クラスター対策班接触者追跡チームとしての実地疫学研究センター・FETPの活動報告(3)
(2021年12月31日時点)

2022年11月18日

国立感染症研究所 実地疫学研究センター

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース

 

■はじめに

 2020年1月、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確定症例が確認された。その後、主な新規変異株として、2020年12月にアルファ、2021年4月にデルタ、11月にオミクロンが国内で確認された。新規陽性者数は、従来株に始まり、出現した様々な新規変異株の感染拡大の状況や置き換わりの過程を経ながら増減を繰り返してきた。それらに対応するため、国は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの対策、2021年2月からの新型コロナワクチン接種を導入し、各自治体では、国の取り組みに並行して、流行状況に合わせた様々な取り組みと無数の現場対応が行ってきた。

 そのCOVID-19対策の1つとして、2020年2月25日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部にクラスター対策班が設置され、対応が続けられてきた。同班のうち接触者追跡チームは国立感染症研究所実地疫学研究センター*の職員、実地疫学専門家養成コース(FETP)研修員、FETP修了者を主体として構成され(以下、現地派遣チーム)、従来通り、原則として各都道府県の派遣要請に応じて現地において対策支援を行い、その後も必要に応じて遠隔支援を行ってきた。FETPとは感染症危機管理事例を迅速に探知し適切に対応する実地疫学専門家の養成コースである。1999年に設置され(https://www.niid.go.jp/niid/ja/fetp.html)、感染症法第十五条に基づく実地(現場)の積極的疫学調査の支援を行っている。また、新たな変異株が出現した際に、事例の特徴や整理を目的に実地調査をFETPから働きかけ、自治体とともに実施することもあった(深堀調査)。当該派遣においては、「感染症危機管理人材養成事業における実地疫学調査協力に関する実施要領(平成一二年二月一七日発)」に基づき守秘義務が課されており、要請機関の自治体の承諾なく、個人・施設や自治体を特定される疫学情報を外部に公表することはない。

 以下に、2020年2月1日~2021年12月31日の期間における現地派遣チームの活動概要を報告する。なお、これまで第1報(2020年5月20日)、第2報(2020年10月2日)を報告しており、本記事は第3報となる。

*2021年4月、国立感染症研究所内に実地疫学研究センターが設置された。これに伴い、旧感染症疫学センター第1室(感染症対策計画室)は、実地疫学研究センターに移動し、第一室(実地疫学研修室)、同第二室(実地疫学分析室)、同第三室(国際派遣室)が立ち上がった。

■活動実績

 2021年12月31日時点で現地派遣チームが関与した事例は計224事例であった。この時点までに派遣されたのは、国立感染症研究所の職員20名、FETP研修員23名、外部組織に所属する29名(FETP修了者も含む)の計72名であった。外部組織に所属する派遣者のうち11名はFETP修了生であった。また派遣先自治体等に所属するFETP修了生が共に活動した事例もあった。

 図1に2020年1月~2021年12月のSARS-CoV-2株別の現地派遣チームが関与した事例数の推移を示す。その際の時期的な目安について、厚生労働省による第6波までの分類に従い以下のように定義した(国内発生早期、特措法成立前の国内発生期:2020年1月28日~3月12日、第1波:2020年3月13日~6月13日、第2波:2020年6月14日~10月9日、第3波:2020年10月10日~2021年2月28日、第4波:2021年3月1日~6月20日、第5波:2021年6月21日~9月24日、第6波:2021年9月25以降)。全国における新規陽性者数との明らかな関係は認められなかった。FETPへの派遣要請は、新型コロナウイルス感染症の初期段階に(主には2020年中まで)集中しており、COVID-19流行の遷延とともに要請は減少していたことが分かる。多くの事例に対するクラスター対応として要請された3分の2ほどは医療機関や高齢者施設で発生した事例であり、FETPは疫学調査を主とし感染管理の面も加えて支援してきた。自治体からの支援の要請は、原則自治体のニーズに応じて行われることから、2021年に入っての急激な要請の減少は、初期の厳しい段階を経て、保健所を中心とした自治体における施設でのクラスター対応を行う体制が急速に強化されていったことを示唆する。

図1.現地派遣チームが関与した事例数(SARS-CoV-2株別)と全国における新規陽性者数の推移(224事例)

*全国における新規陽性者数:厚生労働省オープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html

■発生場所別の特徴

 図2に現地支援を行った事例について、発生場所別の事例数の推移を示す。主な発生場所を、医療施設、高齢者または福祉施設等、地域(保健所支援、地域におけるクラスターなど)、事業所、学校等(学校、保育所、こども園など)、接待を伴う飲食店、飲食店、娯楽施設(カラオケ、ジムなど)、運動競技、旅行関連に分類した。222事例が分類され、分類できなかった2事例はその他とした。一般的なSARS-CoV-2の感染拡大経路や拡大のリスクが判明していなかった第1波時点では、医療機関が41事例、高齢者・福祉施設が19事例と最も多かった。第2波及び第3波初期では、接待を伴う飲食店事例が多かったが、その後は徐々に医療機関や高齢者・福祉施設への支援数も減少、接待を伴う飲食店への支援はわずかとなった。第3波及び第4波は、地域を対象とした事例(変異株の特徴把握目的の調査や保健所支援など)が増加し、それぞれ第3波で7事例、第4波で10事例であった。第5波の9月は、医療機関事例が多く、これはワクチンのブレイクスルーを対象として行った調査(深堀調査)の増加を示す。

 第1報(2020年5月20日)、第2報(2020年10月2日)以降、様々な新規変異株の出現や新型コロナワクチン接種の開始等、経時的に状況は変化し続けてきた。引き続き、医療機関では、COVID-19が疑われていない場合の不十分な標準予防策、基本的な手指衛生の不徹底などが感染対策上の課題であり、高齢者・福祉施設等では、介護等で密接に接触する機会が多く、感染対策の厳守が難しいこと、基本的な感染対策の知識不足や指導体制不足などが課題であった。医療機関や高齢者・福祉施設等以外の事例においては、第1波~第3波では会食やマスクなしでの接触が感染原因としては多く、基本的な感染対策の不足による感染拡大が見られ、第4波以降では、それに加え、有症状者や濃厚接触者の不十分な隔離による感染拡大が示唆された。

 表1、表2にそれぞれ発生場所別、陽性者数規模別の派遣期間を示した。派遣期間は、発生場所別では明らかな違いは認めなかったが、陽性者数規模別では、陽性者数が1000人を超えると、派遣期間が長かった。派遣先では各自治体の要望に応じて、症例や濃厚接触者のデータベース作成、データのまとめ及び記述疫学、クラスターの発生要因や感染ルートの究明、市中感染の共通感染源推定等の疫学調査支援、医療機関や福祉施設等における感染管理対策への助言、他自治体や関係機関との連絡調整等を行った。

図2.現地派遣チームが関与した事例数の推移(発生場所別)(224事例)

表1. 現地派遣チームが関与した事例の派遣期間(発生場所別)(222事例)

*遠隔支援など、現地での活動がない事例を含む

表2. 現地派遣チームが関与した事例の派遣期間(陽性者数規模別)(224事例)

*遠隔支援など、現地での活動がない事例を含む

**保健所支援や正確な陽性者数が不明な事例を含む

■まとめ

 今回の現地派遣チームが関与した事例のまとめにより、現地支援はCOVID-19のような新しい感染症や変異株の出現時など、その感染症がどのような特徴や性質を有するか不明な段階で、自治体が対応に困難を来していた状況下で求められてきたことが明らかとなった。そのことは、情報の解釈のうえでも重大な注意点があることを示唆する。すなわち、本まとめは現地派遣チームによる現地支援に至った事例について列挙したものであり、得られた情報は、真の傾向や割合ではなく、自治体がやむを得ず協力を求めた規模が大きかったり、複雑であったりする事例の分析結果である。

 現地における対応の方針や枠組み、対応に従事している関係者を尊重・理解し、信頼関係を築いたうえで行うことが最も重要である。支援させて頂いた事例1つ1つが、自治体、事例が発生した施設等の関係者との信頼関係、協力がなければ調査を完遂できないものであった。この場を借りて関係者の皆様へ深謝したい。

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan