国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.35 No.6(No.412)

播種性クリプトコックス症の発生動向、 2014年第39週~2015年第37週

(IASR Vol. 36 p. 183-184: 2015年10月号)

クリプトコックス症は、クリプトコックス属真菌による感染症で、ヒトは土壌など環境中の真菌の吸引により経気道感染する。皮膚の創傷部位からの感染もある。ヒト-ヒト感染はない。呼吸器や皮膚の感染部位から中枢神経系あるいは全身に播種した場合を、播種性クリプトコックス症という(本号3ページ)。

 感染症法はこれを全例届出義務のある5類感染症に分類し、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない(届出基準には、髄液、血液など無菌的臨床検体からの病原体検出および脳脊髄液のクリプトコックス莢膜抗原陽性が含まれるが、詳細はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-3.html参照)。

糖尿病、悪性腫瘍、血液疾患、腎疾患、膠原病、HIV感染、ステロイド・免疫抑制剤投与などがリスク要因であるが、健常者の発症例もある。播種の要因や中枢神経系への高親和性の機構については完全には解明されていない。治療は抗真菌化学療法であるが、選択される抗真菌薬の種類および投与期間は、宿主の免疫状態や中枢神経系病変の合併の有無などによって異なる。健常者の感染例でも長期治療が必要となる(本号9ページ)。 

原因真菌のCryptococcus 属は、酵母様真菌で厚い莢膜を有し、C. neoformansC. gattii に大別され、両者は遺伝子学的検査により鑑別する。C. neoformans は世界的に広く生息し、ハト、ニワトリなどの鳥類の堆積糞で増える。C. gattii は、オーストラリアなど熱帯・亜熱帯地域で限局的に認められ、ユーカリなどの樹木から検出され、C. neoformans 感染に比べ重症例や健常人発症例が多い(本号4&9ページ)。

わが国では主な原因真菌はC. neoformans である。北米では、近年、致命率が高いC. gattii 感染の環境菌由来の集団感染が報告されているが(本号4ページ)、日本では環境からの分離は報告されていない。しかし、流行地への渡航歴のないC. gattii 感染例が国内で診断・報告され、感染源が不明であったことから(本号5ページ)、国内での疫学調査の必要性が高まり、2014(平成26)年9月19日に「播種性クリプトコックス症」は、感染症法に基づく感染症発生動向調査の全数把握対象疾患(5類感染症)に追加された。

感染症発生動向調査
全数報告となった2014年第39週~2015年第37週までに123例の届出があった(2015年9月17日現在報告数)(図1)。約1年間の患者報告数は人口100万当たり0.97であった。34都道府県より患者報告があり、そのうち報告数上位は、東京都12例、埼玉県11例、愛知県10例、福岡県10例、神奈川県9例、長野県7例、大阪府7例、栃木県5例であった(図2)。都道府県別人口100万当たり患者報告数上位は、鳥取県(6.97)、山梨県(3.57)、長野県(3.32)、和歌山県(3.09)、宮崎県(2.69)、栃木県(2.53)、長崎県(2.16)、福岡県(1.96)である。季節性はなく、毎月10例前後の報告数があった(図3)。

性別年齢分布:患者123例のうち、男性76例、女性47例で(男女比1.6)、年齢中央値は74歳(範囲:20~99歳)、60歳以上が106例と全体の86%(男性の82%、女性の94%)であった(図4)。届出時点で死亡していた例は20例(16%)で、その年齢中央値は77歳(範囲:60-91歳)であった。

推定感染原因・感染経路:患者123例のうち、基礎疾患や免疫抑制剤の使用など免疫不全が記載されたものが105例(85%)〔男性68例(89%)、女性37例(79%)〕、ハトやニワトリなどの鳥類の糞などとの接触が12例(10%)(男性8例、女性4例)、感染原因不明が13例であった(感染原因は重複を含む)。クリプトコックス症はAIDSの指標疾患の一つだが、HIV/AIDS感染が記載された症例は8例(すべて男性、年齢範囲:31-50歳)であった。必ずしもHIV感染例の日和見合併症に多いという訳ではない(本号6ページ)。

症状:発生動向調査届出票に記載された臨床症状・所見をに示す。脳髄膜炎症状を呈する症例が多く、発熱が60%で、意識障害が43%で認められた。呼吸器症状・胸部異常陰影は、それぞれ24%、20%であった。中枢神経病変の所見や痙攣などの重篤な症状の症例も報告された。

診断検査法:血液や髄液などからの真菌の分離・同定が108例(88%)、ラテックス凝集法によるクリプトコックス莢膜抗原の検出が63例(51%)、病理組織診断または髄液の細胞診断で莢膜を有する酵母細胞の証明が34例(28%)であった(診断方法は重複を含む)。なお、本調査では、C. neoformansC. gattii の割合は不明である。

まとめ 
従来の調査では、国内での集団発生事例は認められていない。今後、発生動向調査により、わが国における播種性クリプトコックス症の病像と疫学がより明らかにされ、リスク因子が同定され、予防策の構築、集団発生の早期探知、感染拡大の防止が可能になることが期待される。

クリプトコックス属真菌に感染してから発病するまでの潜伏期間は、数カ月~数年にわたるものもあり、クリプトコックス症は健常者においても重症化することが多いため、医療従事者は本症を見逃さないように注意すべきである。また、コクシジオイデス症(IASR 34: 1-2, 2013)など他の真菌症との鑑別も重要である(本号10ページ)。クリプトコックス症は治療が無効な場合が経験されるため、今後は発症予防のためのワクチン開発や、より効果的な治療法の開発が必要である。

 

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