地方衛生研究所の検査診断により判明したわが国の麻しんの現状

 
(Vol. 33 p. 41-42: 2012年2月号)
1.はじめに
2012年までの麻しん排除を目標にした取り組みとして、麻しん疑い症例については、全国の地方衛生研究所が全例にウイルス検査診断を行うことが、厚生労働省の通知(2010年11月)により求められている。当初、麻しん全例のPCR検査は、地方衛生研究所にとって過剰な負担ともなりかねないと危惧されたが、この2年間の麻しん疑い症例数の激減もあって、ほぼ混乱なく実施されているようである。得られた麻しんウイルス検査の結果から、わが国の麻しんの発生状況の詳細が判明したと同時に、麻しんの診断根拠および届け出に付随する新たな問題点も浮上してきている。

2.地方衛生研究所での麻しんウイルスの検出状況
2010年1~12月のわが国の麻しん報告数は457例であったが1) 、このうち麻しんウイルスの分離・検出はわずか27例であった2) 。しかしながら、2010年末に疑い症例全例でのPCR検査が勧奨された結果、2011年1~12月の麻しん報告数434例3) に対し、麻しんウイルスの分離・検出は126例と大幅に増加し2) 、地方衛生研究所でのウイルス検査が麻しん診断の根拠、届出の手順としてほぼ定着したものと考えてよいだろう。問題は検出された麻しんウイルスの型別である。これまでのわが国の常在型はD5型であり、2008年以前にはこのウイルスが多数検出されていた。しかし、2009年には3件に激減し、2010年5月の1件(千葉県)の検出を最後に、この1年半の間、D5型は全く検出されていない。2011年の検出型はA型(ワクチンタイプ)、D4、D8、D9、およびG3型であり、その多くは海外からの帰国者の発症であり、明らかな輸入例である3) 。また、渡航歴の無い散発例からも検出されているが、これらは輸入例からの二次感染と考えられたが、これ以上の感染拡大はみられないため、これまでのところ輸入株が常在化したことを疑わせる事例はないようである。最終的な結論を出すのは時期尚早としても、「常在型のウイルスは排除され、検出された株は輸入型とその二次感染で、輸入株の国内常在化は起こっていない」との現状分析が成り立つ蓋然性は高い。極言すれば、これはすなわち、「麻しん排除はすでに事実上達成されている」ということではないだろうか。

3.IgM抗体価による検査診断の問題点
麻しんの診断根拠としては、臨床所見、血清診断、ウイルス検出の3法がある。このうち汎用されているのは、血清診断の麻しん特異的IgM抗体価検査であり、健康保険でカバーされるため、年間1万数千件もの検査が民間検査機関に依頼され、しかもその陽性率は2009年のデータでは4.6%とされている。しかし、この検査は、他の感染症による偽陽性が相当数みられること、陽性と判定された例の大部分は弱陽性であり、この抗体価だけを診断の根拠とすれば、相当数の麻しんではない例の紛れ込みを許すことにつながるという問題点を抱えている。事実、数カ所の地方衛生研究所が行った偽陽性が疑われる症例での追加のウイルス検索では、風疹、ヒトパルボウイルス(伝染性紅斑)などが検出されており、全国で相当数の紛れ込み症例が麻しん報告例に実際にカウントされている可能性を強く示唆している。年間の麻しん発生数が数千以上であった2008年以前には問題にならなかった紛れ込み症例を把握することも、発生数が激減し、排除期限が目前に迫った現状では無視できない課題と考えなければならない。

4.麻しんの診断根拠と届出の問題点
2011年の麻しん報告例434件のうち、検査診断例は201件、臨床診断例は123件、修飾麻しん(検査診断例)が110件である3) 。修飾麻しんを含めた検査診断例311件のうち、ウイルス検出は126件であり2) 、残りの185件は民間検査機関の血清抗体価を診断根拠とする例数と考えられる。血清診断 185例と臨床診断123例、すなわち麻しんウイルスが証明されていない308件の麻しん報告例のうちで、いったいどれくらいの割合で実際は麻しんでないものが含まれているのか、これは推測するしかないが、半数とまではいかないにしても少なくとも20~30%にはなるのではないかと考えられる。その根拠は、適切な時期に採取された検体であるにもかかわらずウイルスが検出されず、したがって麻しんは否定的であるのに、麻しんとして届出がされている、あるいは届出が取り下げられていない事例がかなりあることが、地方衛生研究所の調査で判明しているからである。例えば、群馬県では2011年に5件の報告があるが、このうち2件は群馬県衛生環境研究所での検査で、患者検体からウイルスが検出されなかったにもかかわらず、届出が取り下げられなかったものであり、麻しんでない可能性がきわめて高いと考えられる。また、残り3件は臨床あるいは血清診断で届けが出されており、ウイルス診断が行われなかったものであり、得られた情報からは、これらも麻しんの可能性は少ないと判断されるためである。

5.麻しんの疾患様態の解明
この1年間の地方衛生研究所が行ったウイルス検査によって、麻しんというウイルス感染症の様態についての理解が飛躍的に進んだとの見方も成り立つ。ある意味では、これは麻しんというウイルス感染症の疾患概念の変更を迫る事態であるかもしれない。ウイルス感染症の診断は歴史的に3つの段階を経て進歩した。第一の段階は、臨床症状による経験的・主観的診断である。この時代は医師が麻しんと診断すればそれだけで麻しんと認められた。第二の段階はそれに血清診断を加えて診断する段階である。血清抗体価という客観性が加わったものの、紛れ込み症例を有効に排除するまでには至らなかった。第三の段階では、直接ウイルスを検出することで確定診断ができるようになった。麻しんは不顕性感染が殆どないので、ウイルスの証明イコール確定診断である。また、適切な時期に採取された咽頭ぬぐい液・血液・尿の3種の患者検体の、いずれからもウイルスが検出されなければ、まず麻しんは否定されるものと考えてよい。この1年間、全国で多くの麻しん疑い症例でルーチンにウイルス検査が行われるようになって判明したことは、第一の段階、第二の段階での報告数には、麻しんでないものを誤認していた例数がかなり存在したにちがいないということだろう。全例にウイルス検査を行うという、手間も費用もかかるが画期的ともいえる世界に類を見ない取り組みを、今後も全国の地方衛生研究所が続けることによって、麻しんという疾患に対する理解が、さらに詳細かつ明瞭になるだろう。WHO がこの業績を正当に評価してくれることを切に望むものである。

 参考文献
1) https://idsc.niid.go.jp/disease/measles/2010pdf/meas10-52.pdf
2) https://idsc.niid.go.jp/iasr/measles.html
3) https://idsc.niid.go.jp/disease/measles/2011pdf/meas11-52.pdf

群馬県衛生環境研究所
小澤邦壽 横田陽子 石岡大成 塩原正枝 塚越博之 斎藤美香 後藤孝市

麻しん・風しん予防接種率向上への文部科学省の取り組み

 
(Vol. 33 p. 40-41: 2012年2月号)
2007(平成19)年に高校・大学を中心とする学校等での流行を経験したことから、学校における麻しん発生および流行を繰り返さないようにするため、2008(平成20)年4月から向こう5年間に限り、第3期:中学校1年生に相当する年齢の者、第4期:高校3年生に相当する年齢の者が新たに麻しん・風しん定期接種の対象者に位置づけられることとなった。

これを受けて、平成20年度以降、文部科学省では厚生労働省・国立感染症研究所と協力して、接種対象となった生徒に向けてのリーフレットを作成し、学校において予防接種未接種・麻しん未罹患の者に対する積極的な接種の勧奨が行われるよう、依頼してきた。

2011(平成23)年度については、TBSの協力を得て、人気テレビドラマである、日曜劇場「JIN‐仁‐」とのタイアップ・リーフレットを作成した。ドラマのテーマに重ねた、「現代(いま)なら守れる」というキャッチコピーの下、第3期・第4期の予防接種を勧奨するリーフレットとし、4月以降、全国の中学1年生・高校3年生に向けて配布した(http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08032517.htmhttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/03/1302738.htm)。

2012(平成24)年度は、第3期・第4期の麻しん・風しん定期接種が行われる最終年度となるが、配付するリーフレットには、中高生の知名度も高い、FIFA女子ワールドカップ2011ドイツで優勝した「なでしこJapan」の写真を用いることを予定しており、さらにリーフレットに掲載するためのキャッチコピーを、当事者である中学生、中等教育学校生、高等学校生および高等専門学校学生から募集したところ、4,000件近い応募があった。同年代の視点に立った広報啓発活動を展開することで、生徒たちに強い印象を与え、麻しん・風しん予防接種の必要性を、自身の問題としてとらえられるようになることを狙っている。

文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 学校保健対策専門官 有賀玲子

島根県の麻しん対策―全数把握以後の麻疹報告数とほぼ100%の接種率となった高校の取り組み

 
(Vol. 33 p. 39-40: 2012年2月号)
島根県は人口73万、全国でも有数の少子高齢化過疎県である。小規模自治体では保健師や接種担当者が、接種年齢に達した子を全員把握しており、電話での勧奨だけでなく、未接種者にはかかりつけ医からも勧奨するように仕向けているところもある。人口の多い市では、昼は両親とも働きに出ているため、夜に電話を入れると、強く不快感を示されるケースもあり、親への勧奨がどうしても行き届かないことがある。

集団接種では漏れがほとんど早急にカバーされて実質100%のことが多い。2010年度の県のMR接種率は、第1期が95.1%、第2期が95.6%、第3期が92.9%、第4期が88.8%であった。

全数把握以降の麻しん報告例と麻しん対応事例の検討と、第4期の接種率100%の高校での取り組みを紹介する。

1)全数把握後の麻しん報告
麻しんとして県に報告されたのは2008年以降で24例あり、そのうち20例はPCR検査等で否定された(図1)。麻しん症例として感染症発生動向調査への発生届出症例5例(2008年4例、2009年1例)1) 中、PCR陽性が1例、他4例はPCR未実施であった。

24例中コプリック斑ありとされた6例のうち1例のみPCR陽性で、残りはいずれもPCR陰性であった。IgMが検査された7例では1.21未満が4例、1.21以上~5未満が3例(1.77、2.47、2.86)であった。

否定例と届出症例の合計24例中1例が麻しん症例と考えられ、残り23例は麻しんではなかったと思われる。今後は検査体制の周知をさらに進め、正確な診断を期したい2, 3, 4) 。

2)MRワクチン接種率100%を達成した県立高校の取り組み
県立某高校では麻しん後の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)例を病院実習で経験した養護教諭を中心に、全校あげての麻しん対策が行われ、その成果でほぼ100%の接種率を達成していることを紹介する。

文部科学省・厚生労働省からの高校生むけの勧奨パンフレット、松江市からの保護者にあてたお知らせ、さらに学校長からのお知らせ、保健室からの保健だよりなど、繰り返し勧奨がなされた。これらはどこの高校でも実施されている。しかしこれだけ次々と広報や勧奨の文書を配布されても、本人たちが接種に乗り気でなければ実効性が乏しい。また、アレルギー疾患など接種要注意者ははじめから接種を敬遠しがちであるが、本人や家族に工夫次第で接種が可能なことも伝える。

保護者にも情報が繰り返し理解しやすく伝えられないと協力が得られにくい。養護教諭が一人奮起しても管理職や他の教職員が一緒に対策に加わらないと接種率を上げる方向には向かない。

そのために新入生を迎える段階から生徒や親、さらには教職員に働きかけていくことから始まる。表1に示したように年間の対応スケジュールをたて、接種者と未接種者を絶えずチェックして、未接種者には繰り返し接種を呼びかける。同時に1、2年生にも3年生になると接種することを予告し、心の準備を持たせる。3年生の1学期が始まる4月に第1回の接種勧奨、夏休み前の7月に接種状況調査と未接種者への勧奨、9月下旬に第2回の接種状況調査と10月に未接種者への勧奨、11月に第3回の接種状況調査と未接種者への勧奨、12月には保健室での未接種者への勧奨など、ローラー作戦で未接種者を一人一人なくしていく。

予診表を無くした場合は市の担当者に電話をして指示を受けること、部活で接種が困難な場合は、テスト中の都合がつく日に接種すること、下宿生や他市町村からの入学者への接種医療機関の紹介、また、接種済み生徒からの勧奨、接種報告書の提出等、担任の協力のもとで全校あげて 100%をめざした(表2)。進学校であり、周囲の皆が接種を済ませると自発的に未接種者へ生徒同士からの働きかけもあり、未接種のままではいけないと思うようになるという。

麻しんの情報源は保健室だよりからが最も多く、次いで家族、テレビ、さらにはリーフレットとなっており、学校での生徒への指導や、親への集会等での説明が役に立っている。

また、接種の動機では親から勧められたことがトップであり、これから親への説明・勧奨が重要なことがうかがわれる。学校からの勧奨、さらには情報を得て自分から受けようとするのが続いている。高校生では自分から自発的に接種することが望ましいが、親が勧めることにより受ける気になるとすれば、親への説明の機会をうまく設定することが重要になる。

2008~2011(平成20~23)年度の現時点まで、対象者 962名中、未接種者は24名であった。罹患済みのためが11名と半数を占め、残り13名は様々な理由で接種ができなかった。なお、2009(平成21)年度からは罹患者も勧奨の対象とした。

麻しん対策の資料等を快く提供していただいた県薬事衛生課、県保健環境科学研究所、県立高養護教諭の関係者にお礼を申し上げる。

 参考資料
1)島根県感染症情報センターHP http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/dis/zensu/516.htm
2)島根県感染症情報センター提供の麻しん対応事例
3)島根県麻しん対策会議平成21年3月4日配布資料
4)医師による麻しん届出ガイドライン第3版
 https://idsc.niid.go.jp/disease/measles/guideline/doctor_ver3.pdf
5)第56回中国地区学校保健協議大会養護教諭部会発表原稿

島根県麻しん対策会議会長・及川医院 及川 馨
島根県健康福祉部薬事衛生課感染症グループ 渡利紗映 三輪信吾 沖原次郎 桐原祥修
島根県保健環境科学研究所 大城 等
島根県立高校 角 真左子

麻しん予防接種率向上への学校の取り組み-山形市

 
(Vol. 33 p. 38-39: 2012年2月号)
1.はじめに
私たちは学校において感染症対策推進の役割を担う養護教諭として、2007(平成19)年度より4年間、「感染症発生の予防と対応」をテーマに取り組み、自分たちの職務を見つめ直して再構築を図った。また、生徒の感染症に関する実態を調査し、(1) 麻しん、(2)インフルエンザ、(3)感染性胃腸炎の各グループで今後の実践内容を検討し、全体で共有した。さらに、「養護教諭の特質と保健室機能を生かした執務の展開」と「育てたい力を明確にした予防教育(予防指導)の実践」が重要と考えて、この2つの活動を“生徒の健康行動を支える情報”と“積極的・計画的支援”をキーワードに山形市内19中学校で実践した。

麻しんについては、「予防期」、「流行期」、「終えん期」の各段階における“養護教諭の職務”と“情報提供の工夫”について『校内体制ガイドライン』としてまとめた。また、効果的な指導時期と内容を検討して『予防指導プログラム(年間計画)』を作成した。

2.啓発活動の実際
(1)機会を捉えた積極的・計画的な啓発活動(1学期:全員への積極的勧奨期)
生徒たちが口にするのは、「部活動が忙しい」、「暇がない」などである。そこで、5月の部活動開始までを第1の取り組み期とし、入学前2月の新入生保護者会を皮切りに、入学直後から機会を捉えて声かけや資料配付を行った。入部後は部活動のない日、代休日を保健便りなどで具体的に保護者へお知らせし、また、部活動より受診が優先する「治療強調週間」を6月下旬に設けるなど、接種を促す環境の整備に努め、6月末時点の接種状況を調査して夏季休業前の積極的勧奨につなげた。

(2)「保健指導」の充実と一人ひとりを大事にした啓発活動(2学期:グループ・個別指導の充実期)
6月末の接種状況から対象者を絞り込み、2学期は「グループ・個別指導の充実期」として未接種者への働きかけを強化した。10月に山形市から未接種者へ接種勧奨文書が個人通知されるのに歩調を合わせて、未接種者へ啓発用DVDを使ってグループ指導を行った。さらに、その後の接種状況を確認しながら個別指導を行い、その内容を2学期末の三者面談時に担任から保護者へ直接報告してもらっている。生徒の接種環境は複雑化していることから、一人ひとりの抱える状況に寄り添いながら、接種できる環境づくりをともに探り、見守っていく姿勢が肝要である。

(3)学校医・市健康課・教育委員会など関係機関との連携強化
内科健診や学校保健委員会などの機会を捉えて、学校医にそのつど接種状況を報告して助言をいただいた。また、行政機関からのリーフレット・個別通知文書などの配布時期、接種状況調査時期を考慮した上で年間計画を立て、接種状況調査結果を次の啓発活動に連動させていくことがポイントである。学校として市や県の接種状況等を積極的に情報収集しながら、日頃から顔と顔が見える連携を大事にして、ネットワーク化を強めていく工夫が大切である。

(4)麻しん(3期)予防接種率の推移
麻しん予防接種率は年々高くなり、早期に接種を終える生徒が増加した()。2008(平成20)年度の山形市接種率は県平均を下回っていたが、2010(平成22)年度は県平均を上回った。

3.まとめ
感染症予防教育は、生徒がこれから生きる上で大切な「自立と共生の力」を育む機会となり、養護教諭の積極的・計画的支援が生徒の意識や行動変容につながることが見えてきた。地域保健の中の学校の役割を再認識し、発生予防・蔓延防止のための予防接種の積極的勧奨と予防教育の充実、早期発見・早期対応のための健康観察の確実な実施、迅速かつ的確な情報収集と情報提供、校内の感染症予防体制の確立等をさらに進めていきたい。また、生徒の健康課題解決と真の自立のために、学校・家庭・地域関係機関との連携をさらに強め、協働していきたい。

山形市中学校教育研究会養護部会
山形県山形市立第十中学校 養護教諭 三浦真喜子(文責)

2011年度麻疹血清疫学調査および予防接種状況調査-2011年度感染症流行予測調査中間報告

 
(Vol. 33 p. 35-38: 2012年2月号)
はじめに
感染症流行予測調査における麻疹感受性調査(抗体保有状況調査)は、1978年度に開始されてから1994年度まで(調査実施年度:1978~1980年度、1982年度、1984年度、1989~1994年度)赤血球凝集抑制法により行われてきた。1996年度からはゼラチン粒子凝集(particle agglutination: PA)法に変更となり、2011年度もPA法による抗体価の測定が行われた(調査実施年度:1996~1997年度、2000~2011年度)。

2011年度は北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、石川県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の24都道府県で感受性調査が実施され、各都道府県衛生研究所において抗体価の測定が行われた。2012年1月10日現在、 6,647名についての結果が報告され、5歳ごとの年齢群別内訳は0~4歳群:925名、5~9歳群:525名、10~14歳群:608名、15~19歳群:684名、20~24歳群:565名、25~29歳群:640名、30~34歳群:585名、35~39歳群:571名、40~44歳群:398名、45~49歳群:322名、50~54歳群:278名、55~59歳群:222名、60歳以上群:324名であった。また、対象者の採血時期は7~9月が5,446名(82%)と大半を占め、4~6月が946名(14%)、10月以降が255名(4%)であった。

麻疹含有ワクチン接種状況
麻疹に対するワクチン(麻疹含有ワクチン)には麻疹単抗原ワクチン(1978年10月に定期接種に導入)、麻疹風疹混合:MRワクチン(2006年4月に定期接種に導入)、麻疹おたふくかぜ風疹混合:MMRワクチン(1989年~1993年に生後12カ月以上72カ月未満の児における麻疹定期接種時に選択可能であった)があるが、2011年度調査が実施された時点における麻疹含有ワクチンの接種状況について図1に示した。上段は接種歴不明者を含まないグラフ、下段は接種歴不明者を含むグラフであり、感受性調査を実施していない3県(富山県、愛媛県、熊本県)からの報告も含まれている。

全体では麻疹含有ワクチンの1回接種者は32.8%、2回接種者は15.6%、接種は受けたが回数不明であった者は 7.3%、未接種者は 9.1%、接種歴不明者は35.3%であり、年齢の上昇に伴い接種歴不明者の割合が増加した。1回以上接種した者(接種回数不明者も含む)について年齢別にみると、0歳では数%であったが、定期接種第1期の対象年齢である1歳で急増し(※調査時の年齢が1歳0カ月~1歳11カ月であるため、調査後2歳になるまでに接種を受けた者が多く存在すると考えられる)、2歳以降19歳までは高い接種率を維持していた。また、MRワクチンが2006年度に定期接種に導入されたことを受けて、当時第1期の接種対象者であった5~6歳ではMRワクチンによる2回接種者が報告されるようになった。

2006年6月から1)1回目の接種で免疫が獲得できなかったprimary vaccine failureの者への免疫賦与、2)1回目の接種後、年数の経過により免疫が減衰してきた者に対する2回目の接種による免疫増強、3)1回目の接種機会を逃した者に再度の接種機会を与えることを目的とした定期接種第2期(対象は年度内に6歳になる者:本調査時点で5または6歳)が開始されたが、本調査までに第2期の接種期間が終了した7~10歳における麻疹含有ワクチンの2回接種率は、2006年度以降年々増加していたが、50~60%程度であり、1回のみの接種で2回目を受けていない者が20~30%残存していた。また、2008年4月からは5年間の期限で定期接種第3期(対象は年度内に13歳になる者:本調査時点で12または13歳)および第4期(同18歳になる者:同17または18歳、※2011年度は年度内に17歳になる一部も対象)が開始されたが、本調査までに第3期の接種期間が終了した14~15歳および第4期の接種期間が終了した19~20歳における麻疹含有ワクチンの2回接種率の平均はそれぞれ56.8%および40.1%であった。同年齢層において1回のみの接種で2回目を受けていない者は、第3期接種期間終了者で15~20%程度、第4期接種期間終了者で25%程度残存しており、第2~4期の接種期間終了者に対する2回目の接種機会の賦与が必要と考えられた。

図2は2011年度と定期接種第2期が開始された2006年度の予防接種状況について、0~19歳における麻疹含有ワクチン1回接種者と2回接種者のみの比率を示したグラフである。2011年度の2回接種者の割合は2006年度と比較して着実に増加していた。しかし、現時点では十分とはいえず、本年度の第2~4期の接種対象者(第2期5~6歳、第3期12~13歳、第4期17~18歳)でまだ受けていない者、および来年度(2012年度)の接種対象者(第2期4~5歳、第3期11~12歳、第4期16~17歳)における接種率の向上が期待される。

麻疹PA抗体保有状況
年齢別あるいは年齢群別の麻疹PA抗体保有状況(中間報告)を図3に示した。PA法により抗体陽性と判定される抗体価1:16以上の抗体保有率について年齢別にみると、0~5カ月齢では移行抗体と考えられる抗体保有者が57%存在していたが、6~11か月齢では9%であった。その後、定期接種第1期の対象年齢である1歳で74%と急増し、2歳以降のすべての年齢および年齢群では95%以上の抗体保有率であった。これはWHOが麻疹排除に必要として求めている目標の1つである。しかし、PA抗体価1:16は麻疹の発症予防として十分な抗体価ではないことから、PA法において麻疹の発症予防の目安とされる抗体価は1:128以上(少なくとも1:128以上であり、できれば1:256以上が望ましい)と考えられている。2006年度以降来年度までの第2~4期接種対象者(本調査時点で4~21歳)のうち、来年度の接種対象者が多く含まれる年齢層(第2期:本調査時点で4~5歳、第3期:同11~12歳、第4期:同16~17歳)以外の年齢では概ね90%以上の抗体保有率であり、2回目の接種を受けることによる免疫増強の効果がみられた。

麻疹PA抗体保有状況の年度別比較
麻疹PA抗体保有状況について、2011年度と第2期の接種が開始された2006年度の比較を図4に示した。PA抗体価1:16以上の抗体保有率についてみると、2006年度は2~19歳のうち約半数で95%を下回る年齢がみられたが、2011年度中間報告の同年齢層はすべて95%以上であった。20歳以上の各年齢群においては両年度でほとんど差はみられず、97%以上の高い抗体保有率であった。また、PA抗体価1:128以上について、5歳から20~24歳群における抗体保有率の平均を比較すると、2006年度の84%に対して2011年度は92%に上昇していた。

図5は2008~2011年度の第3期および第4期接種対象者における麻疹PA抗体保有状況(PA抗体価1:16~1:64および1:128以上)について、第3期・第4期の定期接種が開始される前年の2007年度と開始から4年目の2011年度の結果を生年別に比較したグラフである。

第3期接種対象者は1995~1998年度生まれの者(2008~2011年度に13歳になる者)であるが、グラフでは2007年度調査時に9~12歳であった者と2011年度調査時に13~16歳であった者について比較した(例えば1995年生まれの者では2007年度調査時の12歳と2011年度調査時の16歳を比較)。1995~1997年生まれにおける2011年度の抗体保有率(PA抗体価1:128以上)は2007年度と比較して8~18ポイント上昇し、本年度(一部昨年度)の第3期接種対象者である1998年生まれでは12ポイントの上昇がみられた。

一方、第4期接種対象者(1990~1993年度生まれで2008~2011年度に18歳になる者であるが、2007年度調査時の14~17歳と2011年度調査時の18~21歳を比較)における抗体保有率(PA抗体価1:128以上)について2011年度と2007年度を比較すると、1990~1992年生まれでは8~11ポイント上昇し、本年度(一部昨年度)の第4期接種対象者である1993年生まれでは6ポイントの上昇であった。

まとめ
2011年度調査の結果から、麻疹含有ワクチンの2回接種率の向上により抗体保有率は上昇し、抗体陰性者(PA抗体価1:16未満)の減少ならびに発症予防が期待できる抗体(PA抗体価1:128以上)の保有者の増加が認められた。

2009年以降、わが国の麻疹患者報告数は年間数百人規模まで減少した。排除達成の目標である2012年を迎え、今後の定期接種対象者における接種率・抗体保有率の向上が望まれる。また、1回のみの接種で2回目を受けていない者が第2~4期の接種期間終了者に残存していることから、これらの者に対する2回目の接種機会の賦与が必要と考えられた。さらに、定期接種の対象ではない者においても十分な抗体を保有していない者、特に発症した場合に周りへの影響が大きい医療、福祉、教育などの現場に従事する者は、追加接種により免疫を増強することが重要と考えられる。

国立感染症研究所感染症情報センター 佐藤 弘 多屋馨子 岡部信彦
2011年度麻疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県および都道府県地方衛生研究所
北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、富山県、
石川県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、愛媛県、高知県、
福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県

麻疹含有ワクチン接種率調査(2010年度全国集計最終結果)

 
(Vol. 33 p. 33-35: 2012年2月号)
2012年に麻疹排除を達成するためには、麻疹含有ワクチン接種率を向上させる必要がある。WHO(世界保健機関)は、すべての年齢コホートで麻疹に対する抗体保有率が95%以上になることが麻疹排除達成には必要としているが、そのためには、2回の接種率がそれぞれ95%以上になることが目標である。

わが国では1978年に麻疹ワクチンが定期接種に導入され、2006年度から麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種に導入された。さらに、2006年6月2日から、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前1年間の者)の年齢層に対する2回接種制度が始まった。

しかし、2006年に地域流行から始まった麻疹の流行は、2007年には全国的な流行となり、多くの高等学校や大学が麻疹により休校になった。麻疹ワクチンの接種を希望する者が医療機関に殺到し、麻疹ワクチンが不足し、さらには麻疹に対する抗体測定のためのキットも不足するなど、社会問題にも発展した。また、麻疹を排除した海外の国々からは麻疹輸出国と非難された。

これをうけて、2007年12月28日に「麻しんに関する特定感染症予防指針」が告示された。2007年の流行は、麻疹含有ワクチン未接種あるいは1回接種の10~20代を中心に発生したことから、まずは10代への対策を強化する目的で、2008年度から5年間の時限措置として第3期(13歳になる年度の者)と第4期(18歳になる年度の者)の年齢層に対する2回目のワクチンが定期接種に導入された。

本稿では、第1、2期開始後5年目、第3、4期開始後3年目の2010年度の第1期~第4期の麻疹含有ワクチンの接種率を図1図2図3図4に示す。

1)第1期:2010年度、全国の接種率は95.7%であり、2009年度と比較して 2.1ポイント上昇し、目標とする95%以上を初めて達成した。最も高かったのは徳島県の99.6%、最も低かったのは福島県の91.7%であった。95%以上を達成したのは、2009年度が47都道府県中9道府県であったのに対し、2010年度は34道府県と著明に増加し、90%未満の都道府県はゼロとなった(図1)。このまま95%以上を継続して維持していくことが重要と考える。2010年度第1期対象者における未接種者数は、全国で47,070人であった。

2)第2期:導入5年目にあたる2010年度の第2期全国接種率は92.2%であり、前年度92.3%より 0.1ポイント減少した。最も高かったのは新潟県の96.9%、最も低かったのは神奈川県の88.4%で、80%台は神奈川県のみとなった。95%以上の接種率を達成していたのは8府県であり(図2)、日本海側の県に多かった。2回の接種率がそれぞれ95%以上になることが排除の目標であることから、さらなる接種率向上には保育所や幼稚園で、入学前に2回の接種が完了しているかを確認し、最年長組の児童が第2期の麻疹風疹混合ワクチンの接種を受けていない場合には保育所や幼稚園で個別に接種を勧奨するなど、きめ細やかな啓発が重要と考える。なお、2010年度第2期対象者における未接種者数は、全国で86,594人であった。

3)第3期:導入3年目である2010年度の全国接種率は87.3%であり、前年度の85.9%より 1.4ポイント上昇した。47都道府県中、最も接種率が高かったのは茨城県の96.5%、最も低かったのは鹿児島県の79.9%で、70%台は鹿児島県のみとなった。95%以上を達成したのは、茨城県、富山県、福井県、新潟県の4県であり(図3)、2009年度より2県増加した。また、全国47都道府県中、34都道府県で前年度より接種率が上昇した(表1)。学校での集団接種を実施している茨城県では毎年度接種率が高く、この年齢層の子ども達が接種を受けやすい環境としては学校を接種場所とした集団的個別接種の重要性が考えられた。また自治体と学校が連携して、接種の意義、麻疹と風疹の予防の重要性についての教育を本人と保護者に丁寧に行うとともに、未接種者への個別の積極的な接種勧奨が95%の目標達成には重要と考える。なお、2010年度第3期対象者における未接種者数は、全国で152,945人であった。

4)第4期:2010年度の第4期の全国接種率は、4つの期の中では最も低い78.9%であったが、前年度より1.9ポイント上昇した。95%以上を達成した都道府県はなかったが、山形県、新潟県、富山県、島根県、福井県、秋田県、佐賀県で90%以上となった(図4)。2009年度と比較すると、全国47都道府県中、34都道府県で接種率が上昇した(表1)。最も接種率が高かったのは山形県の91.8%、最も低かったのは神奈川県の62.6%であり、60%台であったのは神奈川県と東京都のみとなった。なお、2010年度第4期対象者における未接種者数は、全国で256,655人であった。第4期においても、第3期と同様に、学校で未接種者に対して個別に接種勧奨をすることが重要であり、この年齢層では近い将来妊娠ということも考えられる。2011年の風疹の地域流行にも触れて、保護者と本人に対し、麻疹と風疹の予防の重要性を伝えて欲しい。保健行政と教育部門が連携した上で、“顔の見える”接種勧奨をさらに強化することが必要不可欠であり、そのためには各学校におけるクラスの担任や養護教諭の役割が何にも増して重要であると考える。

第1期~第4期すべてにおいて90%以上であったのは、秋田県、山形県、新潟県、富山県、福井県、島根県、佐賀県の7県であり、2009年度の3県と比較すると増加していた。2009年度の調査で認められていた(1)年齢が大きくなるにつれて接種率が低下する、(2)大都市圏において特に接種率が低い、(3)接種率の高い都道府県と低い都道府県が固定化されつつある、という三つの傾向は2010年度も変わらずみられていたが、2009年度に比較すると、全体的に接種率は上昇しており、2012年度までの措置である第3期・第4期の接種率を目標の95%に高めるとともに、第1期の95%以上は維持しつつ、第2期も95%以上を達成できるよう、さらなる啓発が必要である。

厚生労働省のホームページ(2012年1月現在URL:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html)には、全市区町村の第1期~第4期の接種率が公表されているので、各市町村における接種率向上に向けた取り組みに活用して欲しい。

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子 佐藤 弘 岡部信彦

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