国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.34 No.2(No.396)

麻疹 2012年

(IASR Vol. 34 p. 21-23: 2013年2月号)

 

2012年は日本を含むWHO 西太平洋地域の麻疹排除目標年である(本号4ページ)。2012年にこの地域の排除達成の認定基準として「適切なサーベイランス制度の下、麻疹ウイルス土着株による感染が3年間確認されず、また遺伝子型解析によりそのことが示唆されること」が提案された。

感染症発生動向調査:麻疹は2008年1月から全数報告に変更された(IASR 29: 179-181, 2008 & 29: 189-190, 2008)。2012年(第1~52週)に届出された麻疹患者数は293(人口100万対2.32)で、2011年434(同3.58)の3分の2に減少した(図1)。検査診断例は216(修飾麻疹75を含む)、臨床診断例は77であった(2013年1月8日現在報告数)。

2012年の都道府県別報告数は(図2)、東京が84で最も多く、愛知39、埼玉32、神奈川29、千葉23と続き、東京、埼玉、神奈川、千葉の首都圏4都県で全体の57%を占めた。21県は報告0であり(うち12県は2年以上連続0)(本号17ページ)、32道府県が麻疹排除の指標(IASR 32: 34-36, 2011)である人口 100万対1を下回った(2011年19県)。

患者の性別は男158、女135で、年齢は1歳が29と最も多く、0歳16がこれに次ぐ。年齢群別割合でみると(図3参考)、2008年に43%を占めた10代は、2012年には13%に減少した。これに対して、20~30代の割合が増加し、2012年は成人が58%を占めた。

ワクチン接種歴は、未接種84、1回接種78、2回接種17、不明 114であった。0歳児は全員未接種、1歳児は未接種15、1回接種13、不明1で、20~30代は未接種22、1回接種35、2回接種3、不明72であった。

2012年の麻疹による学校休業報告は2件で、9月に宮崎県の集団発生事例で小学校と中学校の臨時休校措置が取られた(本号13ページ)。

麻疹ウイルス分離・検出状況:2006~2008年に国内流行したD5型は、2010年5月を最後に検出されておらず、2009年以降、海外で流行している遺伝子型のウイルスが検出されている(表1表2)。2012年にはD8型が45[愛知24(IASR 33:66, 2012)、宮崎8(本号13ページ)など]、D9型が10[岡山5(IASR 33: 166-167, 2012)など]、H1型が7[福島5(IASR 33: 242-244, 2012)など]、D4型が6報告された。

感染症流行予測調査(本号5ページ):WHO は、「麻疹排除達成にはすべての年齢コホートで95%以上の抗体保有率が必要」としている。日本ではゼラチン粒子凝集(PA)法で調査が実施されており、抗体陽性は1:16以上である。2012年度は初めて2歳以上の全年齢群で抗体保有率95%以上となり、ワクチン2回接種の効果が明らかとなった(図4)。しかし、1歳児では抗体保有率67%であり、第1期接種対象の12カ月になったら早期の接種が望まれる。一方、麻疹の発症予防には少なくとも1:128 以上が必要とされるが、0、1、4、5歳では15%以上が1:128 未満であった。

ワクチン接種率(本号8ページ):日本における定期予防接種では、2006年度から原則麻疹風疹混合ワクチンを用いて、第1期(1歳児)、第2期(小学校就学前の1年間)の2回接種を実施している(IASR 27: 85-86, 2006)。さらに1回しか接種機会の無かった世代に2回目の接種機会を提供するため、2008~2012年度の5年間に限り、第3期(中学1年相当年齢の者)あるいは第4期(高校3年相当年齢の者)に2回目の接種を行っている(IASR 29: 189-190, 2008)。

2011年度の麻疹含有ワクチン(M、MR)の全国接種率(第1期は2011年10月1日現在の1歳児の数、第2~4期は2011年4月1日現在の各期の接種対象年齢の者を母数とする)は第1、2、3、4期それぞれ95%(2010年度は96%)、93%(同92%)、88%(同87%)、81%(同79%)で、第1期は目標の95%以上を2年連続で達成した。

ワクチン接種率向上への取り組み:2008年度から第3、4期を導入した結果、接種対象者年齢層の20歳未満の患者数が大きく減少したが(図3参考)、麻疹排除を達成するためには、各自治体の予防接種率95%達成の努力がさらに必要である。

厚生労働省研究班による全国市区町村へのアンケート調査では、接種率の速やかな把握と未接種者への個別勧奨や就学時健診での接種勧奨が接種率95%以上達成のために有効であったと考えられた(本号11ページ)。

なお、2012年度の第2、3、4期定期接種対象者は2013年3月31日を過ぎると、公費負担対象外となり、自己負担での接種となる。3月の子ども予防接種週間(2013年3月1日金曜日~3月7日木曜日)には、土曜・日曜・夜間にも接種を実施する地域医師会があるので、これらの機会を利用し、年度内に接種を受けることが勧められる。

麻疹検査診断の重要性:2012年の届出患者の4分の1は臨床診断のみによっており検査診断が行われていなかった。検査診断例の過半数は麻疹IgM 抗体検査であった。麻疹疑い例や麻疹IgM 抗体弱陽性例には風疹ウイルス、B19ウイルス、HHV-6、HHV-7、エンテロウイルスなどの感染で発疹を呈した患者が含まれているため(本号14ページ)、麻疹ウイルス遺伝子を直接検出するPCRやウイルス分離による検査診断を併用することが重要である。地方衛生研究所(地研)と国立感染症研究所(感染研)は、PCR検査を主体とした検査診断体制を整備し、2011~2012年の検査診断例のうち4割は地研でPCRによるウイルス遺伝子検出が行われていた(本号16ページ)。医師は適切な時期に検体を採取すること、関係者は検体採取後地研による検査実施までの検体の保存温度にも留意することが求められる(IASR 33: 309-310, 2012)。

今後の対策:2012年のウイルス検出例では、輸入例関連事例のみならず、海外渡航歴のない散発例からも海外で流行中の遺伝子型が検出されている(表2、本号16ページhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-measles.html)。麻疹排除には、平常時から予防接種率を高めておくこと、感染源を明らかにして感受性者対策を徹底し感染拡大を防ぐことが重要である。医療機関、保健所と地研・感染研の連携を強化し、麻疹と臨床診断された患者全例について確実に検査診断を含む積極的疫学調査を行い、「1例出たらすぐ対応」を徹底する必要がある。また、海外から麻疹ウイルスを持ち帰らないためには、成人も海外渡航前に予防接種を完了するよう、旅行者への啓発がさらに必要である。

日本では、2007年12月28日に策定された「麻しんに関する特定感染症予防指針」の再検討が行われ、「2015年度までに麻疹の排除を達成し、WHO による麻疹排除の認定を受け、かつ、その後も麻疹の排除の状態を維持すること」を新たな目標とする指針が2013年4月から適用され、麻疹排除の認定会議も設置される(本号19ページ)。症状・検査所見・予防接種歴・患者との接触歴等を総合的に判断した結果、麻疹が否定された場合は、今後麻疹発生届の取り下げを求めることとなる。日本が麻疹排除状態になったことを証明するためには、適時の検体採取と遺伝子型別による国内に定着した土着株の存在を否定することが必要となる。

 

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