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国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局 |
(掲載日 2013/11/22)
栃木県保健環境センター
微生物部 櫛渕泉美 岡本その子 舩渡川圭次
企画情報部 舟迫 香
(IASR Vol. 34 p. 325-327: 2013年11月号)
2012/13シーズン(2012年第36週/9月~2013年第35週/8月)のインフルエンザは、国内では2シーズン続けてインフルエンザウイルスAH3亜型が流行の主体で、次いでB型が多く、A(H1N1)pdm09(以下AH1pdm09)の流行は小規模であった。患者発生のピークは例年通り1月であった。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000)から、インフルエンザと診断された患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数(http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)は、2012年第50週に全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超え、流行期間は2013年第21週まで24週間であった。流行のピークは2013年第4週(36.4人)で(図1)、同様にAH3亜型が流行の主体であった前シーズン(2012年第5週、42.6人)と同時期であった。
都道府県別にみると、定点当たり患者報告数は2012年第51週に群馬県で初めて10.0人を超えた。その後2013年第2週には20都道県で、第3週には47都道府県で10.0人を超え、全国的な流行となった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。2005年以降、沖縄県では毎年のように夏季のインフルエンザ流行が観察されているが、2012/13シーズンは小規模であった。
インフルエンザ定点医療機関からの報告数をもとに推計すると、2012年第36週~2013年第21週(9月3日~5月26日)に全国の医療機関を受診した患者数累計は約1,370万人であった。重症例把握を目的に2011年9月に開始された入院サーベイランスでは、2012/13シーズンに基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)に入院した患者10,370人〔うち重症患者(頭部CT/脳波/MRI検査の実施、人工呼吸器利用、ICU入室):1,552人〕が報告された。
ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)で2012/13シーズンに分離されたインフルエンザウイルスの報告数は4,910(2013年10月17日現在、表1)、この他にPCRのみでの検出報告が1,673あった。分離またはPCRによる検出(以下、分離・検出)を含めた総報告数6,583のうち、インフルエンザ定点の検体からの分離・検出数は5,462、インフルエンザ定点以外の検体からの分離・検出数は1,121であった(表2)。
2012/13シーズンに分離・検出されたウイルスの型・亜型別割合はAH3亜型 76%、B型21%であり、AH1pdm09は2%にとどまった。旧AH1 亜型(ソ連型)は2009年第36週以降全く報告されていない。B型は、山形系統とVictoria系統の割合は7:3であった。また、海外渡航者からの分離・検出数はAH3亜型33、AH1pdm09が21、B型が9であった(表2)。
AH3亜型がシーズン当初から分離され、大半を占めていたが、2013年第12週以降、B型の分離報告数がA型を上回った(図1および図2)。分離例の年齢分布をみると、5~9歳が最も多く、特にB型でその割合が高かった(図3)。
2012/13シーズン分離ウイルスの抗原性・薬剤耐性(本号4ページ):国内および海外(アジア地域)分離株について国立感染症研究所で抗原性解析を行った結果、94株のAH1pdm09の90%はA/California/7/2009(2009/10~2012/13シーズンワクチン株)に類似、残る10%はA/California/7/2009の抗血清に対してHI価が8倍以上低下した抗原変異株であった。AH3亜型236株中99%はA/Victoria/361/2011(2012/13シーズンワクチン株)に類似していた。B型山形系統120株中96%はB/Wisconsin/1/2010(2012/13シーズンワクチン株)に類似、B型Victoria系統95株中99%はB/Brisbane/60/2008(2009/10~2011/12シーズンワクチン株)に類似していた。
AH1pdm09は国内で分離、解析された103株中2株(1.9%)がオセルタミビル耐性遺伝子変異H275Yを保有していた(2011/12シーズンは保有株なし)。AH3亜型は解析された20株すべてがオセルタミビル/ザナミビル/ペラミビル/ラニナミビルに対し感受性であった。
抗体保有状況:2012年度感染症流行予測調査によると(本号10ページ)、2012/13シーズン前の2012年7~9月に採血された血清(n=6,794)における抗A/California/7/2009抗体保有率(HI価≧1:40)は51%で、5~24歳で60~80%と高かった。抗AH3亜型抗体保有率は年齢群間の差は顕著ではなく、概ね30~40%であった(5~24歳では50%台)。抗B型Victoria系統抗体保有率は、多くの年齢群で40%以上であったが、A型とは異なり、35~39歳群で最も高かった。抗B型山形系統抗体保有率は31%であった(20~24歳群で65%、10歳未満および50代後半以上では20%未満)。
インフルエンザワクチン:2012/13シーズンには3価ワクチン約3,262万本(1ml換算、以下同様)が製造され、約2,521万本が使用された。
2013/14シーズンワクチン株は、AH1亜型は2010/11~2012/13シーズンに引き続きA/California/7/2009(X-179A)が選択され、AH3 亜型は、2012/13シーズンのA/Victoria/361/2011からA/Texas/50/2012(X-223)株に変更され、B型は山形系統のB/Massachusetts/2/2012(BX-51B)が選択された(本号12&15ページ)。
鳥インフルエンザA(H7N9) :2013年10月16日現在、中国および台湾(中国本土に滞在歴のある者)から2013年2月19日発症の第1例より計136例(うち死亡45例)が報告されている。7月以降発生が途絶えていたが、10月に再び浙江省で患者発生が報告された(本号18ページ)。
わが国では2013年4月26日に指定感染症となった。鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス検出マニュアルも作成され、検査試薬(PCR試薬、プライマー・プローブ、陽性対照等)が全国の74地研と16検疫所に配布され、検査体制が整っている。
鳥インフルエンザA(H5N1) :2013年10月8日現在、ヒトでの高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)亜型の感染例31例(うち死亡20例)がカンボジア(20例、うち死亡11例)、バングラデシュ、中国、エジプト、インドネシア、ベトナムから報告されている(http://www.who.int/entity/influenza/human_animal_interface/EN_GIP_20131008CumulativeNumberH5N1cases.pdf)。
新型インフルエンザ等対策特別措置法:病原性が高い新型インフルエンザや同様の危険性のある新感染症に対して、国民の生命・健康を保護し、国民生活・国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的として「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が2012年5月11日に公布、2013年4月13日に施行された(http://www.cas.go.jp/jp/influenza/120511houritu.html)。また、2013年6月に政府行動計画等が取りまとめられた。
おわりに:定点サーベイランス、学校サーベイランス(インフルエンザ様疾患発生報告)、入院サーベイランス等による患者発生動向の監視、通年的なウイルス分離、ワクチン候補株確保のための流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析、抗インフルエンザ薬耐性ウイルス出現の監視、国民の抗体保有率の監視が今後の対策に引き続き重要となっている。
2013/14シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報は本号19&21ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。
(2013年8月21日~2013年9月20日受理分)
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(Vol. 34 p. 351: 2013年11月号) |
国立感染症研究所細菌第一部第二室 |
(IASR Vol. 34 p. 349-350: 2013年11月号)
栃木県の県北地区において2013年8月下旬の警報解除以降に、手足口病の患者が再び増加した。そこで、その原因となるウイルスの型別の推移について報告する。
流行状況:2013年6月以降、全国と同様に栃木県でも手足口病が流行した。特に県北地区においては、定点当たりの報告数が他の地域よりも高く、第30週(7/22~7/28)にはピークに達し、第34週(8/19~8/25)に警報が解除された(図1a)。しかしながら、警報解除の直後に、その県北地区にある病原体定点の一医療機関から、複数の児童福祉施設(保育園)で集団発生があり、再び患者が増加していると医師が探知し、報告検体と搬入があった。
検体と検出方法:栃木県の県北地区にある同一の小児科定点において2013年6~9月に手足口病と診断されて、栃木県保健環境センターに感染症発生動向調査の検体として搬入された27検体(咽頭ぬぐい液、鼻汁、うがい液)を対象として、検査・解析を実施した。その内訳として、流行前(第24週;6/10~6/16)に発症した3患者、ピーク時(第29~30週;7/15~7/28)に発症した13患者、第34~36週(8/19~9/8)に発症した11患者から採取した検体に分類して解析を行った。エンテロウイルスの遺伝子検出は、VP4-VP2部分領域を増幅して実施した1)。得られた増幅産物はダイレクトシークエンス法により遺伝子を解読し、GenBankに登録されている遺伝子を参照株として系統樹解析(約340塩基)を実施して型別を類推した。
結果と考察:図1に、栃木県全域、および県北地区の定点当たりの報告数の推移(図1a)を示し、それぞれの期間で検出された病原体の割合(図1b)をまとめた。流行前の第24週では、すべての検体からエンテロウイルス71型(EV71)が検出された。さらに、ピーク時(第29~30週)では、9検体(69.2%)からEV71、3検体(23.1%)からA群コクサッキーウイルス6型(CA6)が検出された。一方、第34~36週の10検体(90.9%)からCA6が検出された。これらのCA6が検出された第34~36週の検体のうち、3検体(S13-117、S13-120、S13-121;図2の※で示す)の患者は、今シーズンで2度目の手足口病の発症である(ただし、1度目の発症時の検体は、採取されていない)。しかしながら、EV71が検出された患者とCA6が検出された患者の間で、臨床症状等に特徴的な差はなかった。このように、栃木県の県北地域における手足口病について、7月のピーク時ではEV71が主流な原因病原体だったが、8月以降はCA6に徐々に推移して流行が生じた。
EV71による手足口病は3~4年周期で流行するが2)、本年度は2010年の流行から3年目にあたる。先に報告されたIASRによると、今シーズンにおいて高知県ではEV71が手足口病の患者から多く分離された3)。一方、熊本県では4~6月にかけてCA6が手足口病の主流な原因であった4)。しかしながら、本県では、その両方が相次いで主流のウイルス型として検出された。本報告と同様に、今シーズンの長野県の報告では、手足口病患者由来の検体より検出されるウイルスが、EV71からCA6に推移している5)。また、2011年の島根県でもCA6とCA16の二峰性の流行が生じている6)。このような状況下では、1シーズン中に複数回も感染・発症を繰り返してしまう小児も存在する。ゆえに、検出されるウイルス型別の動向を詳細に監視して、迅速に情報を医療現場に還元することが重要である。
参考文献
1)手足口病 病原体検査マニュアル(国立感染症研究所)
2)IASR 33: 55-56, 2012
3)清田直子, 他, IASR 34: 233, 2013
4)森光俊晴, 他, IASR 34: 263-264, 2013
5)松岡高史, 他, IASR 34: 306-308, 2013
6)飯塚節子, IASR 33: 58-59, 2012
栃木県保健環境センター
微生物部 水越文徳 櫛渕泉美 鈴木尚子 舩渡川圭次
企画情報部 舟迫 香 森川博夫