国立感染症研究所

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ノロウイルスGII/4の新しい変異株の遺伝子解析と全国における検出状況

(IASR Vol. 33 p. 333-334: 2012年12月号)

 

2012(平成24)年10月に、新潟県長岡保健所管内の2つの福祉施設で胃腸炎の集団発生があった。今シーズン初の集団発生事例で、この2事例の患者から、遺伝子型GII/4のノロウイルスが検出された。COG2F/G2SKR増幅領域(N/S領域)の塩基配列に基づく系統樹解析の結果、本GII/4株は従来のGII/4変異株とは異なる、新しいGII/4変異株(GII/4 2012変異株、仮称)と思われた。そこで、本変異株のキメラウイルスの可能性および抗原性の変化を推定するために、RNAポリメラーゼ領域(Pol領域)およびP2ドメインを含むカプシド領域(P2d領域)の解析等を実施するとともに、全国の検出状況をとりまとめた。

遺伝子解析結果
新潟県の初発事例由来12-1242株(1210-151-O-1242/O30/We/NO)は、BLAST検索で2012年3月にオーストラリアで検出されたSydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)と最も近縁で、N/S領域(ORF2の5'末端領域281nt)、Pol領域(Yuri22F/G2SKR増幅産物851nt)、およびP2d領域(L1F/L7R増幅産物704nt) の塩基配列の相同性は98~99%であった。これらの株は、N/S領域では他のGII/4株とは異なるクレードを構成し(図1)、Pol領域(図2)、P2d領域(図3)ではBootstrap値100%で他のクレードから分岐したことから、単系統群を構成していると考えられた。

PolおよびP2d領域について他のGII/4株との相同性を詳細にみると、Pol領域では12-1242株は2007a変異株に最も近縁で、P2d領域では2008a変異株(Apeldoorn317/2007/NL)と塩基配列で95%(668nt/704nt)、アミノ酸配列で95%(223aa/235aa)が一致し、2008aに近縁であった。これらの結果から、GII/4 2012変異株は、Pol領域は2007a、P2d領域は2008aのキメラウイルスであると考えられた。ただし、Pol領域の2007aとの相同性は、Osaka1/2007/JP(2007a)と12-1242株では95%(810nt/851nt)の一致率でやや低かった。また、P2d領域の抗原性に関与しているエピトープのアミノ酸配列にGII/4ノロウイルスの2006b、2008aおよび2009a変異株と相違があり(ORF2のアミノ酸部位:368E, 413Tの変異)、抗原性の変異があることが推測された 1-4)。

P2d領域については、12-1242株以外の新潟県の検出株および後述する北海道検出株の計8株について解析した結果、Sydney/NSW0514/2012/AU類似株とWoonona/NSW3309/2012(JX459907)類似株とに大別された。

全国における検出状況
我々は、厚生労働科学研究費補助金・食品の安全確保推進研究事業「食中毒調査の精度向上のための手法等に関する調査研究(研究代表者 砂川富正)」の分担研究の一環としてノロウイルス等の塩基配列データと疫学情報の共有化を実施するとともに、食中毒調査支援システム(NESFD)内のV-Nus Netに系統樹を掲載し、全国の自治体に情報提供を行っている 5)。2012年11月16日までに登録された株を解析したところ、GII/4 2012変異株は北海道、大阪市で1月に採取された検体から最初に検出され(1201-011-O-1187ab Hokkaido株、1201-272-ON-HC12004 Osaka株)、2月に北海道、3月に北海道と沖縄県、4月に大阪市と新潟県、5月に北海道と、2011/12シーズン中に既に食中毒事例、感染症事例から検出されていたことが確認された。その後8月に大阪市、9月に沖縄県で検出された後、10月に入り新潟県、東京都、千葉市、広島市、島根県、大分県、沖縄県で確認され、検出地域が急増している。

以上のようにGII/4 2012変異株は10月以降全国の集団発生等から検出され、急速に活動を活発化している。今シーズンはこの変異株が主流になることが予想され、今後の発生動向に注目する必要がある。なお、GII/4 2012変異株は香港でも8月に検出(Hong Kong/CUHK3655/2012/CHN (JX629458))されており、世界的にも流行が拡大しているものと推定される。

 

 参考文献
1) Lindesmith LC, et al.,  PLoS Pathog 8: e1002705, 2012
2) Lindesmith LC, et al.,  J Virol 86: 873-883, 2012
3) Debbink K, et al.,  PLoS Pathog 8: e1002921, 2012
4) Debbink K, et al.,  J Virol 86:1214-1226, 2012
5) IASR  32: 354-355,  2011

 

新潟県保健環境科学研究所 田村 務 渡邉香奈子 田澤 崇 渡部 香 広川智香
北海道立衛生研究所 吉澄志磨
千葉市環境保健研究所 横井 一
東京都健康安全研究センター 森 功次
大阪市立環境科学研究所 入谷展弘
広島市衛生研究所 藤井慶樹
島根県保健環境科学研究所 木内郁代
大分県衛生環境研究センター 加藤聖紀
沖縄県衛生環境研究所 仁平 稔
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛

 

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