国立感染症研究所

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インフルエンザ 2016/17シーズン

(IASR Vol. 38 p.209-211: 2017年11月号)

2016/17シーズン(2016年第36週/9月~2017年第35週/8月)のインフルエンザは国内では2シーズンぶりにA/H3亜型が流行の主体で, B型は2系統が混合流行した。

患者発生状況:感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)からインフルエンザ患者数が毎週報告される。2016年第46週に全国レベルの流行開始の指標である定点当たり報告数1.0人/週を超え, 2017年第3週には47全都道府県で注意報レベルである10.0人/週を超えた。報告のピークは2017年第4週(39.4人)であった(図1およびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)。沖縄県では5シーズンぶりに夏季(2017年7月)にも10.0人/週を超えた週があった(本号18ページ)。

定点医療機関からの報告をもとに全国の医療機関を受診したインフルエンザ患者数を推計すると, 2016/17シーズンの推計受診者数の累積は約1,696万人であった〔2016年第36週(9/5~)~2017年第20週(~5/21)〕。基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)からのインフルエンザ入院サーベイランスでは, 2016/17シーズンの入院患者総数は15,405人(2016年第36週~2017年第20週)となり, 2015/16シーズン同時期までの12,275人と比較して約1.25倍であった。全数把握の5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)の届出のうち, 病原体にインフルエンザウイルスの記載があった患者(インフルエンザ脳症)の報告数は, 117人(2017年5月15日現在暫定数)で, 2015/16シーズン(224人)の約半数であった。インフルエンザ関連死亡 等については「今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン)」(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf)を参照。

ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所が2016/17シーズンに分離・検出したインフルエンザウイルスの報告総数は9,578(分離6,804, 検出のみ2,774)であった(表1)。うち, インフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は8,514, 同定点以外の検体からの分離・検出数は1,064であった(表2)。型・亜型別ではA/H3が78%, B型が18%(山形系統44%, Victoria系統56%), A/H1pdm09が4%であった(表2)。A/H3は2016年第42週から増加し, 2017年第3週にピークに達した。B型は2017年第3週から増加し, 第14週以降A型を上回った(図1図2)。分離・検出例のうち, どの年齢群においてもA/H3はA/H1pdm09, B型より検出割合が高かった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/1974-idsc/iasr-flu/7646-influ201617.html)。

2016/17シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析:国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号4ぺージ)。A/H1pdm09は, 解析株のほぼすべてが遺伝子系統樹上クレード6B.1に属し, 抗原性解析したほぼすべての株がA/California/7/2009(2016/17シーズンワクチン株)類似株であった。しかし, ワクチン接種したヒト血清を用いると, 最近の流行株はクレード6B.1の代表株であるA/Michigan/45/2015に抗原性がより類似しており, ワクチン株との抗原性の違いが示唆された。A/H3は, 解析株すべてが遺伝子系統樹上クレード3C.2aに属し, うち約6割がサブクレード3C.2a1に属した。抗原性解析では, 解析した株の5~6割がA/Hong Kong/4801/2014(2016/17シーズンワクチン元株)と抗原性が類似していた。B/山形系統株は, すべてクレード3に属し, B/Phuket/3073/2013(2016/17シーズンワクチン株)類似株が大半であった。B/Victoria系統株は, すべてがクレード1Aに属し, 抗原性解析したほとんどの株がB/Texas/2/2013(2016/17シーズンワクチン株)類似株であった。一方, 米国を中心に海外ではHA蛋白のアミノ酸欠損をもつB/Victoria系統変異株が検出されていることから, 国内においても, これら変異株の出現に注視する必要がある(本号4ページ)。

2016/17シーズン分離ウイルスの薬剤耐性:国内分離A/H1pdm09 238株のうち, オセルタミビル・ペラミビル耐性株3株が検出された。A/H3は解析した国内分離478株すべてがオセルタミビル・ペラミビル・ザナミビル・ラニナミビルに感受性であった。B型は, 解析した国内分離360株すべてが上記4薬剤に対して感受性であった(本号4ページ)。

抗体保有状況:2013年4月1日からは予防接種法に基づき, 免疫の獲得状況に関する調査が行われている(本号13ページ)。2016/17シーズン前の2016年7~9月採血の血清(5,883検体)が用いられた。抗体保有率(HI価≧1:40)はそれぞれ, A/California/7/2009[A(H1N1)pdm09]に対しては5~29歳が78~90%で他年齢群より高く, A/Hong Kong/4801/2014[A(H3N2)]に対しては5~19歳が65~73%で他年齢群より高く, B/Phuket/3073/2013(B/山形系統)に対しては20代が63~64%で他年齢群より高かった。B/Texas/2/2013(B/Victoria系統)に対する抗体保有率は全年齢群で40%未満であった。

インフルエンザワクチン:2016/17シーズンはA型2亜型とB型の2系統による4価ワクチンとして約2,784万本(1mL換算, 以下同様)が製造, 約2,642万本(推計値)が使用された。

2017/18シーズンワクチン株は, A/H1はA/Michigan/45/2015類似株で, 製造効率が優れるA/Singapore/GP1908/2015(IVR-180)が選定された。A/H3は昨年度のワクチン株A/Hong Kong/4801/2014(X-263)が継続して選定された。B型は2016/17シーズンに引き続きB/山形系統はB/Phuket/3073/2013が, B/Victoria系統はB/Texas/2/2013が選定された(本号17ページ)。

インフルエンザワクチンの有効性に関しては, test-negative designを用いた多施設共同症例・対照研究が行われ, 6歳未満児でのインフルエンザワクチン2回接種は, 2013/14~2015/16の3シーズンいずれでも有意な発病予防効果が示されている(本号15ページ)。

鳥・ブタインフルエンザのヒト感染例:家禽に対する高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例が2003年以降16カ国で860例(うち455例死亡)確認され, 2014年以降中国ではA(H5N6)ウイルスによる14例の報告がある(2017年9月27日現在)。一方, 2013年から低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例も中国から多数報告され, 2016年10月~2017年9月(第5波)では最大規模の764例(うち288例死亡)となり, 現在までの感染者総数は1,562例(うち608例死亡)となっている(2017年9月13日現在)。この第5波では, 家禽に対して高病原性に変異したA(H7N9)ウイルスも出現し, ヒト感染例も初めて確認された。鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例も中国やエジプトで報告されている。

ブタインフルエンザウイルスによるヒト感染例は, 米国における農業フェア等での曝露によるA(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vウイルスが報告されている(本号10ページ)。

おわりに:患者発生動向, 通年的なウイルス分離, 流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析, 耐性ウイルス出現, 国民の抗体保有率等の包括的な監視が今後のインフルエンザ対策に引き続き重要である。

2017/18シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報は, 本号19ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。

注)IASRのインフルエンザウイルス型, 亜型, 株名の記載方法は, 赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と, さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものである。
 ・N型別まで実施されている場合:A(H1N1)pdm09, A(H3N2), A(H5N1)など
 ・N型別未実施のものが含まれる場合:A/H1pdm09, A/H3など
 ・株名については, 主に国内の地名は漢字, 国外は英語表記(例:B/山形系統, B/Victoria系統など)
 ・ヒト感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために, variant virusesと総称し, 亜型の後に “v” を表記:A(H3N2)vなど

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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