IASR Vol.17 No.1 January 1996 (No.191)

 Vero毒素産生性大腸菌 1991.1~1995.11

  • VTEC O157:H7親族内集発 : 奈良県 
  • VTEC O157:H7感染による死亡例 : 北海道 
  • VTECの検査材料 : 英国 
  • 腸管感染症対策のための指針 : 英国 


O抗原とは?

大腸菌の分類方法

 多様な抗原性を利用して、大腸菌は血清型別により分類されるO抗原とH抗原とが血清型別に用いられ、それぞれの型の組み合わせで大腸菌の血清型が決定される。

 O型別は菌体の表層にある糖鎖構造が抗原性(人や動物の体内で異物と認識される性質)を有し、また多様であることを利用した分類法である。大腸菌のO抗原はO1からO181まで存在する(O31, O47, O67, O72, O93, O94, O122は欠番となっている)。既知の型のいずれとも一致しないものが見いだされた時に新たに抗血清を得られ、新たな番号が付与される。O157とは大腸菌のO血清群で番号が157番目のもの、ということになる。

 H型別は、大腸菌の運動器官であるべん毛の抗原性を用いた方法で、H1からH56 (H13, H22は欠番)に分類されている

 

EHECの血清型

 EHECではO157抗原をもつ大腸菌が多く分離されているが、O157抗原を有する大腸菌が常にVT毒素を産生するEHECであるとは限らない。VT毒素産生性がEHECの病原性に重要である。同様に、O26, O111等の抗原性が直接病原性を表しているわけではない。

 

パルスネット

グローバル化する食品由来感染症を制御するためには、まず広域における食品由来感染症の発生を監視するシステムを構築してその発生を迅速に把握することが必要と考えられます。食品由来感染症起因菌の解析手法として汎用されているパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を主体とした菌学的解析情報と発生事例に関する種々の疫学情報を組み合わせてデータベース化を行い、その情報を関係機関において共有し、感染症発生の迅速な探知と感染源の究明に資することを目的として稼働しているシステムが「パルスネット」です。グローバル化する食品由来感染症に対応すべく、パルスネットも地球規模で展開されており、現在世界6か所の地域でネットワークが形成されており、わが国のネットワークは、アジア・太平洋地域の諸国等で構成される「PulseNet Asia Pacific」の一部となっています。


動物との直接的な接触が原因と考えられる感染

動物との接触後には十分な手洗いを!

 

動物との直接的な接触が原因と考えられる感染事例が、動物展示施設や体験農場などで発生している。また、本症では家族内発生と二次感染が多いことも特徴である。動物との接触後には十分な手洗いを行うなど、注意を払う必要がある.

牧場での「ふれあい体験」が感染源と示唆される腸管出血性大腸菌O157感染事例-青森県

学校で飼育していた羊から腸管出血性大腸菌O157の感染が疑われた事例-新潟県

搾乳体験で腸管出血性大腸菌O157による感染が疑われた事例-横浜市

飼育牛が感染源と特定された小学校における腸管出血性大腸菌O121集団感染事例-千葉市

 

 


DIFFUSE OUTBREAK

一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例

 EHECは、ウシの腸管内常在菌となることが多いため、解体時に汚染された牛肉自体や、直接あるいは間接的に便に汚染された、様々な食材や水源などが感染源となり得る。我が国では、加熱不十分な焼肉や生レバーの喫食が原因である事例が毎年少なからず報告されている。また、現在の複雑な流通事情を反映して、同一汚染食品が広範囲に流通した結果、一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例(diffuse outbreak)が発生している。例えば以下のような事例が存在する。

 

1998年: 北海道産のイクラを原因食品として7 都府県で患者49 名が発生。(参考文献)

2001年: 輸入牛肉を原材料とした「牛タタキ」を汚染源とし、7都県で193名の患者が発生。 (IASR 22, 135-136)。

 

 最近では、感染源が不明ではあるものの、遺伝子型が一致するEHEC O157が分離される事例が広域において発生する傾向がみられ、感染の拡大阻止にむけた原因究明が急務となっている(2007年に広域において見出された同一PFGEタイプを示す腸管出血性大腸菌O157について IASR 29: 119-120)。

上に示した図は2007年分離O157株、計1986株のPFGE解析で得られたデンドログラムと注目すべきPFGEタイプを示したものである。

中央やや右にグレーで示したPFGEタイプは宮城県で発生した集団事例で分離された菌株群を示している。ここで示した通り同一のPFGE型を示す菌株が多数になれば、デンドログラムが白く抜けたように見える。注目すべきは、赤で示した散発例由来株が、あたかも集団事例のようなクラスターを形成することがある。PFGE解析では、一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例(diffuse outbreak)はこのような形で浮き彫りになる。時に、この中に集団事例株が含まれるPFGE型も存在する (PFGE type no. c47)。

2007年にPFGE type no. c47は、22都府県から119株が分離された。さらに詳細な解析からは、119株中114株については遺伝子構成が極めて類似し、関連性が高いことが示唆された。TN c47を示す株が分離された事例として、首都圏の大学での集団発生事例(図中左側グレー部分)(学生食堂で発生した腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒事例-東京都, IASR 29; 120-121)があり、その他の散発事例では、焼肉、生レバー等の食肉が原因食品として疑われた事例が複数確認されていた。しかしながら、汚染原因を確定するには至らなかった。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan