうち代表株につきCODEHOP-snPCR法によるVP1シークエンス、および分離株すべてについて中和試験により血清型を決定した。なおウイルス分離には、RD-18S、Vero-E6およびHEp-2の各細胞を用いている。その他ウイルスの遺伝子検査についても、症状に応じて実施した。

E30が検出された症例一覧を表1に示す。E30は、遺伝子検査により12名由来の検体から検出され、材料別では髄液11件中11件および咽頭ぬぐい液3件中3件から検出された。

また、ウイルス分離は検体量不足のため2名については実施できなかったが、9名から分離株を得、材料別では髄液9件中8件および咽頭ぬぐい液3件中3件から分離された。

E30が検出された12名中3名では、髄液からアデノウイルス(以下AD)も同時に検出されている。

VP1領域275bpの系統解析の結果、滋賀分離株-20130140CはBastianii株(標準株)と約80%一致しており、2008~2010年に検出された国内分離株とは約7%異なっていた()。

2013年3~7月に採取された無菌性髄膜炎患者(疑い含む)からのウイルス検出状況を表2に示す。3月にコクサッキーウイルスB群3型(以下CB3)およびエコーウイルス18型(以下E18)が検出されている。

滋賀県感染症発生動向調査における無菌性髄膜炎の定点当たりの患者数は、2013年第16週に0.14人/定点を示し、第22週は0.28人/定点であった。

管轄保健所でこれら無菌性髄膜炎患者(疑い含む)の調査を行ったところ、疫学的な関連性は認められなかった。

E30は、滋賀県では1990~1991年、1997~1998年および2003年に多く分離されている。現在も検体搬入が続いており、前回の流行から感受性個体が蓄積しているため、今後のE30の動向について注視していきたい。

 

滋賀県衛生科学センター  児玉弘美 小菅裕也 山田香織 鈴木智之 小嶋美穂子 石川和彦 井上剛彦  
滋賀県長浜保健所 谷口秀美  
国立感染症研究所 吉田 弘

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無菌性髄膜炎患者からのエンテロウイルスの検出―大分県

(IASR Vol. 34 p. 308-309: 2013年10月号)

 

大分県において、2013年第4週~第32週までに採取された無菌性髄膜炎患者検体からのウイルス検出状況について報告する。

患者発生状況:患者定点からの報告は多くない。しかし、第24週(6/10~6/16)以降、検査定点より無菌性髄膜炎と診断されて当センターに搬入される検体が増加し、第31週(7/22~7/28)に入ってようやく減少してきた(図1)。

材料および方法:2013年1~8月に無菌性髄膜炎と診断され、当所に搬入された患者27名36検体(髄液23検体、咽頭ぬぐい液13検体)を検査材料とした。エンテロウイルスの遺伝子検査は、まず、スクリーニングとしてVP4/VP2領域を標的としたsemi-nested PCR法1)を行った。エンテロウイルス陽性のものについては、VP1領域を標的としたnested PCR法2)およびダイレクトシークエンスで塩基配列を決定し、BLASTによる相同性検索で型別同定を行った。また、得られた塩基配列(355bp)を用いて近隣結合法による系統解析を行った。

ウイルス分離は、7細胞(HEp-2、RD-18S、Caco-2、MARC-145、Vero 9013、Vero E6、LLC-MK2)を使用し、1代を1週間として3代目まで継代および観察を行った。分離株は中和試験を行うとともに、VP1領域を標的としたnested PCR法を用いて同定した。

結果および考察:遺伝子検査を実施した36検体のうち、22検体からエンテロウイルスが検出された。型の内訳は、Echovirus30(Echo30)が13検体、Echovirus6(Echo6)が7検体、Coxsackievirus A9(CA9)が2検体であった。検出された患者の年齢分布をみると、5~9歳が最も多く17検体であった。エンテロウイルス以外ではCMVとHHV6が各1件ずつ検出された(表1)。

ウイルス分離については、Echo30が8株、Echo6が5株、ともにRD-18S およびCaco-2で分離できた。CA9はCaco-2で2株分離できた。

今回得られたEcho30およびEcho6と、これまで国内外で報告されている株の系統樹を作成したところ、今回分離されたEcho30株は、VP1部分配列においてBastianii(参照株)と約80%一致しているが、GenBankに登録されている2008~2010年国内分離株とは5%程度異なっていた(図2)。Echo6については2010~2012年に欧州で報告された株とほぼ同一クラスターを形成した(図3)。

Echo30については、無菌性髄膜炎の患者検体から最も多く検出されているが、咽頭炎や手足口病、ヘルパンギーナ、肺炎と診断された患者からも検出されている。またEcho6についても咽頭炎で検出されている。好発年齢が幼稚園や小学校に通う児童であることより、9月以降の動向に注意が必要と考える。

 

参考文献
1) Ishiko H, et al., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
2) Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006

 

大分県衛生環境研究センター 加藤聖紀 本田顕子 田中幸代 小河正雄

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan