Nakamura-Hoshi M, Nomura T, Nishizawa M, Hau TTT, Yamamoto H, Okazaki M, Ishii H, Yonemitsu K, Suzaki Y, Ami Y, Matano T
Microbiol. Spectr., 11, e0151823, 2023
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は慢性潜伏感染を引き起こす。潜伏感染者体内でプロウイルスは検出されるが、ウイルス複製・増殖は認められない。本研究ではHTLV-1感染カニクイザルモデルを構築し、慢性感染下でのモノクローナル抗CD8抗体投与によるCD8陽性細胞枯渇実験でプロウイルス量と抗HTLV-1抗体価の上昇が起きることを明らかにした。本結果はCD8陽性細胞非存在下で潜伏感染状態からHTLV-1増殖が可能であることを示しており、HTLV-1複製・増殖抑制にCD8陽性細胞が中心的役割を担っていることを示すevidenceを提供するものである。
続きを読む: HTLV-1潜伏感染カニクイザルにおけるモノクローナル抗CD8抗体投与によるCD8陽性細胞枯渇によるHTLV-1増殖
Akazawa Da, Ohashi Ha, Hishiki Tb, Morita Tb, Iwanami Sc, Kim KSc, Jeong YDc, Park ES, Kataoka M, Shionoya K, Mifune J, Tsuchimoto K, Ojima S, Azam AH, Nakajima S, Park H, Yoshikawa T, Shimojima M, Kiga K, Iwami S, Maeda K, Suzuki T, Ebihara H, Takahashi Y, Watashi K (abcequally contributed)
The Journal of Infectious Diseases
Mar 9 (2023) Online ahead of print
doi: 10.1093/infdis/jiad058
2022年5月に国際的アウトブレイクが発生したエムポックスに対しては、国内で承認された治療薬が存在しない。本研究では抗ウイルス・抗真菌・抗寄生虫/原虫薬を含む132種の既承認薬のエムポックスウイルスへの効果を感染細胞系で検証し、経口投与可能な高活性化合物3種を見出した。メフロキンはウイルスの細胞侵入を、アトバコンおよびモルヌピラビルはウイルス複製を阻害すると考えられた。これらの抗ウイルス活性と、既知の臨床薬物動態、感染患者の血中ウイルス量情報を基にした数理モデル解析より、特にアトバコンが最も臨床で抗ウイルス効果が期待できると推定された。アトバコンは核酸生合成酵素であるDHODHの活性を阻害することで抗ウイルス活性を示すと示唆された。本研究成果はエムポックス治療薬創出に有用な知見を提供するものである。
Hishiki T#, Morita T#, Akazawa D$, Ohashi H$, Park ES, Kataoka M, Mifune J, Shionoya K, Tsuchimoto K, Ojima S, Azam AH, Nakajima S, Kawahara M, Yoshikawa T, Shimojima M, Kiga K, Maeda K, Suzuki T, Ebihara H, Takahashi Y, Watashi K (#$equally contributed)
Microbiology Spectrum (in press)
doi: 10.1128/spectrum.00566-23.
エムポックスウイルス(MPXV)感染細胞実験でのスクリーニングから、Gemcitabine、Trifluridine、Mycophenolic acidなどの化合物が抗MPXV活性を有することが明らかとなった。Mycophenolic acidが阻害するのはMPXVの細胞侵入後の過程であり、その標的分子の一つであるIMP dehydrogenase(IMPDH)およびこれが制御するプリン生合成経路がMPXV複製に必要であることを見出した。IMPDHを阻害する化合物はいずれも抗MPXV活性を示し、その中にはMycophenolic acidよりも明らかに強い抗ウイルス活性をもつものが見出されたことより、今後IMPDHは抗MPXV薬開発の有効な創薬標的となる可能性が示唆された。
Kazuhiro Kitakawa , Kouichi Kitamura , Hiromu Yoshida
Applied and Environmental Microbiology, 89, e01853-22, 2023
https://doi.org/10.1128/aem.01853-22
世界ポリオ根絶計画の一環として、下水等からウイルスを検出するポリオ環境水サーベイランスが国内外で実施されています。ポリオが根絶されている日本ではポリオウイルス以外のエンテロウイルスが毎年検出されてきました。このサーベイランスシステムを活用し下水中新型コロナウイルスRNAの検出も行った結果、(1) COVID-19パンデミック後のエンテロウイルス関連疾患の減少と同時期に下水中エンテロウイルスの検出頻度も大きく減少し、(2) 下水中新型コロナウイルスRNA量と地域のCOVID-19新規陽性者数との間に相関が見られ、既存のポリオ環境水サーベイランスシステムが下水中エンテロウイルス及び新型コロナウイルスの監視に活用しうることが示されました。
本研究は、厚労省科研費、AMEDの研究支援を受け実施しました。
Kyoko Saito, Kentaro Shimasaki, Masayoshi Fukasawa, Ryosuke Suzuki, Yuko Okemoto-Nakamura, Kaoru Katoh, Tomohiko Takasaki, Kentaro Hanada
Virus Research Volume 322, December 2022, 198935.
https://doi.org/10.1016/j.virusres.2022.198935
黄熱は、黄熱ウイルス(YFV)が引き起こす蚊媒介性感染症で、有効なワクチンがありますが、特異的な治療薬はありません。私達は、YFV(17D株)のゲノムRNA上の構造遺伝子を蛍光タンパク質の遺伝子に置換したレプリコンを作製してサル腎由来Vero 細胞に導入し、レプリコンが持続的に複製される‘レプリコン細胞’を樹立しました。この細胞では、蛍光強度でレプリコン複製の度合を知ることが可能で、実際に、YFV増殖を阻害する薬剤によって、レプリコン細胞の蛍光が低下することが確認されました。また、レプリコン細胞とYFV感染細胞における複製タンパク質および複製中間体・二本鎖RNAの分布は類似していました。以上の結果は、レプリコン複製が感染細胞のゲノム複製を模倣していることを示しており、レプリコン細胞は抗YFV薬や宿主因子の探索に有用であると考えられました。
本研究はJSPS、AMED等の支援を受け、感染研・産総研・神奈川衛研が行いました。
Shiota T, Matsuda M, Zheng X, Nagata N, Ishii K, Suzuki R, Muramatsu M, Takimoto K, Hanaki K, Lemon SM, McGivern DR, Hirai-Yuki A
J Virol. 2022 Nov 10 https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01496-22
A型肝炎は世界で年間140万人の患者が発生し、2016年には7千人が死亡した重大な疾病です。典型的な急性ウイルス性肝炎で、多くは一過性で終りますが、一部の患者で糞便中へのウイルス排出の再開を伴う再燃が報告されています。肝臓からのA型肝炎ウイルス(HAV)排除機構はわかっていません。国立感染症研究所とノースカロライナ大学の共同研究で、HAV感染マウスでは肝炎と糞便中へのウイルス排出の終息後も肝臓ではウイルスRNAが長期間複製し続け、この時期のウイルスの制御にはマクロファージが必須であることが明らかになりました。この新しい知見は肝炎ウイルスが肝臓から最終的に排除される仕組みの解明に貢献するものです。
本研究は、日本医療研究開発機構、米国国立衛生研究所、日米医学協力計画の支援を受けて実施されました。
続きを読む: インターフェロン受容体欠損(Ifnar1-/-)マウスにおいて急性A型肝炎の終息後にマクロファージを欠乏させると、糞便中へのウイルス排出が再開する