ペンシルベニア州における病院での麻しんアウトブレイク、2009年3~4月-米国

 

(Vol. 33 p. 45: 2012年2月号)

米国では国内の麻しん伝播はないが、ウイルスの輸入が続いている。

症例Aは23カ月男児で、2009年3月26日に発症し、28に地に39.2℃の熱、咳、感冒様症状、発疹を示し、ペンシルベニア州のA病院救急部門に麻しん疑いのため隔離された。症例Bは4歳の症例Aの兄で、3月23日に発症し、発熱、咳、感冒様症状、発疹を示した。症例Cは33歳の症例AとBの父親で、3月26日に発症し、同様の症状を示した。症例AとBは麻しんワクチン接種歴がなく、症例Cは小児期に1回接種していただけであった。症例A、B、Cは全員3日間以内に発症していたので単一曝露による伝播が疑われた。この3症例は3月10日にA病院救急部門に麻しんと無関係の理由で来院しており、海外渡航歴は無かった。

その後2例の追加症例が報告された。症例Dは、A病院救急部門の医師で、麻しんワクチンを3回接種していたが、3月26日に発症し、発熱、発疹の症状を呈した。症例Eは11カ月の乳児で、3月27日発症し、発熱、発疹の症状を呈し、4月1日に川崎病の除外診断のためA病院感染症科を受診した。症例D、Eは3月10日にA病院救急部門を訪れており、ともに海外渡航歴は無かった。

疫学調査から、3月10日にA病院救急部門にいたことが5症例の共通因子であり、これらの症例の感染源を調査するため、3月10日に発熱、発疹を主訴とし、最近の海外渡航歴があるA病院救急部門受診患者を調べたところ、症例Fが特定された。症例Fは10歳小児で、ワクチン接種歴は不明、3月7日に発症し、発熱、感冒様症状、結膜炎の症状を示していた。3月8日にインドからペンシルベニア州に移り、3月9日に発疹を示した。3月10日にA病院救急部門に川崎病の除外診断のため転送され、症例A、Eと近くの診察室に4時間重なって滞在していたことが確認された。症例Fの診断はウイルス性発疹症であった。

6症例は全員麻しん血清検査IgM陽性であった。症例Aの鼻咽頭からはインドで流行している麻疹ウイルス遺伝子型D8が検出された。

症例Fはインドから飛行機に乗っていたため、CDCの国際移住検疫局(Division of Global Migration and Quarantine)が乗客者情報を入手し、乗客者の居住地州に情報提供したが、これらの乗客から2次感染者は報告されなかった。また、一般の人々と医療関係者に対して、様々な手段による注意喚起が行われた。接触者調査として、6症例に対する潜在的な曝露があったとされる4,000名に電話調査が実施されたが、新たな麻しん症例は確認されなかった。A病院職員168名のうち、72名(43%)で過去の麻しん血清検査の記録がなかった。今回検査した69名のうち8名(12%)は麻しん血清検査IgG 抗体陰性であり、そのうち5名は18日間の休職を命じられた。症例Dの医師以外の病院職員で麻しんを疑わせる有症者はいなかった。

この事例は医療機関における麻しん伝播の可能性を示唆しており、職員の麻しん罹患歴・予防接種歴の確認、およびそれらのない職員に対する麻しんワクチン予防接種実施が強く推奨される。

(CDC, MMWR, 61, No.2, 30-32, 2012)

馬刺しを原因とする食中毒―福岡県

 

(Vol. 33 p. 44-45: 2012年2月号)

2011(平成23)年9月5日、生食用馬肉(馬刺し)を摂取したことによる食中毒事件が福岡県内で発生した。県保健福祉環境事務所の調査によると、9月5日19時頃に家族2名が自宅にて夕食(馬刺しを含む)を摂り、翌6日2~5時頃、2名とも下痢、腹痛等を発症、うち1名が医療機関で受診した後、県保健福祉環境事務所へ連絡した。また、別の家族5名も、同様に9月5日19時頃、自宅にて夕食(馬刺しを含む)を摂り、うち2名が9月5日22時~6日6時頃に下痢等を発症した。有症者4名の共通食は、9月5日に熊本県内の同一食肉販売店で購入した「馬刺し(冷蔵)」で、有症者を含む2家族7名全員が摂取していた。

販売された馬刺しは、熊本市内の食肉処理業者から当該食肉販売店が仕入れたカナダ産馬のウデ肉で、冷凍処理されておらず、食肉販売店でトリミング後、冷蔵保存され、販売されていた。また、2家族が購入したものは同一馬の同一部位から切り出されたものであった。潜伏時間は3~11時間で、主症状は下痢および腹痛で、有症者1名が医療機関にて抗菌薬等による治療を受けたが、入院には至らなかった。9月8日、県保健医療介護部保健衛生課より検査依頼を受け、9月9日、県保健福祉環境事務所より、有症者便4検体および馬刺し残品1検体が搬入された。

本事例では、平成23年8月23日、食安0823第1号、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知による、「Sarcocystis fayeri の検査法について(暫定版)」に従い、馬刺しの検査を行った。18S rRNA領域を標的としたコンベンショナルPCRを行い、馬刺し検体よりザルコシスティス属の約1,100bpのバンドを検出した()。陽性対照は、国立感染症研究所・八木田主任研究官より配布されたDNA鋳型を用いた。さらに、検鏡を行い、ザルコシストおよびブラディゾイトを確認した。並行して行った食中毒細菌検査では、1名の便からウェルシュ菌、1名の便から黄色ブドウ球菌が検出され、馬刺しからも黄色ブドウ球菌が検出されたが、黄色ブドウ球菌は7%NaCl加トリプトソーヤブイヨンによる前培養後に食塩卵寒天培地より分離したものであり、これらの食中毒細菌が今回の事例に有意に関連しているとは考えがたく、ザルコシスティス属による食中毒であることを強く示唆するものであった。この事例は、最終的に、馬刺しを原因とする食中毒として行政処分が行われた。

福岡県保健環境研究所保健科学部病理細菌課
竹中重幸 濱﨑光弘 江藤良樹 市原祥子 村上光一 堀川和美
宗像・遠賀保健福祉環境事務所
中岡秀仁 前田真奈美 重岡理恵 松尾樹治
南筑後保健福祉環境事務所
永島弘之 熊本サチ子
福岡県保健医療介護部保健衛生課
山﨑知絵 野中寿子

福岡市における2011年の風疹の発生状況と対応

 
(Vol. 33 p. 43-44: 2012年2月号)

はじめに
風疹が全数報告対象疾病となって以来、本市における風疹報告数は、2008年9件、2009年13件、2010年1件と推移していたが、2011年には62件と大幅に増加し、全国で最も発生の多い地域となった。また、国の通知に基づいて2010年12月から始めた麻疹診断時のPCR検査は1年間で28件実施しているが、麻疹PCR検査はすべて陰性、風疹PCR検査は18例で陽性となっており、このことからも市内での風疹の流行がうかがわれた。

風疹の発生状況
2011年第4~5週にかけて、市内医療機関より3件の麻疹発生届を受理した。3例は入国後間もない20歳前後の東南アジアからの留学生で、保健所が麻疹PCR検査を実施したが、結果は3例とも麻疹陰性で、風疹陽性であった。その後、第7週と第11週にこれとは別に、4例の東南アジアからの留学生の風疹発生届を受理した。これら7例はすべて同じ日本語学校に通う同一国からの留学生であり、同じ寮で生活をしていた。この後の、日本人における風疹患者発生との疫学的リンクは定かではないが、2011年の流行はここから始まっている。本市はアジアの玄関口として、近年外国人登録者数も増加しており、入国後間もない外国人がこのように発症することは、他の感染症においても珍しいことではない。以後第20週までは、市内、県内での風疹発生は認められなかった。

しかし、第20週以降に、日本人の風疹患者の報告が20歳前後の男女を中心に増加した。本市における2011年の風疹発生状況を示す(図1)。報告数がピークになる8月頃(第33~35週)には、複数の医療機関から、『市内繁華街の飲食店従業員の間で風疹が流行しているようだ』との情報もあり、保健所は積極的に患者情報の収集に努めたが、集団発生が起きている職場の特定には至らなかった。また、第41週には妊娠女性の患者発生届を受理したが、患者発生は減少傾向にあった。

ところが、第47週に入り、今まで患者報告がなかったW区において、保育園での集団感染が発生した。0~2歳の乳幼児が30名通園する小規模な園であったが、職員、園児とその家族に、年末までに9名の発生を認めた。この中にはMRワクチンの定期接種対象となる前の0歳児も2例含まれていた。第47週から始まった感染は年を越して継続している。

年齢別性別の発生状況を示す(図2)。小・中学生の患者発生は認められず、高校生や専門学校生における発生も単発に終わっており、MRワクチンによる集団免疫が得られているものと推察された。また、30歳以上の患者は15例であったが、うち男性が14例であり、30歳以上の年代における抗体保有率の性差が浮き彫りになった印象である。

本市の対応
妊婦の患者発生や保育園での集団感染を受け、本市としての風疹流行への対応を行った。まず、風疹患者が増加していることや、風疹の基礎知識、予防接種の勧奨など、マスメディアへ情報提供し、市民への周知を行った。また、医師会を通じ各医療機関に、風疹を診断した際の発生届の徹底と情報提供、予防接種の勧奨、風疹に罹患した妊婦への対応等を依頼した。特に産科医療機関には、上記の依頼に加えて、妊娠女性への対応診療指針や相談窓口(2次施設)*の周知も図った。また、保健所の対応として、発生届を受理した際の情報収集、集団感染を探知した際の調査・指導と風疹PCR 検査を行うこととした。具体的に、今回の集団感染の起きた保育園の事例では、全園児と全職員のワクチン接種歴、罹患歴等の調査、予防接種の勧奨、保護者からの妊婦の抽出と指導、健康観察を行った。発生が継続しており、依然流行終息の気配がないことから、市内7区の各保健所では常に発生状況の情報を共有しながら、監視を続けている。

風疹は潜伏期間が比較的長い上に、不顕性感染も多く、ほとんどの患者の症状は軽微で回復も早いため、感染の実態がつかみにくい。また、医療機関の受診も1回限りであることが多いため、患者情報も十分には得にくい。今後の先天性風疹症候群の発生も懸念され、引き続き、本市としては風疹の発生に注意しながら、地道な取り組みを続けていく。

*妊婦感染の相談窓口の存在と現状(IASR 32: 266-267, 2011

福岡市保健福祉局保健医療部保健予防課 園田紀子 澤田鉄郎

RT-PCRおよび細胞分離培養により便からエコーウイルス6型が検出されたFebrile vomiting illnessの集団発生―千葉県

(Vol. 33 p. 42-43: 2012年2月号)
 

探 知:2011年11月7日に管内の施設から「11月1日より胃腸炎が多数発生している」との電話相談を受けた。この施設は8寮(男子5寮、女子3寮)から成り、職員46名、寮生140名(男83名、女57名)で、寮生の学校は高校28名、中学校41名、小学校58名、園内保育園13名で、10月25日~11月7日の有症状者は25名であった。

 

調査結果:症例定義を(1)当施設の在籍者、かつ、(2)10月25日~11月7日の間に発熱をきたしたもの、とすると、24名が該当した。症例の発熱以外の症状は、嘔吐71%、頭痛54%、嘔気50%、腹痛21%、下痢13%、鼻汁8%、咳8%、皮疹0%で、医療機関の受診者は胃腸炎、カゼと診断され、入院はなかった。

最初、感染性胃腸炎の集団発生と考え、9名(園児5名、小学生3名、中学生1名)の便検査を行ったが、ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスおよび食中毒菌はすべて陰性であった。しかし、平均最高体温が38.7℃と高く、症状頻度で頭痛が高く、嘔吐に比して下痢が低かったことからエンテロウイルス属の感染を疑いRT-PCR検査を行ったところ、9名全員の便からエコーウイルス6型が検出された。また、同時に行った細胞培養によるウイルス分離ではCaCo-2細胞およびVero細胞で明瞭なCPEを確認し、中和試験の結果からもエコーウイルス6型と同定された。

流行曲線では、10月25日~11月3日は園児に、11月1日~11月6日は小学生に症例が集積しており()、症例の発生率は、園全体で17%、性別で男25%、女5%、学校別で園児77%、小学生19%、中学生2%、高校生7%、寮別で男子5寮(41%、29%,28%、21%、6%)、女子3寮(5%、5%、5%)で、男、園児、小学生、男子寮に症例が集積していた。

 

考 察:症例の症状頻度と検査結果より、本事例はエコーウイルス6型によるいわゆるFebrile vomiting illnessの集団発生と考えられ、髄液検査は行われていなかったが軽症の無菌性髄膜炎が多数含まれていたことが示唆された1) 。

保育園では3日ごとに新たな発症者が出現しており、全員が1室で保育されていること、非ポリオエンテロウイルスの潜伏期幅が3~6日であることから、10月25日の園児を起点(0次感染)として2次ないし3次の感染が生じたと考えられた()。また、園児は寮と保育園以外で外部と接する機会がないため、感染源は10月22日から発熱などがあった職員と推察した。寮では、各寮が2~5人の7部屋で構成され、複数の症例が発生した4つの男子寮で症例がそれぞれ寮の初発症例の園児の部屋に52%、その隣室に13%と集積していることから、感染は保育園で罹患した園児から拡大したと推察した。

エコーウイルスの感染様式は飛沫、接触、糞口感染とされるが、保育園では職員が園児全員のトイレの世話をしていたこと、寮では症例の部屋とトイレの配置と利用との関連性はなかったことから、本事例の感染様式は糞口感染が関与した可能性は少なく、気道分泌物の飛沫あるいは気道分泌物の手指付着による接触感染であったと推察した。また、寮によって症例の発生率に大きな差があったことの理由は不明であったが、発症率の低い寮では症例の発生早期から手洗い、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒を行っていたことから感染拡大対策への寮による取り組みの違いが関与したものと推察した。

 

 参考文献
1)Markey PG, et al ., Emerg Infect Dis 16: 63-68, 2010
千葉県長生健康福祉センター
一戸貞人 岡本恵子 田澤小百合 松本澄江 山田裕康 安藤直史 松本正敏
田村哲也 坂元美智代 仲宗根里香 田中良和 村上きみ代 森下和代 田中修司
千葉県衛生研究所ウイルス研究室
堀田千恵美 小倉 惇 福嶋得忍 小川知子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan