国立感染症研究所

我が国における死因別の超過および過少死亡数(2020年11月までのデータ分析)

掲載日:2021年5月18日

※結果をご覧いただく際の注意事項

現在、2021年1月までのすべての死因を含む超過および過少死亡数を別ページにて報告をしています。超過および過少死亡数は「過去のデータをもとに統計モデルから予測された死亡数」と「実際に観測された死亡数」の差として計算されます。すべての死因を含む場合、観察された超過死亡数は新型コロナウイルス感染症を直接の原因とする死亡の総和だけではなく、感染症の流行に伴う外出の抑制などの生活習慣の変化等に伴う持病の悪化による死亡といった間接的な影響による死亡も含まれています。

そこで、新型コロナウイルス感染症の間接的な死亡影響を評価することを目的とし、2020年11月までの死因別の超過死亡数、及び死因別の過少死亡数の算出結果も報告します。過少死亡数を算出することで、新型コロナウイルス対策等、例年以上の感染症対策や健康管理の実施による健康への正の影響の評価に役立ちます。我が国の主要な死亡原因を含む、次の6疾患分類を対象としています(対象疾患は今後拡大し、詳細分類も評価する予定です)。

  1. 全ての死因の死亡のうち、新型コロナウイルス感染症による死亡を除いた死亡
  2. 呼吸器系の疾患による死亡
  3. 循環器系の疾患による死亡
  4. 悪性新生物(がん)による死亡
  5. 老衰による死亡
  6. 自殺による死亡

(1)は新型コロナウイルス感染症を原死因とする死亡を除くことで、他の死因が原因である超過および過少死亡数が得られます。これにより、新型コロナウイルス感染症の間接的な死亡影響の全体像についての洞察が得られます。(2)〜(5)は2019年の我が国の死亡数を死因順位別にみたときの上位5疾患が属する国際統計分類(ICD-10)です。(6)は既に超過死亡を示唆する先行研究があり、重要な死因として分析対象に加えました。(2)〜(6)を用いた解析は新型コロナウイルス感染症の間接的な死亡影響を個別に把握することを目的としています。

本報告は、日本国内での新型コロナウイルスの影響に関しての「データに基づく開かれた議論」に貢献することを主眼としています。開かれた議論の担保のため、データおよび解析用のプログラムコードは全て公開されています(補足資料)。統計モデルとデータ解析の説明については、すべての死因を含む超過および過少死亡数の報告における解説およびQ&Aもご参照ください。

加えて、超過および過少死亡は新型コロナウイルス感染症以外の感染症(例えばインフルエンザ)や気温の変化、災害、あるいはその他の偶発的な要因によっても生じます。実際に、新型コロナウイルス流行期以前(2019年以前)にも散発的な超過や過少死亡が見られています。これらの流行期以前の超過死亡数は「もし新型コロナウイルス流行が無かった場合」の超過死亡数の規模についての参照となりうるものと考えられますので、過去との比較目的で、本分析では最近2017年以降の毎年毎月の超過および過少死亡数も報告しています。

要約

2012年–2020年の人口動態統計データを用いて、日本における新型コロナウイルス感染症流行期における2020年1月から11月29日における死因別の超過および過少死亡数を、週別、都道府県別に算出しました。米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズムを用いて算出しています。流行期(2020年1–11月)、および過去3年の同じ期間中の全国の超過死亡数は次の表1の通りです。表のレンジは、「95%片側予測区間(上限・下限)と観測死亡数の差分」〜「予測死亡数の点推定と観測死亡数の差分」を指します。

2020年11月までのデータに限られますが、2020年1月以降(1)〜(5)それぞれにおいて超過死亡が認められた週はありましたが、その規模および期間中の積算値は、過去と同程度であることがわかりました。上記注意事項で記載のとおり、超過死亡は新型コロナウイルス感染症以外の感染症(例えばインフルエンザ)や気温の変化、災害、あるいはその他の偶発的な要因によっても生じます。「2020年1月以降の超過死亡数」が、「新型コロナウイルス流行の無い過去3年間での同時期における超過死亡数」と同程度の規模であることは、少なくとも2020年11月時点では、新型コロナウイルス感染症の間接的な死亡影響は全体としても、(2)〜(5)で評価した個別の疾患分類においても、顕著ではなかった可能性を示唆しています。一方で、(6)自殺については、例年以上の超過死亡数が認められ、特に9月以降にその傾向が顕著にみられました。

一方で過少死亡数については、 (1)において2020年に例年以上の過少死亡数が認められており、新型コロナウイルス対策等で例年以上の感染症対策や健康管理が行われている状況の中、それらの健康への正の影響が考えられます(ただし、季節性インフルエンザの流行規模や気候要因等の偶然的要因による死亡数減少も含まれる可能性には注意が必要です)。死因別にみると、(4)悪性新生物、(5)老衰、(6)自殺においては、2020年は過去3年間と同程度の過少死亡数であったのに対し、(2)呼吸器の疾患に関しては、例年以上の過少死亡数が認められました。特に、2020年1–3月においてその傾向が顕著でした。また、同様の傾向は(3)循環器系の疾患においても見られました。

表1:2020年1–11月(2019年12月30日から2020年11月29日)の、全国の死因別の超過および過少死亡数。過去についてはそれぞれ2018年12月31日から2019年12月1日(2019年)、2018年1月1日から2018年12月2日(2018年)、2017年1月2日から2017年12月3日(2017年)。 (都道府県別の結果は以下「結果」表2をご参照ください。)

1. 超過および過少死亡積算法

本稿における死因別(死亡診断書の記載に基づく原死因)の新型コロナウイルス感染症流行期における超過および過少死亡数は、「過去のデータをもとに統計モデルから予測された死亡数」と「実際に観測された死亡数」の差として定義されます。より具体的には、特定の集団における2020年1月以降(感染研疫学週における2020年第1週[2019年12月30日–2020年1月5日]から第48週[2020年11月23日–29日]まで)に、例年の死亡数をもとに推定される死亡数(予測死亡数の点推定)[閾値1]およびその95%片側予測区間(上限・下限)[閾値2]と実際の死亡数(観測死亡数)との差として算出され、点推定に基づく算出値と95%片側区間に基づく算出値のレンジとして提示されています。

例えば、例年の死亡数をもとにした死亡数の推定結果が「点推定値100人、95%片側予測区間(上限)125人」であったとき、実際の死亡数が「130人」であれば、超過死亡数のレンジは「5-30人」と提示されます(尚、実際の死亡数が点推定値を下回る場合には超過死亡数は0人とされます)。また、推定結果が「点推定値155人、95%片側予測区間(下限)140人」であったとき、実際の死亡数が「130人」であれば、過少死亡数のレンジは「10-25人」と提示されます(実際の死亡数が点推定値を上回る場合には過少死亡数は0人とされます)。

推定方法には米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズムを用いました。分析には2012年から2018年の人口動態統計の数値を利用しました。今回の報告では2020年11月分までのデータを利用しています。詳細の方法論および速報データの補正に関しては、すべての死因を含む超過死亡数の報告における解説を参照ください。アルゴリズムのRコードを補足資料1として掲載します。

今月の報告は日本の主要な死亡原因、さらに先行研究で超過死亡が指摘されている自殺による死亡を含む、次の6疾患を対象としています。(1)は間接的な影響の全体像を把握することを目的とし、(2)〜(6)はそれぞれの死因への影響を個別に把握することを目的としております。英数字は死因の国際統計分類第 10 版(ICD-10)における対応です。推定に使用したデータは補足資料2として掲載します。

  1. 全ての死因の死亡のうち、新型コロナウイルス感染症による死亡(U07.1)を除いた死亡
  2. 呼吸器系の疾患による死亡(J00-J99, R09.2, U04)
  3. 循環器系の疾患による死亡(I00-I99)
  4. 悪性新生物(がん)による死亡(C00–C97)
  5. 老衰による死亡(R54)
  6. 自殺による死亡(X60-X84)

2. 結果

新型コロナウイルス感染症流行期(2020年1–11月)、および過去の同じ期間中の全国および47都道府県の毎週の超過および過少死亡数の積算値は表2の通りです。表のレンジは、「95%片側予測区間(上限・下限)と観測死亡数の差分」〜「予測死亡数の点推定と観測死亡数の差分」を指します。過去を含む月別の超過死亡数は補足資料3を参照下さい。

表2:2020年1–9月(2019年12月30日から2020年11月29日)の、都道府県別の死因別の超過および過少死亡数。過去についてはそれぞれ2018年12月31日から2019年12月1日(2019年)、2018年1月1日から2018年12月2日(2018年)、2017年1月2日から2017年12月3日(2017年)。

週別の超過および過少死亡数は図1–6を参照下さい。

図1-6: 2017年からの都道府県別・全国の週別の超過および過少死亡数(図1:新型コロナウイルス感染症以外の死亡図2:呼吸器系の疾患による死亡図3:循環器系の疾患による死亡図4:悪性新生物(がん)による死亡図5:老衰による死亡図6:自殺による死亡)。黒折線=予測死亡数の点推定;緑折線=その95%片側予測区間(上限);赤折線=その95%片側予測区間(下限);青棒グラフ=観測死亡数。十字は観測死亡数>95%片側予測区間(上限)あるいは<95%片側予測区間(下限)の値のフラグ

図の実測値は、補足資料3を参照下さい。表1・2の期間中の全国の積算超過および過少死亡数と、図1–6の全国の期間中の超過および過少死亡数の積算値は一致しません:前者は47都道府県別の超過および過少死亡数の積算を全国の超過および過少死亡数としているのに対し、後者は47都道府県別の観測死亡数、予測死亡数の点推定、その95%片側予測区間を毎週ごとに積算した上で、超過および過少死亡数の算出をしているためです。

3. 補足資料

4. 研究班構成員

「新型コロナウイルス感染症等の感染症サーベイランス体制の抜本的拡充に向けた人材育成と感染症疫学的手法の開発研究」(厚生労働科学研究令和2年度)

国立感染症研究所 感染症疫学センター 鈴木 基
国立感染症研究所 感染症疫学センター 砂川 富正
国立感染症研究所 感染症疫学センター 高橋 琢理
国立感染症研究所 感染症疫学センター 土橋 酉紀
国立感染症研究所 感染症疫学センター 小林 祐介
国立感染症研究所 感染症疫学センター 有馬 雄三
国立感染症研究所 感染症疫学センター 加納 和彦
東京大学大学院 医学系研究科国際保健政策学 橋爪 真弘
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 野村 周平
聖路加国際大学大学院 公衆衛生学研究科 米岡 大輔
早稲田大学 ビジネスファイナンス研究センター 田上 悠太
東京工業大学 情報理工学院 川島 孝行
長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 Chris Fook Sheng Ng
千葉大学 予防医学センター 江口 哲史
国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 瓜生 真也
東京大学大学院 医学系研究科機能生物学専攻 史  蕭逸
理化学研究所 環境資源科学研究センター 河村 優美
株式会社ホクソエム 牧山 幸史
株式会社ホクソエム 松浦 健太郎
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 宮田 裕章
国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部 小野塚大介
東京大学大学院 医学系研究科国際環境保健学 Yoonhee Kim
国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 林  岳彦

過去の報告

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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