国立感染症研究所

研究内容

 寄生虫感染症に限らず、感染は病原体と宿主の相互関係によってその結果が決められます。通常、宿主の防御機構が働き、多くの病原体は感染もできない、あるいは感染しても一過性の症状を起こすだけで排除されます。病原体が強力な場合は、宿主を死に至らしめることもあります。したがって、感染症の全貌を明らかにするには病原体だけでなく宿主の応答も理解する必要があります。

 我が国を含め先進国では、寄生虫感染症はほとんど見られなくなりました。しかしながら、世界に目を向けると、世界人口の6割が寄生虫感染のリスクに晒されており、毎年50万人もの死者を出し続けています。寄生虫感染症が今もなお問題となっている理由として、死因の大部分を占めるマラリアを始め、寄生虫に対するワクチンが存在しないことが挙げられます。私たちの免疫がうまく機能していない、逆に言えば、マラリア原虫の免疫回避能力が巧妙であると言えます。

 一方で、寄生虫を排除した先進国では、アレルギーや自己免疫疾患などの炎症性疾患が増加の一途をたどっています。回虫、サナダムシなどの多くの蠕虫は腸管内に寄生し、大きなものでは数メートルにもなる腸管寄生蠕虫ですが、ほとんど症状を起こすこともありませんし、我々の免疫系も排除することなく、長期間に渡って我々の内部で生存します。腸管寄生蠕虫は進化的には我々よりも先に誕生し、人類の誕生後、常に我々に感染していたと想定されます。ところが、先進国ではここ50年ほどで腸管寄生蠕虫を排除し、人類で初めて寄生虫がいない状態となっています。寄生虫を排除しないのは、我々にもなんらかのメリットがあり、寄生虫がいなくなることでの不具合が生じることが十分に考えられます。それこそがアレルギー・自己免疫疾患の炎症性疾患の増加ではないかと考えています。言い換えると、腸管寄生蠕虫が不利益な免疫応答を制御していたと考えられます。

 部長室では、寄生虫感染時における宿主応答を主体として、様々な研究を展開しています。マラリアなど依然として我々の脅威となる感染症に対しては、宿主防御免疫の解明を通してワクチンの開発、病態形成メカニズムの解明を通して病態の緩和手段の開発、を最終目標として研究を進めています。腸管寄生蠕虫が不利益な免疫応答を抑えるメカニズムを寄生虫に学ぶことで、炎症性疾患に対する新たな治療法を開発も目標にしています。

 

 *主な研究課題*

✓原虫感染における宿主の病態・増悪化・防御機構の解明

✓蠕虫感染における宿主応答・免疫応答の解明

✓寄生虫感染における腸内細菌叢と病態の関連性

✓寄生虫感染の炎症性疾患抑制機構の解明

 

国立感染症研究所 寄生動物部 
部長  久枝 一

 

(最終更新2019.7.4)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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