国立感染症研究所

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インフルエンザ抗体保有状況 -2012年速報第1報- (2012年12月7日現在)

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は,毎年,インフルエンザの本格的な流行が始まる前に,インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し,抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の注意喚起ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的として実施している。
 現在使われているインフルエンザワクチンは,A(H1N1)亜型,A(H3N2)亜型,B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスがワクチン株として用いられているが,インフルエンザ感受性調査では,これら3つのワクチン株に加え,ワクチンに用いられなかった別系統のB型インフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行っている。
 本速報では,2012年度の調査によるインフルエンザに対する年齢群別抗体保有状況および前年度調査との比較(第2報以降)について掲載する。

1. 調査対象および方法
 2012年度の調査は,25都道府県から各198名,合計4,950名を対象として実施された。
 インフルエンザウイルスに対する抗体の有無および抗体価の測定は,対象者から採取された血液(血清)を用いて,調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により実施された。採血時期は原則として2012年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また,HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり,このうちa)~c)は2012/13シーズンのインフルエンザワクチンに用いられているウイルス,d)はワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが,抗体保有状況の把握が必要と考えられるウイルスである。
a) A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
b) A/Victoria(ビクトリア)/361/2011 [A(H3N2)亜型]
c) B/Wisconsin(ウィスコンシン)/1/2010 [B型(山形系統)]
d) B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]

2. 調査結果
 2012年12月7日現在,北海道,山形県,福島県,栃木県,千葉県,東京都,神奈川県,新潟県,富山県,石川県,福井県,山梨県,長野県,三重県,山口県,愛媛県,高知県,宮崎県の18都道府県から合計4,955名の対象者についての結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は,0-4歳群:619名,5-9歳群:393名,10-14歳群:409名,15-19歳群:369名,20-24歳群:412名,25-29歳群:445名,30-34歳群:409名,35-39歳群:405名,40-44歳群:371名,45-49歳群:304名,50-54歳群:265名,55-59歳群:212名,60-64歳群:175名,65-69歳群:80名,70歳以上群:87名であった。
 なお,本速報における抗体保有率とは,感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率を示し,抗体保有率が60%以上を「高い」,40%以上60%未満を「比較的高い」,25%以上40%未満を「中程度」,10%以上25%未満を「比較的低い」,5%以上10%未満を「低い」,5%未満を「きわめて低い」と表す。

1)年齢群別抗体保有状況
A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本ウイルスは2009年に世界的大流行(パンデミック)を起こしたインフルエンザウイルスである。2009/10シーズンは本ウイルスを用いた単価ワクチンが製造され,従来のインフルエンザワクチン(3価ワクチン)とは別に接種が行われたが,2010/11シーズン以降は3シーズン続けてワクチン株の1つとして選定されている。
 本ウイルスに対する抗体保有率は,0-4歳群および55歳以上の各年齢群で中程度の抗体保有率(26~36%)であったが,それ以外の年齢群は比較的高い~高い抗体保有率(45~81%)であった。中でも5~24歳の各年齢群は60%以上の抗体保有率(61~81%)であり,15-19歳群で最も高かった。全体の抗体保有率は53.1%であり,調査株中最も高かった。

A/Victoria(ビクトリア)/361/2011 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本ウイルスは2012/13シーズンのワクチン株の1つとして選定されたウイルスであり,2010/11~2011/12シーズンにワクチン株であったA/Victoria(ビクトリア)/210/2009から変更となった。
 本ウイルスに対する全体の抗体保有率は調査株中2番目に低い42.8%であった。年齢群別では5~44歳の各年齢群および70歳以上群は比較的高い抗体保有率(41~57%)であったが,それ以外の年齢群は中程度以下の抗体保有率(23~36%)であり,特に0-4歳群と65-69歳群は25%未満の抗体保有率(23%)であった。

B/Wisconsin(ウィスコンシン)/1/2010 [B型(山形系統)]:図2上段
 本ウイルスは2010年に分離されたB型インフルエンザウイルスであり,2012/13シーズンは4シーズンぶりに山形系統の本ウイルスがワクチン株の1つに選定された。
 本ウイルスに対する抗体保有率は,全体では35.0%と調査株中最も低く,年齢群別では20-24歳群をピークに15~34歳の各年齢群のみが40%以上の抗体保有率(42~70%)であった。それ以外の年齢群は中程度以下の抗体保有率(9~39%)を示し,中でも10歳未満および55歳以上の各年齢群は25%未満の抗体保有率(9~24%)であり,65-69歳群で最も低かった。

B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本ウイルスは2009/10~2011/12シーズンまで3シーズン連続してワクチン株に選ばれたウイルスであり,本年度調査におけるビクトリア系統の代表として用いた。
 本ウイルスに対する抗体保有率は,0-4歳群および60歳以上の各年齢群で中程度以下の抗体保有率(22~32%)であった。それ以外の年齢群で5~24歳および45~59歳の各年齢群は比較的高い抗体保有率(41~59%)であり,25~44歳の各年齢群は35-39歳群をピークに60%以上の抗体保有率(62~78%)であった。全体の抗体保有率は調査株中2番目に高い52.5%であった。

図1


図2

2)年齢群別抗体保有状況の前年度調査との比較
※第2報以降に掲載予定

コメント
 今シーズンは2012年12月7日現在,病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出速報によると,2012年第36~47週(9月3日~11月25日)の期間にA(H1)pdm09亜型が12件,A(H3)亜型が96件,B型が8件(ビクトリア系統:4件,山形系統:1件,系統不明:3件)の報告があり,現時点では主にA(H3)亜型が分離・検出されている1)。また,感染症発生動向調査によるインフルエンザ患者の定点あたり報告数は2012年第47週(11月19日~25日)の速報値で0.22であり2),全国的な流行の指標となる1.0に達していないが,本調査において抗体保有率が低かった年齢層においては,本格的な流行シーズンが始まる前にワクチン接種等の予防対策を行うことが望まれる。

1)病原微生物検出情報‐インフルエンザウイルス分離・検出速報 2012/13シーズン
  国立感染症研究所HP [http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html
2)感染症発生動向調査‐速報データ2012年第47週
  国立感染症研究所HP [http://www.niid.go.jp/niid/ja/data/2958-idwr-sokuho-data-j-1247.html

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