富山市集団食中毒の原因食品からの原因物質調査
(IASR Vol. 43 p235-236: 2022年10月号)
2021(令和3)年6月17日に, 富山県富山市内の小・中学校, 保育所等にて消化器症状を呈する多数の児童・生徒の発生が富山市保健所へ報告された。当該保健所は, 患者の共通食が学校等ごとの給食のみであること, 学校等ごとの給食における共通食はT乳業が製造した牛乳であること, 他の施設で製造された牛乳を飲んでいる学校では有症者がいないことから, 食中毒の原因はT乳業が製造した牛乳であるとし1), 探知後速やかに牛乳からの原因物質調査協力を国立医薬品食品衛生研究所に依頼した。本稿では, 牛乳からの原因物質調査の概要を報告する。なお, 富山市保健所での患者等便検体や牛乳等の行政検査結果1)および国立感染症研究所実地疫学研究センターの疫学的解析2)(本号16ページ参照)が報告されている。
食中毒の発生した学校等で保管されていた検食の牛乳〔食中毒発生に関与していない6月14日提供の牛乳(6月11日製造)および食中毒発生に関与する6月15日提供の牛乳(6月14日製造)ならびに6月16日提供の牛乳(6月15日製造)の各2検体〕について, 食中毒の原因となる毒素や細菌の調査を行った。まず, 毒素型食中毒の原因となるブドウ球菌エンテロトキシン, セレウス菌エンテロトキシン, ウエルシュ菌エンテロトキシンおよびセレウス嘔吐毒(セレウリド)について, 市販のキットや機器分析によって検査したところ, いずれも全検体で陰性であった。また, 黄色ブドウ球菌とセレウス菌については分離を試み, セレウリド産生性のセレウス菌が全検体から分離されたが, 食中毒発生に関与していないと考えられた牛乳からも分離されたため, 食中毒との関連性は低いと考えられた。次いで, 感染型食中毒については, 患者が腹痛, 下痢, 嘔吐, 発熱等の症状を呈しているとの情報からサルモネラ属菌, リステリア属菌, Escherichia albertii, 病原大腸菌等の食中毒細菌の可能性を考え, 同検体について検査したところ, サルモネラ属菌, リステリア属菌およびE. albertiiは全検体で陰性であったが, 食中毒発生に関与する提供日15日および16日の牛乳から多数の大腸菌が検出された。それら大腸菌のO抗原については血清型別不能(OUT)であったが, O抗原の遺伝子型別O-genotyping3)ではOgGp9に該当することが判明した。OgGp9にはO血清群O17, O44, O73, O77およびO106が該当するが, 血清型別試験では特定されなかった。H抗原は, 血清型別およびH-genotyping4)によってH18であることが判明した。また, 検体採取を行った患者64名中61名, および従業員6名中2名では, DHLおよびSS寒天培地上の優勢な大腸菌としてOUT(OgGp9):H18が分離された。さらに, ゲノムの一塩基多型(SNP)解析の結果, 牛乳由来株と患者由来株は同一クローンであると判断された。これら細菌学的検査の結果に加え, 食中毒発生に関与する提供日の牛乳の摂取, 腹痛と下痢を主訴とする症状2)および潜伏期間から, 本大腸菌が原因物質である可能性が考えられた。
続いて, 牛乳の大腸菌OUT(OgGp9):H18の汚染状況について調査した。定性試験では, 牛乳検体を9倍量のmEC培地またはセフィキシム・亜テルル酸加mEC培地に加えて, 42℃にて約22時間培養し, 培養液をDHL寒天培地またはクロモアガーSTECに画線し37℃にて約22時間培養し, 大腸菌と思われるコロニーを釣菌してO-genotypingおよびH血清型別を行った。その結果, 食中毒発生に関与していない6月14日提供の牛乳(6月11日製造)では, 9カ所の学校等からの検食12本から大腸菌OUT(OgGp9):H18は分離されなかった。食中毒発生に関与する6月15日提供の牛乳(6月14日製造)では10カ所の学校等からの検食13本のうち7カ所の学校等からの7本から, また, 6月16日提供の牛乳(6月15日製造)では11カ所の学校等からの検食14本のうち10カ所の学校等からの13本から大腸菌OUT(OgGp9):H18が分離された。さらに, 6月17日提供予定であった牛乳(6月16日製造)では, 3カ所の学校等からの検食8本のうち2カ所の学校等からの2本からも大腸菌OUT(OgGp9):H18が分離された。限られた検体での調査ではあるが, これらのことから6月14日製造品に本大腸菌の汚染が発生したことが判明し, その汚染率は約54%であった。また, 翌日製造品では汚染率が約93%であり, 前日よりも汚染率が高い結果であった。さらに, その翌日の製造品でも25%の汚染が認められ, 継続的な汚染の原因として製造ラインの清浄化の不足や衛生的作業の不足等の可能性が考えられた。なお, 汚染要因の推察および再発防止策については, 工場内の立ち入り調査に基づいて提言を行った1,2)。
牛乳中の大腸菌OUT(OgGp9):H18の定量試験では, 定性試験に供試した牛乳検体のうち本大腸菌が分離された一部検体を供試して実施した。最確数(MPN)法(3管法)にて定性試験での培養条件と同様に実施した。その結果, 6月15日提供の牛乳(6カ所の学校等からの検食6本), 6月16日提供の牛乳(5カ所の学校等からの検食5本)および6月17日提供予定であった牛乳(検食1本)での本大腸菌の定量値は, それぞれ平均8.4MPN/100mL, 平均7.4MPN/100mLおよび9.2MPN/100mLであった。給食に提供された牛乳パックの容量が200mLであることから, 1人当たりの本大腸菌摂取菌数は約15-18であることが推測された。しかし, 検食保管中の冷凍による大腸菌OUT(OgGp9):H18の死滅や凍結損傷による菌数減少の影響も考えられ, 本大腸菌の耐凍性等の性状については解析中である。また, 本大腸菌の病原性については, 厚生労働科学研究事業(食品の安全確保推進研究事業)にて富山市保健所, 国立感染症研究所細菌第一部, 富山県衛生研究所とともに研究が継続されている。
謝辞:調査に際し, ご教示いただきました一般社団法人日本乳業協会の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 水上克己ら, 食品衛生研究 72(6): 15-22, 2022
- 八幡裕一郎ら, IASR 43: 236-238, 2022
- Iguchi A, et al., J Clin Microbiol 53(8): 2427-2432, 2015
- Banjo M, et al., J Clin Microbiol 56(6): e00190-18, 2018