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<速報>愛知県で2013/14シーズンに初めて分離されたB型インフルエンザウイルス(Victoria系統)の性状

(掲載日 2013/11/18)

 

2013年10月15日に上気道炎、下気道炎、発疹より麻疹を疑われた6カ月児より採取された咽頭ぬぐい液検体から、B型インフルエンザウイルスが分離された。患者は10月5日に発熱、10月8日にベトナムより入国。当研究所による麻疹・風疹およびパルボウイルスB19遺伝子検査は陰性、咽頭ぬぐい液検体をMDCK細胞、HeLa細胞、RD-18S細胞およびVero細胞に接種したところ、MDCK細胞において接種後4日目に細胞変性効果が認められた。このウイルス培養上清液に対して0.5%ニワトリ赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、HA価は128倍を示した。そこで、国立感染症研究所より配布されている2013/14シーズン用インフルエンザウイルス同定キットにて赤血球凝集抑制(HI)試験による型別同定を行った。その結果、分離株はB/Victoria系統の抗B/Brisbane/60/2008血清(ホモ価640)に対してHI価1,280を示し、抗A/California/7/2009血清(同1,280)、抗A/Texas/50/2012血清(同2,560)、B/Yamagata系統の抗B/Massachusetts/02/2012血清(同640)に対してはHI価<10を示したため、B型インフルエンザウイルス(Victoria系統)と同定された。また、咽頭ぬぐい液検体より抽出したRNAにて実施したリアルタイムRT-PCR遺伝子検査においてもB型遺伝子を検出した。

HA、NA遺伝子解析
分離されたB/Aichi(愛知)/62/2013株はHA遺伝子(1,041塩基)系統樹解析により2011/12シーズンワクチン株(B/Brisbane/60/2008)と同じクレード1aに分類され、GISAID(The Global Initiative on Sharing All Influenza Data)に登録されている2013年6~9月の分離株(10月28日確認)と同じ分岐に属していた()。しかし、BLAST検索で100%の相同性を有する株は認められなかった。また、当研究所で2012/13シーズンの1~5月に分離された6株も同じ分岐に属していた()。NA遺伝子の系統樹解析ではB/Brisbane/60/2008株と比べて3アミノ酸(S295R、N340D、E358K)が異なる2011/12および2012/13シーズン分離株(当研究所)由来の分岐に属していた。また、既知のノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性変異は検出されなかった。

2013/14シーズンに入り、県内195定点医療機関からのインフルエンザ患者報告は、11月第1週現在10例前後(定点あたり0.05)である1)。今回の事例は発熱から検体採取までに10日(入国後7日)を要し、発疹が認められた乳児症例であるため、B型インフルエンザ感染時期は国外輸入症例若しくは入国後の何れも可能性が考えられる。今シーズン国内でのB型インフルエンザウイルスの分離・検出状況は11月11日現在2)Victoria系統4株、山形系統4株、系統不明1株である。和歌山県においては山形系統による集団発生が認められており3)、今後どちらの系統が流行するのか発生動向に注意する必要がある。

 

参考文献
1)愛知県感染症情報センター 愛知県感染症情報 (2013年11月11日確認)   
     http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/2f/201344.pdf
2)IASR 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数 (2013年11月11日確認)   
     https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
3)IASR <速報>2013/14シーズン初めの小学校を中心としたB型インフルエンザの発生事例-和歌山県   
     http://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4085-pr4062.html

 

愛知県衛生研究所   
    安井善宏 尾内彩乃 中村範子 小林慎一 山下照夫 皆川洋子

 

 

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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第15報-


(2013年11月14日現在)
 日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。
 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。
国立感染症研究所HP厚生労働省HP

抗体保有状況
(地図情報)
2013-15map


抗体保有状況
(月別推移)
2013-15tab
HI抗体 2-ME
感受性
抗体
都道府県 採血
月日
HI抗体
陽性率
※1
2-ME感受性
抗体陽性率
※2
コメント

5/27

6/24
沖縄県 9/17 10%
(2/20)
50%
(1/2)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち1頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
鹿児島県 9/9 55%
(11/20)
40%
(4/10)
HI抗体陽性例のうち10頭は抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/8

7/8
宮崎県 9/9 27%
(3/11)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/12

8/23
大分県 9/13 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/6

8/6
熊本県 9/10 100%
(20/20)
10%
(2/20)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/2

8/6
長崎県 9/10 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/7

8/7
佐賀県 9/18 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/23

7/23
福岡県 9/3 100%
(10/10)
0%
(0/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

6/25

6/25
高知県 9/17 80%
(8/10)
0%
(0/8)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/9

7/23
愛媛県 9/17 100%
(10/10)
20%
(2/10)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

7/4

7/4
徳島県 9/20 100%
(10/10)
22%
(2/9)
HI抗体陽性例のうち9頭は抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/28

8/28
広島県 9/11 70%
(7/10)
71%
(5/7)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち5頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/2
 
 
島根県 9/13 0%
(0/10)
 
 
 

7/3
 
 
鳥取県 8/13 100%
(10/10)
 
 
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。

8/20

8/20
兵庫県 9/17 30%
(3/10)
67%
(2/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/19

8/19
滋賀県 9/9 50%
(5/10)
40%
(2/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/5

8/5
三重県 9/10 60%
(6/10)
33%
(2/6)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/20

9/2
愛知県 9/17 50%
(5/10)
60%
(3/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち3頭から2-ME感受性抗体が検出された。

8/19
 
 
静岡県 9/25 20%
(2/10)
 
 
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であった。

9/18

9/25
石川県 9/25 20%
(2/10)
100%
(2/2)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。

7/16

9/17
富山県 10/21 25%
(5/20)
0%
(0/5)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。
 
 
 
 
新潟県 9/9 0%
(0/10)
 
 
 

7/30

9/10
神奈川県 9/24 35%
(7/20)
29%
(2/7)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。

9/5

9/5
千葉県 9/26 30%
(3/10)
0%
(0/3)
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。
 
 
 
 
埼玉県 9/4 0%
(0/10)
 
 
 

7/30
 
 
群馬県 9/27 0%
(0/12)
 
 
 
 
 
 
 
栃木県 9/24 0%
(0/14)
 
 
 
 
 
 
 
茨城県 9/24 0%
(0/10)
 
 
 

8/27

8/27
福島県 9/24 30%
(3/10)
100%
(3/3)
HI抗体陽性例は抗体価1:10(1頭)、1:20(2頭)であり、いずれも2-ME処理により抗体価1:10未満となった。
 
 
 
 
秋田県 9/26 0%
(0/10)
 
 
 

8/20

8/20
宮城県 9/24 0%
(0/20)
 
 
 
 
 
 
 
青森県 9/24 0%
(0/20)
 
 
 
 
 
 
 
北海道 9/30 0%
(0/10)
 
 
 
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域
  調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
  調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域
調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。
※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。
1. Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169.
2. 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103.
3. 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22.
4. Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.

国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部

ブタの日本脳炎抗体保有状況(地図情報)

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