Novel endogenous simian retroviral integrations in Vero cells: implications for quality control of a human vaccine cell substrate.
Sakuma C, Sekizuka T, Kuroda M, Kasai F, Saito K, Ikeda M, Yamaji T, Osada N, and Hanada, K.
Scientific Reports, 8, 644, 2018
アフリカミドリザル(AGM)腎臓から樹立されたVero細胞は、多様なウイルスの増殖性がよく、ウイルス研究はもとより、ウイルスワクチン生産にも世界的に汎用されています。感染研の細胞化学部と病原体ゲノム解析研究センターは、(独)医薬基盤研及び北大との共同研究により、比較的初期に日本で保存されたVero細胞株(JCRB 0111株)のゲノム配列を解読し、そのゲノム構造の特徴を明らかにしていました(Osada et al, 2014, DNA Research)。この度、私たちは、継代履歴の異なる二つのVero細胞株(ATCC CCL-81株及びVero 76株)の全ゲノム配列をも解読し、Vero JCRB 0111株及びAGM個体の参照ゲノム配列と比較しつつ、内在性サル・D型レトロウイルス(SERV)の配列多様性を解析しました。
その結果、
- Vero細胞ゲノムのDNAメチル化を阻害するとSERV配列は顕著に転写誘導されること
- Vero細胞ゲノム中の約80か所にSERV配列が挿入されており、その位置は三株間で一致すること、また、AGM参照ゲノム中にも挿入部位が26か所あること
- Vero細胞ゲノムからPCRで増幅できた12個のSERV配列を決定したところ、それぞれの配列は三株間で100%同一であり、その中には完全長のSERV配列も存在していること
などが明らかになりました。これらの結果は、Vero細胞が有するSERVの転移(retrotransposition)は適切な細胞培養をしている限り起こらないことを示唆するとともに、動物培養細胞を用いて生産する生物医薬(特に生ワクチンなどウイルス除去や不活化の工程を設定できない製品)では、内在性レトロウイルスの製品への混在を管理すべきことも示唆しています。